85.剣聖になる為に
刃獣は去った。
とてつもない爪痕を残して。
「上杉さん、ボルさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……大丈夫だ」
『問題ない』
上杉さんはステータスの高さが幸いし、ボルさんもダメージの大部分を眷属のスケルトンに『肩代わり』してもらったおかげで何とか命を取り留めた。
最悪、ハルさんの『変換』で治療して貰うつもりだったけど、二人とも無事で良かった。
『しかし刃獣と約束か……。とんでもない奴に眼を付けられたな』
「はい……」
助かるためにはそれしか方法が無かったとはいえ、とんでもない約束をしてしまった。
『半年で剣聖……。不可能だ。アガですら辿り着けなかった魔剣の極致だぞ?』
ボルさんの言う通りだ。
たった半年で剣聖……。果たして私にできるのだろうか?
重い空気が流れる中、無機質なアナウンスが流れる。
≪――可能です≫
それは聞き慣れた検索さんの声。
検索さんははっきりとそう告げた。
≪通常の手順より複雑かつ困難になりますが、不可能ではありません≫
で、出来るの……?
でも仮に半年で剣聖になれたとしても、あの刃獣と戦わなきゃいけないんですけど……。
私なんかが勝てるんでしょうか?
≪可能です≫
≪剣聖と並行して、刃獣対策も同時進行で行います≫
≪今回のような結果には絶対にしません≫
おおぅ、何か検索さんが予想以上に燃えている。
一体どうしたんですか?
≪……今回のルート選択はこちらの不手際です≫
≪刃獣の思考パターン、行動予測がシステムの想定を遥かに超えていました≫
≪二度とこのような不手際は起こしません≫
どうやら検索さんなりに今回の事については思うところがあったようだ。
でも逆を言えば、それだけ刃獣が規格外の存在だったという事。
検索さんの想定を上回るってとんでもない事だ。
でも頼りにしてますよ。検索さんだって、私の大事な仲間なんですから。
≪……最善を尽くします≫
はい、よろしくお願いします。
以前よりちょっと検索さんが素直になってくれた。
「ボルさん、私剣聖になれるみたいです」
『……は?』
「検索さんが剣聖になる方法、刃獣に勝つ方法を調べてくれました。だから大丈夫です。きっと」
『……』
ボルさんは一瞬ポカンとしたが、やがてクツクツと笑い始める。
『全く、本当にとんでもないスキルだな。剣聖になるだけでなく、あの刃獣に勝つだと……?そんな事を言われれば、嫌でも協力したくなってしまうではないか。いいだろう、我々も存分に力を貸そう。君たちの行く末を見てみたくなった』
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
差し出された白い骨だけの右手を、私は再び握りしめた。
その後、私達は町で待機していた先輩たちと合流した。
最後の刃獣の攻撃に巻き込まれていないか心配だったが、先輩たちは無事だった。
ベレさんとリバちゃんが守ってくれたらしい。
事情を説明すると、先輩が思いっきり抱きついて来た。
「よがっだー! あやめちゃん無事で良かったよー!」
「先輩こそ、無事で何よりです。三木さんも無事で良かった」
「流石にちょっとびっくりしました」
……三木さん、それは肝が据わり過ぎです。
『俺らは無事だったが、周りの被害がでけぇ。助けるんなら、さっさと動いた方が良いぞ』
確かにベレさんの言う通り、鳴門市は壊滅的な被害を受けてしまった。
瓦礫の下敷きになってる人も多い。
「私達の都合で関係ない人たちまで巻き込んでしまいましたね……」
「ぐすっ……あやめちゃんは悪くないよ! 悪いのは全部、その刃獣ってモンスターなんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「ともかく救助を急ぎましょう。助けられる命なら、助けるべきです」
「そうですね」
三木さんの言う通り、まずは負傷者の救助が先だ。
するとリバちゃんが元のサイズに戻った
「きゅきゅー!」
「どうしたの、リバちゃん?」
リバちゃんはまるで「任せて」とでも言うように大きく息を吸い込む。
「きゅーーーーーーー!」
そして口から大量の水を吐きだしだ。
水は瞬く間に濁流に代わり、鳴門市へと流れ込んでゆく。
「ちょ――リバちゃん、何やってるのさ! そんなことしちゃ駄目だよ!」
この状況で町を水浸しにするなんてとんでもない。
だがリバちゃんは水を出すのを止めない。
すると三木さんが驚きの声を上げた。
「いえ、九条さん見て下さい! 水が瓦礫をどかしています!」
「え……?」
それは驚くべき光景だった。
リバちゃんの水によって瓦礫が撤去され、埋もれていた人たちが浮かび上がって来たのだ。
それも負傷者はシャボン玉のような薄い膜に守られている。
しかもその傷が少しずつ治っていくではないか。
「もしかしてあのシャボン玉もリバちゃんのスキル?」
「きゅい」
リバちゃんはこくりと頷いた。
水とシャボン玉は瞬く間に町一つを飲み込み、負傷者を救助し、手当てしてゆく。
その余りの手際に、私達は茫然と立ち尽くしてしまった。
『……リヴァイアサンは元々多彩なスキルを持っているとは聞いてはいたが回復スキルまで……それもこれほど広範囲とは。末恐ろしいな……』
「きゅー、きゅきゅー♪」
リバちゃん、ドヤ顔である。
でも本当に凄い。仲間になってくれてよかった。
リバちゃんのおかげであっという間に鳴門市の人達を助ける事が出来たのだった。
不幸中の幸いというべきか、鳴門市近くの自衛隊は機能しており、スキルを持った隊員さんも多かった。
とはいえ、謎の水とシャボン玉によって次々に救助されていく光景は彼らにとっても驚きだっただろう。
「一体誰の仕業だ?」と隊員たちは口々に呟いていた。
リバちゃんの事を説明するわけにもいかないので、後の事は彼らに任せ、私達は先を急ぐことにした。
何せ私達には時間がない。
半年以内に私は剣聖にならなければいけないのだから。
検索さんに調べて貰った『剣聖』になるための条件は大きく分けて四つ。
一つ目は魔剣ソウルイーターを最終段階まで解放する事。
二つ目は一度進化した上で、更にある特殊な種族に進化する事。
三つ目はあるアイテムを入手する事。
四つ目は上三つの条件を満たしたうえで、職業が『剣帝』、『剣王』、『剣姫』のいずれかに就いている事。
この条件を満たすことで、最上級職『剣聖』になる事が出来る。
本来なら他にも色々条件があるみたいなのだが、半年で『剣聖』になるにはこの方法しかないと検索さんは言っていた。
一つ目と二つ目に関しては、今まで通りモンスターを倒していくことで達成できる。
問題は三つ目だ。
あるアイテムを手に入れなければ、剣聖になる事は絶対にできない。
そしてそのアイテムがある場所は――京都。
検索さんによると、京都は現在、『ダンジョン』と呼ばれる特殊な状態になっているらしい。
剣聖になるためのアイテムもそこに眠っている。
次の目的地は京都だ。
東京に居る家族と再会する事、そして剣聖になって刃獣に勝つ事。
どちらも諦めるつもりはない。
私は仲間と共に次の目的地を目指すのだった。
読んで頂きありがとうございます
これにて第二章四国編が終了となります。長かった……(投稿期間的に
という訳で次の舞台は京都ダンジョン編となります
ちなみに本編はペオニー戦に向けて準備してる辺りです
あっちもこっちも密度が濃い……
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