56.鶏と卵珊瑚
移動中は何度かモンスターとの戦闘になったものの、特に危ない場面も無く切り抜ける事が出来た。
レッサー・ウルフという影を操るモンスターは初めて見るモンスターだったけど、メアさんのおかげで楽に倒す事が出来た。
というのも、メアさんは『霧』のモンスターなので、レッサー・ウルフの『影』を這わせることが出来なかったのだ。
何度も『影』を這わせようとしても、その度にメアさんの体が霧散するという無限ループにレッサー・ウルフは手も足も出なかった。
というか足元は霧になっているのに、移動は可能って、一体どういう仕組みになっているのだろう? モンスターって不思議だよね。
ともかくメアさんに乗っていれば、レッサー・ウルフの攻撃はほぼ無効化され、接近してきた所を先輩の炎か、私のソウルイーターで止めを刺せばそれで終了。
非常に楽な戦闘だった。
「みゃぅー……」
「あはは、今回はハルさんの出る幕は無かったね」
活躍の場が無くて、ハルさんがちょっと不機嫌だったが、それはそれで可愛いので問題なしです。なでなでしておこう。
それともう一つ、栞さんが仲間になった事により、モンスターとの戦いで変化があった。
「あ、またモンスターです」
「今度はニワトリみたいなモンスターだね」
現れたのは体長一メートル程のニワトリのような姿をしたモンスターだ。
ただ普通のニワトリと違い、尻尾が蛇みたいになってる。
≪モンスター『レッサー・コカトリス』について≫
≪ニワトリの姿をしたモンスター。ステータスは敏捷がやや高いが、知能が低く動きは単調。尻尾の蛇に噛まれると、噛まれた部位から体が徐々に石化する。石化する前にコカトリスを倒せば石化は解除される≫
せ、石化? なにそれ、凄く怖い。
それじゃあ、距離をとって先輩に倒してもらおうか?
いや、それとも逃げた方がいいのかな?
≪レッサー・コカトリスの石化は自分よりレベルが同じか、低い相手にしか効果はありません≫
え、そうなの?
試しにレッサー・コカトリスを鑑定してみる。
レッサー・コカトリス
LV3
HP :10/10
MP :3/3
力 :7
耐久 :4
敏捷 :10
器用 :1
魔力 :9
対魔力:0
SP :6
スキル
石化LV1、噛みつきLV2
あ、私達より全然弱い。
ステータスもかなり低いし、スキルも二つしかない。
相手のレベルが低いと、『鑑定』で全部見えるんだね。
ともかくこれなら大丈夫そうだ。
私はメアさんから降りて、ソウルイーターを構える。
よく見れば動きもそんなでもないや。
「コケーーー」
「えいっ」
一気に接近して、レッサー・コカトリスの首を刎ねる。
≪経験値を獲得しました≫
うん、危なげなく勝つ事が出来た。
私はピクピクと痙攣する首なしとなったレッサー・コカトリスの『死体』を見つめる。
「うぅ……グロい……」
これが栞さんが仲間になったことで起きた変化。
今まではモンスターを倒せば、魔石を残してモンスターの死体は消えていたのだが、栞さん――正確には『料理人』が仲間に居る場合、モンスターの死体は消えずに残るようなのだ。
検索さんによれば、これはスキルではなく職業による補正らしい。
栞さんはレッサー・コカトリスの死体に近づくと手をかざす。
「――『解体』」
するとあっという間に死体が部位ごとに切り分けられた姿へと変化する。ついでに魔石も血も汚れも付いていない綺麗な状態で分離されている。
「何度見ても便利なスキルですね」
「『解体』はあくまで死体にしか使えませんけどね。でも何度も包丁を研がなくてもいいので、確かに便利なスキルだと思います」
この短期間の間に、栞さんがどうやって倒せば消えるはずのモンスターを大量に食べていたのか、その理由がようやく分かった。
栞さんはレッサー・コカトリスの肉塊を食料庫に収納する。
魔石はハルさんが食べた。
「それにしてももうすぐ海岸に着きますけど、全然人が見当たりませんね。おかげで人目を気にせずスムーズに移動できましたけど」
「そうだよね。モンスターはそこそこ多かったけど、あんまり人は見なかったね」
「多分、どこかに逃げてるか、隠れてるんじゃないですか? 念の為、人気の少ないルートは通ってますが、流石に突然人が消えるなんて事はないでしょうし」
そうなのかな? 大分でも妙に人が少なくなってたような気がするけど……。
……うーん、でもあんまり考えても仕方ないか。何故かそれほど問題じゃない気もするし。
≪――――≫
一瞬、検索さんが何かを言いたそうな気配を感じたけど、気のせいだろう。
検索さんって基本、私が疑問に思った事にしか答えてくれないし。
疑問に思わない程度の些細なことでしかないという事だ。
「あ、海岸に着きましたよ」
栞さんのバイクが先行する形で、私達は梅津寺海岸に辿り着く。
時刻はまだ午後三時頃なので、時間は十分にある。
さっそくアル・コラレを探そう。
「……見た感じ、普通の海岸だね。どこに居るんだろ?」
「ちょっと待って下さい。今調べてみます」
というわけで、検索さん。
アル・コラレってどんな見た目で、どんな場所に居るんですか?
≪アル・コラレは卵に珊瑚が生えたような見た目をしています。夜行性で日中は砂の中に潜り、夜になると活動を開始します≫
ふむふむ、なるほど。
今はまだ日中ですけど、アル・コラレを見つける方法ってありますか?
≪引く潮に沿って歩くと、砂が少し盛り上がっている場所があります。その砂山の周囲に白い角が生えていれば、それがアル・コラレです。アル・コラレは塩を好む為、この白い角に塩を振りかければ自分から姿を現します≫
……そんな潮干狩りみたいな方法でいいんだ……。
私は先輩と栞さんに今の情報を伝えると、海岸を歩く。
潮が引いた瞬間、よく目を凝らすと確かに砂が盛り上がっている箇所があちこちにあった。更にそこから白い棒状のものが僅かに伸びている。
「見つけた」
私はさっそく栞さんに貰った塩を、白い角に振りかける。
「~~~~~~~~♪」
すると砂の中から体長五十センチほどの小さなモンスターが姿を現した。
確かに検索さんの言った通り、アル・コラレは卵に無数の枝珊瑚が生えたような見た目をしていた。本体の部分は白色ではなく、ちょっとピンクがかっている。
アル・コラレは塩を掛けられたことが嬉しいのか、ぴょんぴょんとその場を飛び回っている。
「……ちょっと可愛いかも」
妙に愛嬌のある姿に私は思わずほっこりしてしまう。
「みゃぅ」
するとハルさんが飛び掛かり、その爪をアル・コラレに突き立てる。
ぺし、ぺし、ぺし。
「~~~~~ッ!?」
卵のような体はあっさりと砕け、アル・コラレは絶命した。
「みゃぁー♪」
「……」
ハルさんは、どう、凄い? 褒めて、褒めてとキラキラした視線を向けてくる。
「す、凄いね、ハルさん! 偉いよー」
「みゃーう♪ ふみゃー♪」
活躍が出来て嬉しいのか、ハルさんはとても嬉しそうだった。
うん、なにも言うまい。どの道、倒さなきゃいけないんだし。
「あやめちゃーん、こっちにも居たよー」
「私も見つけました」
その後、次々とアル・コラレを見つけ、三十匹近くを倒したところで、ようやく私達は『シェルハウス』をゲットする事が出来た。
「やったー! これで安全な寝床が手に入るねー」
「それにお風呂も入れます。よかったぁ……」
手に持ってみると、本当に小さな巻貝だ。
これがこれからの私達の寝床になるのかぁ……。
「もう日も暮れはじめましたし、早速使ってみましょう」
「うん」
「楽しみですね」
「みゃぁー」
『ミャゥ』
さっそく私達はシェルハウスを使う。
すると手に持った貝が僅かに光り、私達は中に吸い込まれた。




