96.女子高生を助けます
襲われているのは三人の女子高生。
モンスターはオークが五体。
検索さん、あのモンスターもダンジョンが創りだしたものですか?
≪肯定します≫
……念の為、確認しますが彼女達は『本物』ですよね?
ああ、こんな事を質問してしまう自分が嫌だ。
でもダンジョンの仕組みやその悪辣さを考えた場合、どうしても確認しなければいけない。
これから出会う人々は生きている人間なのか、それとも既にダンジョンに取り込まれ私達を油断させるためにわざとモンスターに襲われる人間のフリをしている作り物なのかを。
私の鑑定や、索敵能力では本物の人間か、それとも創られた存在かを判別する事は出来ない。
人なのか、モンスターなのか、それを見ただけでは判断できない。
それに人が悪意を持って人を襲う事もある。
四季嚙妃さんの件でそれを嫌というほど学んだ。
だからこうして検索さんに確認を取らなければいけないのだ。
≪肯定します≫
≪目の前で襲われそうになっている三名はダンジョンに取り込まれていない本物の人間です≫
検索さんの答えに私はほっと胸をなでおろす。
良かった……。
でもそうなると色々気になる事があるけど、先ずは救助が先だ。
「上杉さん!」
「任せろ!」
次の瞬間、上杉さんは超加速し、一気にオークたちと距離を詰める。
「フゴッ……!?」
「遅い!」
突然、目の前に割って入った上杉さんに、オークたちの動きが止まる。
しかし先程の迷宮武者の時は分からなかったが、オークたちの反応や気配は作り物とは思えない。
私達が今まで戦ってきたオークと完全に同じだ。
『鑑定』ですら判断がつかない。
検索さんの情報が無ければ、区別なんてつかなかっただろう。
「まず一匹」
そう考えてる間に、上杉さんがオークを一匹仕留める。
「先輩!」
「分かった! 火球!」
先輩の火球がばらけたオークの内、二体を仕留める。
これで残り三体。
「『魂魄武装』キャタピラー」
私はキャタピラーの魂を消費し、速度を強化。
一気に接近し、残り三体のオークを斬り伏せる。
≪経験値を獲得しました≫
経験値獲得を告げるアナウンス。
ダンジョンの作りだしたモンスターでも経験値は得られるんだね。
でも魔石は落とさない。
オークたちは鎧武者同様、霧となって消えてしまった。
「ふぅ……」
ちょっと緊張したけど、やっぱりオーク程度ならもう集団でも遅れはとらないみたいだ。
なんだかんだで私たちも成長してるんだよね。
ベヒモスとかリヴァイアサンとか刃獣とか……比較対象がおかしいだけで。
「怪我はありませんか?」
「は、はい……。助けてくれてありがとうございます」
三人の中で唯一武器――刀を持った眼鏡の子がお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
「……ます」
残りのおかっぱ頭の子と、三つ編みの子も私達に頭を下げた。
「凄いですね。あのモンスター達をあんなあっさり……」
「いえ、それよりも京都は今、どういう状況なんですか? 私達は京都に来たばかりで色々知らなくて……」
本当は知らない訳ではないけど、そう装っておく。
その方が話しやすいだろうから。
三人は顔を見合わせると、ぽつぽつと事情を話しはじめた。
彼女達は修学旅行で京都に来ていたらしい。
二日目の夜にホテルで休んでいたら急に激しい揺れが起こり、避難したら外にはモンスターがあふれていたとの事。
念の為、日にちを確認したが、私達が知っている日と同じだった。
となれば、ここで疑問が湧く。
世界がこうなってからもう二週間近くが経過するのに、彼女達はどうやって生き延びたのだろう?
オークの集団相手に逃げていたのなら、レベルはおそらく10未満。
いや、ひょっとしたらもっと低いかもしれない。
言ってはなんだが、そんな実力でどうやってここまで生き延びる事が出来たのか?
「リーダーが居たんです。その子が率先してモンスターを倒して、皆を助けてくれて」
「京都がおかしくなってからずっと私達を助けてくれたんです」
「食べ物や、襲われない場所も見つけてくれた……」
凄い、そんな子が居るんだ。
話を聞いてた上杉さんもその子の事が気になったらしい。
「ほぅ、中々骨のある奴だな。名前は何と言うんだ?」
「葵ちゃんって言います。九条葵……。私達のリーダーです」
へぇ、葵ちゃんって言うのか。
私の妹と同じなま――え?
「九条……? あれ、あやめちゃんと同じ苗字だね?」
「む、そう言えばそうだな」
先輩と上杉さんも気付いたらしい。
震える声で、私は彼女達に質問する。
「あ、あなた達、出身はどこ? 学校の名前は?」
「? えっと、東京の――」
「ッ!?」
その子の口から告げられた学校名は私の妹が通っているのと同じ学校名だった。
どうして彼女達の制服を見た時にすぐに気づかなかったのだろう。
どうしてその可能性に思い至らなかったのだろう。
私の妹――九条葵は京都に居ると言う事に。




