79.再びのレベリングです
『ア、アガがソウルイーターの中に居ただと……?』
『嘘だろ……?』
ソウルイーターとの対話を終えて、起こった出来事を報告するとボルさんとベレさんは凄く驚いていた。
「全く予想外だったんですか?」
『当然だ。そもそもソウルイーターの所有者が武器に魂を残すなど聞いたことが無い』
『ソウルイーターの所有者ってのは、いわば収納した魂たちの恨みの象徴だからな。そんなことすりゃ、中の魂たちからどんな目に合うか分かったもんじゃねぇ』
そうなんだ……。
でもアガさんはそんな感じじゃなかったけどな。
なんというか、普通にフレンドリーな感じに他の魂たちと話をしていた気がする。
『まあ、色々と言いたいことはあるがとりあえず対話を終えたのならばそれでよい。それにまだ条件は残っているのだろう?』
「あ、はい」
魔剣ソウルイーターの第二解放の条件は三つ。
対話は終わったから、残りは戦闘と魂の捕食だ。
戦闘も魂の捕食もレベル上げと並行してできるけど、問題はその量だ。
検索さん、魂の捕食ってあと何体くらいモンスターを倒せばいいんですか?
≪残り八百五十体です≫
は、八百五十……!?
そう言えば、最初の拡張の時に必要な魂も千体だったっけ?
あの時は事前にストックされてた魂が相当あったからあっさり達成できたけど、今回はなかなか時間が掛かりそうだ。
じゃあ検索さん、『魔物殺し』や『不倶戴天』を取得した時みたいに短時間で大量のモンスターを倒せる場所とかってありませんか?
出来ればクラーケンとか強いモンスターに襲われない範囲で。
≪ここから東へ四十㎞ほど向かった三好市周辺の山間にはマイコニドなどの菌糸系モンスターやキャタピラーなどの虫系モンスターが多数生息しています。この二種は繁殖力も高く、種類も多種多様。その数は既に数千匹に達しています≫
あー、はいはい。
また虫ですか、そうですか。
それにキノコ……。やっぱり数の多いモンスターって限られてくるよね。
うん、なんか分かってました。
どうやらまた心を殺す時が来たみたいだ。
「えーっと、ボルさん実は――」
という訳で、私達は三好市へ向かった。
まあ、どうせ道中通る場所だしね。うん、やだなぁ……。
とはいえ、もう日が暮れているのでレベル上げ兼ソウルイーターの条件達成は明日に持ち越しとなった。
そして次の日――、
「火球! 火球! 火球! うわぁぁああああんっ! あやめちゃん、あやめちゃーん! コレ、無理だよ! 倒しても倒してもキリが無いよー!」
「先輩頑張ってください! 先輩のスキルが頼りなんです!」
「そうは言っても――うわぁあああああ! あの虫、なんか白いドロッとした液吐いたー!」
「先輩気を付けて下さい! それ多分、ワイズマンワームの服だけ溶かす体液です!」
「いやああああああああああああああああああああああ!」
とまあ、こんな感じで現場は凄い感じになっていた。
無事に四国中央市を抜け、三好市入ったのだがそこで待っていたのは想像以上の虫系モンスターの大軍だった。
道路沿いを歩いてるだけで、レッサー・キャタピラーやワイズマンワーム、他にも大きなハエや、蜘蛛、蟻のモンスターなんかも大量に出てきた。
とはいえ、これだけ大量に出て来るのに勿論理由があって。
『ほらー、どんどん出てこいモンスター共―』
そう言いながら、ベレさんは槍を持って奇妙な踊りを踊っていた。
あの変な踊りはベレさんの持つスキル『魔物寄せ』と呼ばれるスキルらしい。
そのスキルに釣られてこうして大量のモンスターが集まっているのである。
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クジョウ アヤメのLVが23から24に上がりました≫
「どうやら町中よりも、こうした自然の中の方がモンスター達の生存競争は活発なようですね。野生動物もレベルを上げてるのか気になるところですね……。よいしょっと」
「三木さん、本当に冷静ですね……」
三木さんはいそいそとモンスターの死体――主にワイズマンワームの回収に勤しんでいた。……もしかしてアレ、今晩の私達の夕食に出たりしないよね?
「これは私達は無理そうですね……。リバちゃん、どうぞ」
「きゅいー、きゅきゅいー♪」
その後ろを付いて回るようにリバちゃんが残った死体を食べている。
子供って言ってたし育ち盛りなのか、凄いいっぱい食べてる。
「みゃぁー」
「ん? 何、ハルさ――わぁぁぁあああああっ!?」
振り向くと、大きなハエのモンスターの死骸を咥えたハルさんが居た。
ぽてっと私の足元にハエの死骸を置くと、凄くキラキラした目で私の事を見てくる。
……うん、褒めて欲しいんだろうけど、正直やめてほしい。
「え、偉いねーハルさん。でも、死骸は持ってこなくても大丈夫かなー」
「みゃっ!」
ハルさんは「わかったー」と返事をすると、モンスターとの戦闘に戻って行った。
あれ、多分分かってないな。
『ミャ、ミャー』
「……メアさんも張り合わなくていいよ……」
メアさんもハルさんに対抗してワイズマンワームとか、レッサーキャタピラーの死骸を私に献上してくる。
ちょっと控えめな感じに渡してくるのが可愛いけど、別に真似しなくていいよ。
というか、ここ最近メアさんの猫化が著しい。
『ふーむ、余程猫の姿が馴染んだのだろうな』
「ボルさん、真面目に考察しないで下さい……」
襲い掛かってくる虫系モンスターを斬り伏せながら私はボルさんと会話をする。
戦いながら会話できるって嫌な慣れだなぁ……。
そんなこんなで戦闘をこなしていくと、戦闘回数も魂の収納数もぐんぐん上がっていく。
戦闘回数が、群れじゃなくて一匹につき一回カウントなのと、パーティーメンバーが倒してもカウントされるのが嬉しい。
先輩のおかげで、私も大助かりだ。
「襲い掛かってくるとは言え、これでは完全に弱い者いじめだな」
「上杉さん、そこは割り切りましょう」
上杉さんは虚空を蹴ったり殴ったりするだけでモンスターを倒していた。
ステータス任せの力技はもはやスキルの領域に入ってる。
ちなみに上杉さんは私達のパーティーには入っていない。
というか、入れなかった。
『無職』の弊害らしい。
職業についてる――働いてる人じゃないとパーティーメンバーに入れて貰えないってなんか妙に世知辛いなぁ。
この法則は人間だけで、ハルさんやメアさんとかには適用されないようだ。
さて、だいぶモンスターを倒したけど、達成状況はどんな感じになってるかな?
≪魔剣ソウルイーター 第二解放 条件≫
≪魔剣ソウルイーターとの対話を行う 達成率100%≫
≪魔剣ソウルイーターへの魂の捕食 達成率72%≫
≪魔剣ソウルイーターを使った戦闘を100回行う 達成率100%≫
おお、戦闘の方が100%になってる。
魂の捕食も70%を越えてるし、これは今日中どころか午前中の内に達成できそうだ。
「レベルも良い感じで上がってるし、もしかしたら今日中にLV30に上がれるかも」
『ん? 上がれば何かあるのか?』
ボルさんが訊ねてくる。
「あ、はい。LV30になれば、『進化』が出来るらしいんです」
これは検索さんに調べて貰った情報だ。
私達は職業とは別にLV30に上がると『進化』する事が出来る。
種族は様々だが、総じて強力な力を手にする事が出来るらしい。
選べる種族は、LV30に上がるまでの倒したモンスターや、得たスキル、職業、性格や性別、パーティーメンバー、そして特定の行動によって変わってくる。
『魔物殺し』や『不倶戴天』のような特殊な条件を満たさないと取得できないスキルのように、特殊な条件を満たさないと進化出来ない種族も存在するのだ。
『進化』と言っても、別に人間でなくなる訳ではなく、あくまでも人間のままより強い力を手に入れる感じだ。……まあ、進化先によっては完全に人間辞めちゃってるのもあるけど。
『ほう、それは良い事だ。この世界がこうなってまだ七日だ。もしかしたら、あやめが最初に進化した人間になるのではないか?』
「残念だけど、それはないみたいです。検索さんによれば、もう進化した人が居るみたいなので」
『なんと……』
「えっと、正確にはまだ進化してないみたいなんですが、もうLV30に上がって、いつでも進化できるって状態みたいですけど……」
ボルさんは驚きの声を上げる。
私も驚いたんだけど、実際に居るのだから仕方ない。
『それはまたとんでもない奴が居たものだ』
「ですね」
個人情報なので検索さんは教えてくれなかったけど、もしかしたら私のように何らかの固有スキルを持ってる人物かもしれない。
どんな人物なのだろう? もし叶うなら会ってみたいかも。
そんな事を考えながらモンスターを狩り続ける事二時間。
≪条件を達成しました≫
≪魔剣ソウルイーターの魂の蓄積を確認≫
≪拡張機能『魂魄召喚』が使用可能になりました≫
≪拡張機能『魂魄武装』が可能になりました≫
魔剣ソウルイーターの第二解放が可能となった。




