86.進化が可能になりました
淡路島を抜けると、いよいよ本州兵庫県に到着だ。
とはいえ、当面の目的地は京都なのでここからまたしばらく移動することになるけど。
神戸市から京都まではだいたい八十キロくらいだっけ?
モンスターとの戦闘や、メアさんの速度も考えれば到着まで二日くらいかな。
移動はメアさんや他のナイトメアさんが交代で行うので、その間、私達はシェルハウスの中で休憩中だ。
ボルさんやベレさんもくつろいでいる。
座布団に座る骸骨騎士……うん、凄くシュールな光景だ。
飲めないのに何故か湯呑を持っているのもシュールさに拍車を掛けている。
ちなみに外に居るナイトメアさんとは思念が繋がっているので、何かあればすぐに知らせてくれることになっている。
三木さんに入れて貰ったお茶を飲みながらくつろいでいると、先輩が口を開く。
「それにしても京都かぁー。行くの、かなり久々かも」
「先輩は京都に行ったことあるんですか?」
「うん、中学の時に修学旅行で。確か五月だったかなぁー。今くらいの時期に行ってたよ」
「へぇー、そうなんですね」
私の修学旅行は北海道だった。
京都は行った事が無いので初めてだ。
あれ? そう言えば葵ちゃんも今年修学旅行って言ってたような……?
「みゃぁ~」
ハルさんが膝の上に乗って来たので、私の思考は中断される。
撫でてあげると、ハルさんは気持ちよさそうな声を上げた。
「ところでそろそろ詳しく教えてくれませんか? 京都の現状や剣聖になるのに必要なアイテムとやらも」
「ああ、そうですね」
三木さんに促され、私は検索さんに調べて貰った情報を皆に話す。
「えーっとですね、検索さんによると京都は今『ダンジョン』と呼ばれる特殊な状態になっているらしいんです」
「「「ダンジョン……?」」」
先輩、三木さん、上杉さんが首を傾げる。
『ほう、ダンジョンか。懐かしいな』
『お、この世界にも居やがるのか。いいな』
一方で、ボルさん、ベレさんはどこか懐かしそうな雰囲気だ。
向こうの世界では割とメジャーな存在なのだろうか?
「ダンジョンってあのゲームとかに出てくるあのダンジョン?」
「すいません。私ゲームはあまり明るくないので……」
あのダンジョンと言われてもどのダンジョンか分かんないです。
なので検索さんの情報をそのまま引用させてもらう。
「えっと、検索さんによれば、ダンジョンはモンスターの一種なんです」
「ダンジョンってモンスターなの!?」
驚く先輩。
『ダンジョンはモンスターだろう?』
『常識だろ。他の何だってんだよ』
一方でボルさん、ベレさんにとっては当たり前の認識のようだ。
「はい、ボルさんたちの言う通り、ダンジョンとはモンスターの一種らしいんです。空間を操って迷路を作りだして、侵入してきた生き物を殺して栄養源にする。勿論、ただ待ってるだけじゃ誰も入って来ないので、人が喜びそうなアイテムやモンスターを誘い込む仕掛けを生み出して誘い込むそうです」
まあ、刃獣のように剣のモンスターが居たんだし、迷路みたいなモンスターが居ても不思議じゃない……と思う。
「ハエ取り草みたいですね」
「あ、確かに」
生態としては近いのかもしれない。
「ダンジョンには空間浸食型と、空間生成型の二種類がいるみたいで、京都に現れたダンジョンは空間浸食型――つまり京都の町そのものに寄生して、町を巨大な迷宮に作り替えたらしいんです」
「京都の町そのものが巨大なダンジョンになってるんですか……。想像がつきませんね」
『あやめに教えて貰ったが京都市とやらの規模からして、寄生したのは相当強力なダンジョンだろう。であれば、剣聖に必要なアイテムがあるというのも頷ける。強いダンジョンほど、強力なアイテムを作りだす事が出来るからな』
ボルさんの言葉を引き継ぐように、私は続ける。
「ボルさんの言う通りです。ダンジョンは通常では手に入らない珍しいアイテムも作る事が出来る。剣聖になるためのアイテムもダンジョンしか生成することが出来ないんです」
まあ、例外的な方法として職業『引き籠り』のスキル『ガチャ』で手に入れる事も出来るらしいけど、検索さんによれば天文学的な確率らしい。余程の強運でなければ当たらない。つまり実質不可能という事だ。
「それでそのアイテムって何なの?」
「それは――」
私は検索さんに聞いたアイテムの正体をみんなに伝える。
「……成程、確かに必要と言えば必要だな……」
「なんかもっと特別なアイテムを想像してたけど、割と現実的な物だね……」
「でも面白そうですね。私も興味あります」
上杉さん、先輩、三木さんの反応はそれぞれ。
『ふぅむ……剣の道を究めるのならばそれもまた必要になるか』
『いや、剣、関係ねぇだろ……』
ボルさんとベレさんの反応は正反対。
まあ、実際私も最初に検索さんから聞いた時は「何でこれが必要なの?」って感じだったし。
とはいえ、検索さんが言うんだし間違いないんだろうけど。
「アイテムが京都のどこにあるかも分かってます。あとはそこまで取りに行くだけですが……」
『町一つを飲み込むほどのダンジョンだ。容易くはあるまい。道すがらレベルも上げるのだろう?』
「はい、勿論です」
ソウルイータの解放条件や進化の為にもレベル上げは必須。
それにもうすぐLV30だ。
頑張らないと。
『ミャァァー!』
すると丁度いいタイミングで外に居るメアさんから合図があった。
モンスターを発見した時の合図だ。
私達はすぐに準備を済ませ、外に出た。
そして――、
≪経験値を獲得しました≫
≪クジョウ アヤメのLVが29から30に上がりました≫
≪種族LVが最大値に達しました≫
≪上位種族が選択可能です≫
モンスターを倒し、私は遂にLV30に到達した。
さっそくステータスを開いて進化の項目を確認する。
『進化先』
・上人
・蛮女
・鬼人
・虫人
・稀人
・天人
・魔人
・新人
候補先は全部で八つ。
とはいえ、『剣聖』になれる種族は一つだけだ。
私は迷うことなくその種族を選択した。




