76.四国最後の障害です
足元がふらつくような感覚がした。
どういう事? 四国にリヴァイアサン以上のモンスターが居る?
ありえない。ここは検索さんが導き出した一番安全なルートの筈だ。……比較的って言葉が付くけど。
それにリヴァイアサンの存在を知った後、私は改めて検索さんに周辺に危険なモンスターがいないかどうか確認して貰った。
その結果、リヴァイアサン以外に危険なモンスターは居なかった筈だ。
そうですよね、検索さん?
≪…………≫
あれ? 検索さんからの返事がない。
検索さーん、どうしたんですかー?
≪現在、進行ルート上に一体、厄介なモンスター出現しています≫
ちょ、ま……えぇー?
なにそれ。どういう事ですか?
≪原因を特定――接続――接続――成功≫
≪どうやら昨日、中部地方に現れたブルードラゴンが関係しているようです≫
ドラゴン……?
それってファンタジー映画とか漫画とかに出てくるあのドラゴンですよね?
空を飛んだり、口から火を噴いたりする滅茶苦茶強いモンスター。
≪肯定。その認識で合っています≫
≪そのドラゴンは最初中国地方に出現しましたが、出現直後に移動を開始≫
≪東北地方へ向かう途中、近畿、中部地方を通過した際、大暴れをして各地のモンスターが一斉に移動を開始したようです≫
えぇー、なにそれ……。
なんてはた迷惑なドラゴンなのだろう。
ていうか、東北地方ってカズト君の居る方向だ。
……カズト君、大丈夫かなぁ。お願いだから無事でいてほしい。
じゃあ、そのモンスターの大移動で流れてきたモンスターの一体が四国にやって来たって事か。
「そのモンスターってどんなやつなんですか?」
≪それは――≫
『――クラーケンだ』
検索さんが答えるよりも先にボルさんが答えた。
「海に住む巨大なイカのような姿をしたモンスターだ。水中ではリヴァイアサンに匹敵する海の怪物と言われている。触手による強力な物理攻撃に加えて、体が柔らかく矢や斬撃が通りにくい上、魔法の耐性も高い」
≪…………≫
あ、ボルさんに全部説明されて、検索さんの不機嫌な気配が伝わってくる。
『四国では、どのルートを通っても必ず海上を通過する。クラーケンはベヒモス同様、獰猛かつ食欲旺盛なモンスターだ。君たちが海を渡れば、クラーケンはその気配を察知し、確実に襲ってくるだろう』
「あれ? でも別に無理に戦う必要はないんじゃないですか? クラーケンの位置が分かってるなら、そこから離れた位置を通って海を渡ればいいんじゃ……?」
『その場合は、もっと厄介なモンスターに遭遇する。海を越えた先でな』
「え……?」
『クラーケンが追いつけない位置から本州へ渡るとなると中国地方になる。そこには『刃獣』と呼ばれる最悪のモンスターが居る。クラーケンとの戦闘を避けて本州に向かっても、コイツに遭遇すれば間違いなく死ぬだろう』
刃獣……確か検索さんが言ってた滅茶苦茶危険なルートに居るっていうモンスターだ。
検索さん、『刃獣』ってそんなにヤバいモンスターなんですか?
≪肯定≫
≪モンスターの最上位は六王と呼ばれる六体のモンスターですが、『刃獣』はそれに匹敵する最上級モンスターです。斬る事に特化したモンスターで、物質、エネルギー、レベル差を問わず『刃獣』に斬れないものは存在しません≫
なんかすっごくヤバそうなモンスターだった。
ていうか、九州にはベヒモスが居て、四国にはリヴァイアサンとクラーケンが居て、中国地方には刃獣とかいうとんでもないモンスターが居て、パワーバランスおかしくない?
それとも東京とか東北の方にはもっとヤバいモンスターがいっぱい居るとか? ……はは、考えたくないよぅ。
『そもそも我々が四国へ渡ったのも刃獣との戦闘を避けるためだ。奴は縄張りに入りさえしなければ襲ってこないからな。とはいえ、その範囲が恐ろしく広い。我々は海を渡り、四国入りを余儀なくされた。そしてクラーケンの気配を感じ、君たちの所へやって来たと言う訳だ』
「な、成程……」
てことは、中国地方全域がその『刃獣』ってモンスターの縄張りになってるって事?
中国地方の人達は大丈夫なんだろうか……。
「えーっと、つまり私達が四国を抜けて東京へ向かうには――」
『ああ、クラーケンを倒す以外に道はない』
なにがなんでも私達はクラーケンを倒さないと先に進めないらしい。
うぅ……でもこうなったらやるしかない。
絶対に家族やカズト君に会うんだ。
こんなところで躓いてたまるものか。
「ボルさん、クラーケンは今どこに?」
『ここから海沿いに東へおよそ二百㎞程行ったところだな』
私は三木さんに地図を出してもらい確認する。
二百㎞だと、だいたい淡路島の辺りか。
確かにここ以外で本州に渡ろうとすれば、中国地方――刃獣の縄張りに入ってしまう。
逆に遠回りして徳島から和歌山に向かうルートでも、おそらくクラーケンに追いつかれてしまう。
となれば私達が戦いやすい場所は限られてくる。
「となれば、やっぱりここですかね」
『ああ、そこが一番戦いやすいだろう』
ボルさんと私の指が地図の一箇所を指す。
「――鳴門大橋」
某ブルードラゴン「旦那に会えなくてイライラしていた。ブレスをぶっ放せるならどこでもよかった」




