63.無職は凄まじいチートでした
上杉さんと共に殺人鬼を捕まえる決心をした私達は避難所へと向かう。
やって来たのは市立病院だ。
周囲は見晴らしも良く、広い駐車場には仮設のテントがいくつも敷かれている。
「凄い人ですね……」
「老人や怪我人も多いだろうからな。と言っても、今の設備でどこまで対応出来るかは分からんが……」
「……電気もガスも使えないですからね」
今の世界ではインフラはほぼ壊滅状態にある。
電気、ガス、水道に様々なネットワーク――すべて人が生きていくうえで欠かすことが出来ないモノだ。
それらもシェル・ハウスや一部のスキルを使う事で代用は可能だが、それが出来るのは極一部の者だけだろう。……私達のように。
「ところで、君たちは先ほど、殺人鬼を探す手立てがあると言っていたが……どういう方法で見つけ出すつもりなんだ?」
「えっと、実は『鑑定』というスキルがありまして、それを使えば」
「……スキル、とはなんだ?」
「え……?」
首を傾げる上杉さんに、私達も首を傾げる。
この人、普通にモンスターを倒してたよね?
「……そう言えば、この人、職業『無職』でしたよね? もしかしてスキルとかも無自覚で使ってたんじゃないですか?」
「あ、その可能性はありますね……」
コソッと耳打ちしてくる栞さんに、私は頷く。
「えーっと、上杉さんスキルって言うのはですね――」
私達は上杉さんに職業やスキル、それにアナウンスの事などを説明した。
全てを聞き終えた後、上杉さんは四つん這いになって激しく落ち込んでしまった。
「……何てことだ。まさかあのアナウンスが幻聴ではなく本物だったなんて……。私はてっきり私の事を無職とあざ笑う心の声だと思っていた……」
「えー……」
いや、いくらなんでもそれは無いと思う。
ていうかこの人、どれだけ無職って言葉にコンプレックスを持っているんだろう?
「そ、それでですね、上杉さんのスキルやステータスを確認したいので、『ステータス・オープン』って口にしてもらっていいですか? 恥ずかしいなら頭の中で念じるだけでも大丈夫な筈です」
「……分かった。ステータス・オープン。……おお、見える! 私にもステータスが見えるぞ……!」
ようやく自分のステータスが見えた事に上杉さんは酷く感動していた。
「ふむ、シャアのセリフですか。大したチョイスですね」
「……栞さん、何の事ですか?」
「いえ、何でもありません」
栞さんは一体何を言っているのだろう? 良く分からない。
教えて貰った上杉さんのステータスはこんな感じだった。
ウエスギ ヒナタ
LV13
HP :500/500
MP :0/0
力 :210
耐久 :180
敏捷 :220
器用 :0
魔力 :0
対魔力:0
SP :136
JP :
職業 無し
固有スキル 無し
スキル
殴打LV4、気合LV2、忍耐LV3、毒耐性LV3、麻痺耐性LV3、危機感知LV1、絶戮LV1、修羅LV1、猛攻LV1
こ、これは何ともピーキーなステータスだ……。
HP、力、耐久、敏捷が物凄く高いのに、MP、器用、魔力、対魔力は完全にゼロだ。
検索さんが無職は職業の恩恵が得られない代わりにステータスを大幅に強化するって言ってたけど、これは極端すぎるでしょう。
それにスキルの名前が凄く物騒だ。
えーっと、検索さん、説明をお願いします。
≪スキル『猛攻』について≫
≪職業選択を行わずLV10を超えることで得られるスキル≫
≪肉体での戦闘の際、猛攻のLV×100の数値が『力』、『耐久』、『敏捷』のステータスに加算される≫
≪スキル『修羅』について≫
≪スキルを使わずモンスターを50体討伐することで得られるスキル≫
≪戦闘の際、修羅のLV×100の数値が『HP』、『力』のステータスに加算される。
また、致命的な一撃を受けても、一度だけであれば確定でHPが1残る。発動は一日、一回のみ≫
≪スキル『絶戮』について≫
≪パーティーメンバーが居ない状態で、猛攻及び修羅の取得条件を満たし、更にそれを素手のみで達成することで得られるレアスキル≫
≪自分に不利な状態異常効果を完全無効化する。戦闘の際、『HP自動回復』LV5に相当する回復効果が得られる。更に絶戮のLV分、『力』、『耐久』、『敏捷』のステータスを倍加させる。『猛攻』、『修羅』との併用は可能だが、『絶戮』の効果が優先されるため、倍加した数値に『猛攻』、『修羅』の数値が加算される≫
うん、全部とんでもない効果だった。
特に最後の『絶戮』の効果が凄すぎる。
自分にとって不利な状態異常効果を完全無効化するって、『置き土産』の呪いとか『咆哮』のスタンとかも効かないって事でしょ? 反則だよ、そんなの。
完全に戦闘特化のステータスとスキル構成だ。
この人、ベヒモスとも正面から殴り合えるんじゃないだろうか?
上杉さん凄すぎる。
……あれ? でも思い返してみれば、私も最初のレベルアップの際に一気にLV10に上がったよね?
何で『猛攻』を取得できなかったんだろう?
≪猛攻の取得条件は正確に言えば、『職業』の拒絶です。マスターの場合、職業を選択しようという意思があったため、猛攻の取得条件には該当しませんでした≫
ああ、なるほど、そう言う事かー。
って、あれ? マスターって私の事?
≪はい。いつまでもスキル保有者に対し、呼称が無いのは不便であるため、便宜上、マスターと呼ぶことにしました。気に入らないのであれば、別の呼称へ変更することも可能です≫
あ、いえ、マスターでいいです、はい。
検索さん、本当に自我が無いんだよね?
なんか説明もどんどん流暢になってるし……。
≪常にスキル性能をアップデートしてる結果に過ぎません≫
≪このアナウンスもあくまでマスターへの必要性を感じているからにすぎません≫
≪勘違いをなさらないで下さい≫
うん、そうだね。
だとしても、私の為にそうやって頑張ってくれてるなら嬉しいよ。
これからも頼りにしてるからね、検索さん。
≪ッ――――≫
……一瞬、検索さんからテレた気配を感じたが気のせいだろう。
本人も自我が無いと言ってるし、そう言う事にしておいた方が良いよね。
さて、それじゃあ片っ端から『鑑定』を使って調べていこう。




