90.サモン・エイプ
シェルハウスから外に出ると、辺りは大自然に囲まれていた。
「シェルハウスから見えてたけど、完全に山の中だね」
「ですね。人の往来もない完全にザ・自然って感じです」
おじいちゃん、おばあちゃんが山菜取りに行くような感じの山の中。
ここが検索さんの教えてくれたポイントだ。
「……でもモンスターの姿が無いよ? 検索さんが教えてくれたポイントならもっと大量にモンスターが居ると思ったけど」
確かに先輩の言う通り、今はモンスターの姿はない。
でも検索さんの言う通りなら、もうすぐ姿を現すはずだ。
「ウキキ……」
「「「「!?」」」」
頭上から鳴き声がして、私達は上を見上げる。
一体の猿のモンスターが私達を見下ろしていた。
(成程……確かに検索さんの言っていた通りの見た目だ)
猿のモンスターは九州で出会ったクレイジー・エイプと違い普通の日本猿のような見た目をしていた。
ただ違うのは、顔に奇妙なペイントを施し、手には先輩が使うような捻じれた杖を持っているという事。他にも首や手首に装飾品のようなモノも付けている。
秘境のシャーマンのような見た目の猿だ。
「キキ……ウッキー!」
猿のモンスターが吠え、杖を振るうと、地面から奇妙な紋様の魔術陣が出現した。
そこから這い出てきたのは大量の猿のモンスターだ。
その数は十体。
「やっぱり検索さんの言っていたモンスターで間違いなさそうですね」
あの猿のモンスターの名は『サモン・エイプ』。
自分と同じ猿のモンスターを召喚するモンスターだ。
「それじゃあ皆、打ち合わせ通りに!」
「うん、あの木の上のモンスターには手を出さずに――」
「召喚されたモンスターだけを倒せばいいんだな!」
「「「「「ウッキイイイイイイイ!」」」」」
私達が戦闘態勢に入ると同時に、大量の猿のモンスター達が襲い掛かって来た。
「えいっ」
「ウッキャァー!」
私はソウルイーターを振りかざし、一体の猿を斬り伏せる。
≪経験値を獲得しました≫
頭の中に流れるアナウンス。
検索さんの言ってた通りだ。
サモン・エイプの召喚したモンスターは、普通のモンスターと同じ経験値が手に入る。
違いは魔石を落とすか、落とさないかだけ。
三木さん――料理人がパーティーに居る場合は死体を残すか、残さないかって違いもあるけど。
「火球!」
「ふんっ!」
「みゃぁー!」
「きゅー」
先輩の火球が、上杉さんの拳が、ハルさんの爪が、リバちゃんの水刃が瞬く間に召喚されたモンスターを倒してゆく。
「ウキ……ウッキィィィィ!」
すると部下を倒されて怒り心頭のサモン・エイプは更に複数の魔術陣を展開、さらに大量のモンスターを召喚する。
その数は三十体。
――検索さんの言ってた通りだ。
サモン・エイプは召喚したモンスターを倒されれば、倒される程ムキになって更に大量のモンスターを召喚する。
逆にそれがこっちの狙いだとも知らずに。
そう、私達の狙いはサモン・エイプが召喚したモンスター達を倒して大量の経験値を得る事だ。
これまでの虫系や茸系のモンスターはその一帯のモンスターを倒してしまえば、また次のポイントに移動しなければいけなかった。
でもこのサモン・エイプなら本体を倒さない限り、何度も湧くモンスターを倒して無限に経験値を得る事が出来る。
まあ、正確に言えば召喚するMPには限度があるし、先輩や上杉さんが進化できるLVまで上がれば、実入りが少なくなって効率も落ちるんだけど。
ともかく、二人が進化出来るLVまでなら、この方法を使えば効率的に経験値が手に入るのだ。
「ウキィ……キキィィ……」
どれだけモンスターを召喚しても一向に傷付かない私達に、サモン・エイプの苛立ちは増してゆく。
「ウキィ!」
「ウッキキ! ウッキー!」
「ウキャキャ!」
すると、更に三体のサモン・エイプが増援にやってきた。
「ウッキィー♪」
最初のサモン・エイプは増援に喜び、私達に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
更に数を増やせば勝てると思ったのだろう。
実際、召喚できる数が四倍に増えた訳だからね。
≪計画通りです≫
はい、勿論これも検索さんの想定範囲内です。
むしろ早く増援来ないかなーくらいに考えてました。
「先輩、今度は火球ではなく広範囲のヤツでお願いします」
「うん」
「上杉さんは私と一緒に先輩の撃ち漏らした奴の相手を」
「了解した」
「ハルさんは出来るだけたくさんのモンスターに幻惑スキルをお願いね」
「みゃぅー」
「リバちゃんは……適当に暴れちゃって」
「きゅー♪」
それぞれに指示を出し終えると、大量のモンスターが召喚されるところだった。
数は百体を越えているかもしれない。
普通に考えればその数に圧倒されるんだけど、正直数の暴力なら今までも何度も経験してきたし、個体の威圧感ならベヒモスや刃獣の方が遥かに上だ。
私達は臆することなくモンスターの群れと戦い続けた。
――それから数時間後。
「ふぅー疲れたぁー。ようやくLV29まで上ったぁー」
「私もLV28だ。このペースなら明日にはLV30に上がれるな」
「流石に疲れましたね……」
「お疲れ様です、皆さん。お茶でもどうぞ。おやつもありますよ」
「ありがとうございます、三木さん」
私達は三木さんの淹れてくれたお茶とお菓子を頂きながら一息ついていた。
倒したモンスターの数は数百体に及ぶだろう。
LVが上がるにつれて必要な経験値も多くなるけど、このペースなら明日には二人ともLV30に上がれそうだね。
「ウキィ……」
「キィー……ィィー」
「ヒー、ヒー……」
「キィ……」
一方で、完全にMPを消費し尽くしたのか、サモン・エイプ達も木の上で休んでいた。
のんびりと休憩をする私達を恨めしい目で見つめてくる。
倒せなかったのが余程悔しいんだろうね。
「しかしシェルハウスの中から見ていましたが、よくあれだけの大軍を相手にこれだけ長い間戦えましたね」
「まあ、大変でしたけど、ただ数が多いだけですからね。もっと向こうが連携して向かって来れば話は別でしたけど」
サモン・エイプは大量のモンスターを召喚するのが強みだが、逆を言えばそれだけしかできない。
召喚されたモンスターは戦術も何もなく、ただ突撃してくるしか能がないのだ。
ただひたすら数で押し切る事しか出来ないのなら、いくらでも対策は出来る。
「成程……。それにしても申し訳ないです。自分だけ、安全なシェルハウスの中で見てるだけなんて」
「それは仕方ないですよ。三木さんは戦闘職じゃないんですから」
「そうだよ。それにこうして美味しいお菓子も作ってくれてるし。こんな美味しいお団子、三木さんにしか作れないよ」
「そうだな。……うん、美味い」
「そう言って頂けると嬉しいです。お代わりもあるので―――あ」
「ウッキーッ!」
笑みを浮かべた三木さんがお代わりの団子を取り出した瞬間、サモン・エイプの一体が凄まじい速さで、三木さんからお団子の乗ったお皿を強奪した。
完全に油断していた私達は反応が遅れ、まんまとお団子を奪われてしまった。
「あー! 泥棒―!」
「キーッ♪ ウッキッキー♪」
サモン・エイプはお団子の乗ったお皿を持ったまま木の上に登り、ものすっごい小憎らしい笑みを浮かべて私達を見下ろした。
他の猿たちも良くやったとばかりに喜んでいる。
どうやらお団子を奪って私達に一矢報いたと思っているのだろう。
そのままサモン・エイプたちはどこかへ逃げて行った。
「あー、お代わりがぁー!」
「おのれクソザル共め……! 皆殺しにしてやる……!」
「二人とも。落ち着いて下さい。お団子ならまた作りますから」
「まあ、油断してシェルハウスに戻らなかった私達にも非はありますからね……」
私も思わず顕現させてしまったソウルイーターをしまう。
ちょっと残念だが、それよりも三木さんに怪我が無かった事を喜ぼう。
私達は外の見張りをメアさんに任せて、シェルハウスへと戻った。
そして次の日――、
「ウッキ♪」
「ウキィ♪」
「ウッキー♪」
「ウッキッキ♪」
四体のサモン・エイプがお皿を持って木の上で待機していた。
皿を鳴らして必死にこちらにアピールしている。
……もしかしてこのお猿さんたち、お団子の味が気に入ったのだろうか?
サモン・エイプの召喚狩りで上がるLVは精々30までが限度です
進化後だと数千匹倒してようやく1上がるかどうかなので、逆に効率は下がります




