58.調子のいい時に難度調節入るゲームはクソゲー
ピピピとスマホのアラームが鳴る。
タップして時間を見ると、朝の六時と表示された。
「……出発前は無駄な荷物だと思ってたけど、持ってきて良かったなぁ。ふわぁぁ……」
大きく欠伸をしながらスマホを開くと、バッテリーは満タン状態。
シェルハウス内の電力によって、私達は再びスマホを使う事が出来るようになった。
電気を設定した時に、部屋の隅にコンセントも現れたのだ。
「ネットは繋がんないけど、やっぱり便利だよね」
今のようにアラームの代わりになるし、時間も確認できる。
基本機能は使えるみたいだし、カメラや電卓なんかが使えるだけでも十分役に立つ。
天井にもコンセントが付いているが、形が違うし、多分照明用だろう。
魔石を使って照明器具を取り付ける事も出来るが、外から持ち込んだ家電も使えるように設定されているみたい。
まあ、シェルハウス内の明るさは所有者によって調節可能なので、あまり必要ないといえば必要ないけど。
(でも今後部屋数を増やしたりしたときには必要になるかも)
これから一緒に暮らしていくんだし、プライベートな空間も必要になって来るだろう。
他にも色々必要な設備が増えてくるかもしれない。
あと検索さんに、どの程度なら荷物を持ちこめるかというのも調べて貰った。
結論から言えば、シェルハウスに入る時『身に着けている、もしくは体が触れている物』なら持ち込めるようだ。
(これってつまり触れてさえいれば、大きな岩やトラックでも持ち込み可能って事だよね?)
でもあんまり大きなものを持ち込んだ場合、内部に収まりきらなくて最悪シェルハウスが破壊されてしまうようだ。あくまで常識の範囲内でって事だね。
このルールは、生物にも当てはまる。
所有者である私以外――先輩や栞さん、ハルさんたちがシェルハウス内に入るためには、私に触れていなければいけない。但し、出るのは自由だ。
私以外の人が自由に出入り出来るようにするには『共有登録』ってのをしないといけないんだけど、これが結構魔石の消費量が多い。なんと一人に付き魔石(極小)×100個。
他の機能も充実させなきゃいけないので、これは今の所保留にしておこう。
ちなみにシェルハウスが破壊された場合、中に居た人や物は外に強制的に排出される仕組みになっているらしい。
「先輩、栞さん起きて下さい。朝ですよ」
「……えへへ、あやめちゃんは甘えん坊だなぁ……」
「ふみゅ……まだ食べれます」
「はぁ……二人とも子供じゃないんですから」
一体どんな夢を見てるんだか。
二人を起こして顔を洗った後、朝食を食べる。
昨日のカレーも美味しかったけど、朝食も絶品だった。
炊き立てのご飯に焼き鮭と卵焼き、お味噌汁が最高です。
朝食を食べた後は、今日の予定の確認だ。
とはいっても、今まで通り出来るだけ人気のない道を通りながら、物資を補給して、モンスターを倒すのは同じだけど。
ただシェルハウスの機能も充実させたいので、今後はモンスターとの戦闘も増やしていきたい。
検索さんに調べて貰えば、効率的にモンスターも狩れるだろうしね。
「それじゃあ外の様子を見てきますね」
「うん、お願いね」
仕度を終えると、まず私が先行して外に出る。
何もないとは思うけど、一応念の為にね。
外に出たいと念じると、私の体が淡く光り、一瞬の内に外に出ていた。
「うーん、日差しが気持ちいなぁ……」
シェルハウスの中だと外の様子が分からなかったから、こうして日差しを浴びるとようやく朝だって実感が湧いてくる。
体を伸ばしていると、勢い余って後ろの壁にぶつかってしまった。
うっかりだね。
「――って、あれ? こんなところに壁なんてあったっけ?」
なるべく障害物のない場所を選んだはずだけど……?
振り返って後ろを見てみると、それはとても奇妙な壁であった。
巨大な太い青色のパイプがいくつも重なったような感じで、所々に等間隔で奇妙な棘が生えている。
しかもパイプの表面を見れば、ザラザラとした魚の鱗のようなモノがびっしりと。
そう、まるで巨大な『なにか』がとぐろを巻いている様な感じで――。
「……」
私はだらだらと冷や汗を流しながら上を見上げる。
二つの赤い瞳が私を見ていた。
「……」
「……」
赤い瞳は何度かぱちぱちと瞬きをする。
どうやら向こうも今目覚めたようで、状況がよく飲み込めていない感じ。
……検索さん、検索さん。
≪はい、なんですか?≫
これ、何ですか?
≪――リヴァイアサンです≫
なんでここに?
≪どうやらここはリヴァイアサンの寝床だったようですね。個体によっては海の底ではなく浜辺に寝床を作ることもあるようです≫
…………遭遇確率2%とか言ってませんでした?
≪……どうやら私のスキル保有者は相当運が悪いようです≫
私の所為にしないでよ、もおおおおおおおおおおおお!
「……キュィ?」
「~~~~~ッ!」
リヴァイアサンが首を傾げる。
私はシェルハウスを拾い上げると、一目散に逃走した。
無理、無理、無理。あんなの絶対勝てない。
一目見ただけで分かった。アレは間違いなくベヒモスと同レベルの化物だ。
しかも相手は海のモンスター。
この浜辺で私達がどうにかできるわけがない。
「キュィー♪」
すると案の定リヴァイアサンは私を追いかけてきた。
砂浜を這うように移動する様は巨大な蛇そのものだ。
朝の陽ざしと共に、決死の鬼ごっこが幕を開けた。
リヴァイアサン「( ^ω^)ニコッ」




