64.鑑定を使いまくる
≪熟練度が一定に達しました≫
≪スキル『鑑定』がLV3から4に上がりました≫
頭の中にアナウンスが響く。
それだけで眩暈がしそうになった。
正直、立っているのも辛い。
「……鑑定って連続で使い続けると、こんなに疲れるんですね……」
「うぅー、頭痛いー……」
「そうですかね? 慣れればこのくらいの頭痛は何ともないですよ?」
苦悶の表情を浮かべる私や先輩とは対照的に、栞さんはケロッとしている。
そう言えば、この人、鑑定手に入れてから片っ端から鑑定してたって言ってたもんね。
すでに通った道なのだろう。
「むしろ新人の頃務めてたホテルで、一週間以上連続で宴会が入って朝から晩まで碌に寝ないで働いてた時の方が辛かったですね。時間を過ぎても帰らないお客さんもザラでしたし、私よりも先に倒れる人が多かったから、休むに休めなくて……。あれは二度と経験したくないです」
「……」
それは正直、聞きたくなかったです。
市民病院に居る人たちに対して、私達は片っ端から鑑定を使い続けていた。
どうやら『鑑定』は使えば使う程に脳を激しく疲労するスキルだったらしく、私と先輩は二十人ほどを鑑定したところですっかりバテてしまった。
鑑定がオートで使用できない理由がよく分かった。
こんなの四六時中使い続けたら絶対頭がおかしくなる。
「……それにしても、ここはスキルを持ってる人が本当に少ないですね……」
「そうだねー」
「確かに……」
鑑定を使ってまず分かったのが、スキルや職業を持っている人自体が少なかった。
三人手分けして、六十人近くの人を鑑定したのに、スキルを持っていたのはたったの十三人。
それもレベルも低く、持ってるスキルも少なかった。
「そもそもモンスターと戦える人自体が少ないのでしょうね。大半の人は襲われても、反撃よりもまず逃げる事を選択しますから」
「……」
確かに私も最初の頃はひたすらモンスターから逃げ回っていた。
なし崩し的に経験値が入り、スキルが手に入ったけど、そうじゃなければきっと今でも先輩や他の人たちと一緒に逃げ回ってたと思う。
「でもそれが悪いとは思いません。どうやったってモンスターと戦えない人も居ますから」
「そうですね……」
視線の先に居るのは、怪我をした老人やその家族たち。
彼らのように戦う力のない人たちは、モンスターの脅威からは逃げるしかない。
誰かに守って貰うしかないのだ。
「というか、やっぱり病院だからか怪我人も多いよね。それにお年寄りも」
「持病のある方や元々入院してた人も居るでしょうしね」
とはいえ、インフラが死んでいるのだから、病院の設備もその殆どが機能を失っている。
まともな治療など受けれないだろう。
それでもなんとか彼らの為に動いているお医者様や看護婦の皆様は本当に凄いと思う。
こういう時って、ホント、人の本性が出るなぁ……。
私は少し離れたところに居る上杉さんを見つめる。
「立てますか? 無理そうなら背負いますよ?」
「ああ、ありがとうねぇ……」
「気にしないで下さい。それじゃあ、向こうのテントまで行きましょうか」
私達が鑑定を使って、集まった人達を調べてる間、上杉さんはあんな感じで避難してきた人たちの手伝いをしていた。
ここに来るまでにあれだけ動き回っていたのに、それを微塵も感じさせない働きっぷりだ。
「凄いですね、上杉さんは……」
「だねー。私には無理だよぉー……」
そう言いながら、私にぽてっと体を預けてこないで下さい。
膝枕とかしませんからね。
「みゃぅ」
『みゃぁー』
すると茂みからハルさんとメアさんも現れた。
「ハルさん、メアさん、お帰り。どうだった?」
「みゃぁー……」
『みゃぅー……』
私の問いに、ハルさんとメアさんは首を横に振る。
ハルさんたちにも怪しい人がいないか、調べて貰っていたのだが、結果は芳しくなかったようだ。
その後も、休憩を挟みつつ、私達は鑑定を使い、病院に居る人たちを調べ続けた。
百人以上に鑑定を使ったのに、怪しい人物は見つけられなかった。
これだけ探しても見つけられないのなら、ここには居ないのだろうか?
「どうしましょう? 別の避難所に向かいますか?」
「そうですね……。とりあえず今日はもう遅いですし、一晩休んで、また明日から行動しますか」
夜も更けてきたので、今日はもう休むことにした。
私達は人気のない所に移動すると、シェルハウスを取り出す。
「それじゃあ、メアさん、お願いします」
『みゃーう』
外での異変に対応するために、メアさんに見張りをお願いした。
どうやらメアさん、三日くらいなら寝なくても平気らしく、自分から寝ずの番を買って出てくれたのだ。
その献身っぷりに思わず泣きそうになってしまった。
メアさん、本当にいい子である。
思わずなでなで、モフモフしていると、フードの中からハルさんの不機嫌な気配が伝わってくる。
「みゃぅ、みゃぁー」
自分も構えと言う事なのだろう。
別に張り合わなくても良いと思うんだけどなぁ。
ハルさんはハルさんで、私達の大切な仲間だし。
「こ、こんな道具があったのか……。凄いな……」
上杉さんは初めて入るシェルハウスに凄く驚いていた。
栞さんの作るご飯も気に入ったらしく――というか、この数日間、碌にご飯も食べてなかったらしく、もりもり食べていた。
順番にシャワーを浴び、布団に横になるとすぐに睡魔が襲ってくる。
「しかし病院の人達がテントですし詰め状態で休んでいるのに、私達だけがこうも快適に過ごしてはなんか申し訳がないな……」
「……」
上杉さんの一言に私は心が痛んだ。
確かに病院に居る人たちに比べて、私達は遥かに快適な暮らしをしている。
でもそれは決して与えられただけのモノではない。
私達だって、私達なりに苦しんで努力してきた結果だ。
「上杉さん、分かってると思いますが……」
「分かっている。誰にも言わないよ。こちらからお願いしてる立場だしな。それにこのアイテムだって楽に手に入れた訳じゃないんだろう? 相手の事情も知らずにただ物を強請るなんて恥知らずな真似はせんさ。安心してくれ」
「……」
どうやら上杉さんもその辺は理解しているらしい。
申し訳なさそうな表情を浮かべている。
それでもやるせないと思ってしまったのだろう。
「……上杉さん、絶対に見つけ出しましょう。これ以上犠牲者を出さないためにも」
「そうだな」
そう決意して、私達は眠りに着いた。
――次の日の朝、病院には大量の死体が転がっていた。




