89.組み合わせは大事
まず私達の現在のLVを確認しておこう。
私が稀人LV1、先輩がLV22、三木さんがLV14、上杉さんがLV21、ハルさんが猫又LV17、メアさんがナイトメアLV20、リバちゃんがリヴァイアサンLV18だ。
≪京都に到着するまでの間にヤシマ シチミ、ウエスギ ヒナタ、ハルを進化させることを推奨します≫
検索さんの話では、先輩、上杉さん、ハルさんが京都に着くまでに進化可能なLVに達するとの事だ。
これから京都に到着するまでの間に経験値を稼げるエリアがいくつかあるらしく、そこでレベルを上げる予定だ。
先輩と上杉さんはLV30、ハルさんは猫又LV20を目指す。
残念ながら、三木さん、メアさん、リバさんはまだ時間が掛かるらしく進化できるのは京都に到着した後になるらしい。
正確には、メアさんはもう進化可能なLVなんだけど、他に条件があるらしくそれを満たさないと進化出来ないそうだ。
≪ナイトメアは進化するのに特殊な条件が必要になります≫
≪京都のダンジョンでなければその条件を満たす事が不可能です≫
と言う事らしい。
メアさんが進化できるという事は、ボルさん、ベレさんのナイトメアさん達も進化できるという事だ。同じ種族で、しかもLVも同じらしいからね。
ボルさん達にそれを伝えたら、かなり喜んでいた。
「進化かぁー。私が進化するのはあやめちゃんの『稀人』とは違う種族なんだよね?」
「そうですね」
「うぅ、不安だなぁ……」
「大丈夫ですよ。私だってこうして進化しても変わらないんですから、先輩だって大丈夫ですよ。……たぶん」
「今、たぶんって言ったよね!? なんで最後にちょっと不安がらせるような事言うの!?」
「あはは、冗談ですよ、冗談」
「うぅ~」
検索さんによれば、先輩の最も適性のある種族は『魔人』。
魔力に優れ、強力な魔術を使う事が出来る種族らしい。
先輩の今の戦闘スタイルにぴったりの種族だ。
それに『魔人』への進化は、先輩の持つ魔杖ソウルイーターの拡張条件の一つでもあるからね。
見た目は普通の人間と変わらないってのもありがたい。
進化先によってはまるっと違う見た目になる種族もあるらしいから。『魚人』とか『機械人』とか。特に『魚人』なんて男性だと上半身が魚になるらしい。……絶対に嫌だ。
「ハルさんも頑張ろうねー」
「みゃぅー」
足に擦りついてくるハルさんを抱き寄せる。
でろーんとハルさんはお餅みたいになって私に体を預けてきた。
猫ってどうしてこんなに体が溶けるんだろう? 不思議。
検索さんによれば、ハルさんの猫又の上位種族は『猫魈』。
尻尾が三本になり、より強力な幻覚系のスキルや特殊なスキルが使えるようになるらしい。
とはいえ、いまだにハルさんのステータスを全部見る事が出来ない。
ぼちぼち鑑定スキルもLV上げていかないとなぁ……。
「進化か……。なあ、九条、どうして私の職業が『農場主』なのだ? いや、食糧事情が大事なのは理解出来る。だが自分で言うのもなんだが、私の強みはこのステータスの高さだろう? 進化先である『天人』の方は納得出来るが、職業の方はどうして戦闘系ではないんだ?」
「それは昨日、ちゃんと説明し――あ、そうか、上杉さん酔ってましたもんね。話半分で覚えてないんでしょう?」
「うっ……、その、すまん。もう一回教えてくれ」
「分かりました。実際私も検索さんに理由を聞くまではちょっと理解出来なかったので」
私は改めて上杉さんに理由を話す。
「えーっと、結論から言えばこれから進化した時に出る職業では上杉さんの強みを十分に発揮できないんです」
「……? 戦士や冒険者では駄目なのか?」
「それも悪くはないんですが、現状だと多少戦術の幅が広がる程度で、大して強くならないんですよ。上杉さんのステータスが高すぎるので、並みのスキルじゃあってもなくても変わらないんです」
「成程……」
上杉さんは『絶戮』、『修羅』、『猛攻』というステータスを爆上げする三つの強力なスキルを持っている。おまけに『絶戮』には自分に不利な状態異常効果も完全無効化するという効果まである。
多少の耐性スキルや、戦闘スキルが手に入ったところで大して意味はないのだ。
「なので検索さんが出した結論は職業の『組み合わせ』です」
「組み合わせ……?」
「はい。条件を満たせば、職業は複数取得することが可能なんです。そして職業、スキルの組み合わせ次第でより強力な効果が発揮できるんです」
今の所、私達の中で職業を二つ以上持っているのは私だけだが、条件さえ整えば誰でも二つ以上の職業を取得することが出来る。
しかもその組み合わせ次第ではより強力な力を生み出せるのだ。
例えば、『狙撃手』と『引き籠り』。『引き籠り』は単独ならステータスが弱体化し、屋外ではさらに運動能力が落ちるというとんでもない職業だが、室内なら『認識阻害』が発動し、敵に気付かれにくいという特性がある。これに『狙撃手』を組み合わせることで敵に全く認識されない強力な遠距離攻撃が可能になる。
他にも『狂戦士』と『祈祷師』、『追跡者』と『事務員』、『召喚士』と『生徒会長』など、戦闘職と非戦闘職の組み合わせはかなり多いらしい。
役に立たないと思われる非戦闘系の職業にもきちんと意味はある訳だね。
「つまり私の『農場主』も二つ目の職業を取ることが前提だと?」
「そうです。むしろその二つ目の職業が『本命』ですね。上杉さんのステータスを生かし、更にそれを強力にする事が出来るらしいんですが、いくつかの条件を満たさないと取得できないんです。それなら先にその職業と最も組み合わせがいい『農場主』を先に取得しておこうというのが検索さんの考えです」
「成程、納得した。しかしこうして説明されなければ『農場主』なんて絶対に選ばないだろうな。改めて九条のスキルの凄さを思い知らされるよ」
「ですよね。私もそう思います」
検索さんのように事前に教えてくれなければ、職業の組み合わせなんて絶対に思い付かないだろう。特に『引き籠り』なんて余程運が良くなければ二つ目の職業――それも『狙撃手』みたいな相性のいい職業を取得するなんて不可能だ。
『――む、外のナイトメアから連絡が入った。そろそろ目的地に到着するそうだ』
「分かりました。それじゃあ、準備しますね」
検索さんが教えてくれた京都までの道中で効率よく経験値を稼げるエリアに到着したようだ。
私達は準備を済ませると、シェルハウスを出た。
よし、頑張ってレベルアップするぞー。
意図せずガチャで最適な組み合わせを引いた猛者が居るらしい……




