54.三人目
リ、リヴァイアサン……?
一体どんなモンスターなのだろうか?
検索さん、教えて下さい。
≪モンスター『リヴァイアサン』について≫
≪ベヒモスと双璧を成す海の怪物。水と雷を自在に操り、水中戦においては無類の強さを誇る。生まれてから死ぬまで成長を続け、より大きく歳を重ねた個体ほど力は強くなる。大蛇を思わせる長大な体は硬い鱗で覆われており、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃を軽減する効果がある。聴覚が異常に発達しており、優れた索敵能力を持つ≫
え、ちょっと待って、なにそれ、あのベヒモスと同格!?
メチャクチャ強いじゃん!
検索さん、四国は安全なルートだって言ってたよね?
これのどこが安全なのさ?
≪瀬戸内海と呼ばれる海域にリヴァイアサンは一体しか居ません≫
≪福岡、山口間には巨人や刃獣といったより強大なモンスターが数種類確認されており、数も多いです。故に遭遇率や生存率を計算し、このルートが最も安全だと判断しました≫
……それってつまり危険なルートしかないから、比較的危険の少ないルートを選んだって事だよね?
≪肯定します≫
検索さんの言葉に私は頭を抱える。
そう言う事は先に言ってよ……。
てことは、もしかして運が悪ければ、大分からここに来るまでの間に、リヴァイアサンに遭遇してた可能性もあったの?
≪肯定します≫
≪ですが遭遇確率は2%未満でした。ほぼ危険はないと判断しました≫
逆に言えば、その2%に当たっていれば、危なかったって事だ。
知らないって怖いなと改めて思った。
「……ぼーっとされてどうしたんですか?」
「――へっ? あ、すいません、何でもないです、はい」
検索さんと脳内で会話してたなんて流石に言えないので、私は笑って誤魔化した。
「栞ちゃんはどこでそのリヴァイアサンってモンスターを見たの?」
「えーっと、ちょっと待って下さい。――この辺ですね」
三木さんはリュックから地図を取り出し、場所を指差す。
佐田岬半島の北側――伊予灘と呼ばれる瀬戸内海西部の海域だ。
「海面に出た姿を遠巻きにして見ただけなんですが、それでもかなりの巨体でした。『鑑定』で判明したのは種族名だけ。かなり距離があったのに、私はその姿を見ただけで寒気が止まりませんでした」
三木さんはその姿を思い出したのか、かすかに震えた。
思い出すだけでもこれとは、余程の恐怖だったのだろう。
「その後、松山市の方へ泳いでいったので、もしかしたら瀬戸大橋や大鳴門橋を渡る時の障害になるかもしれません」
「……」
確かにその可能性はある。
でも、検索さんによればリヴァイアサンの数は一体だけ。
タイミングさえ間違えなければ、遭遇する可能性は極めて低い。
――それこそ、リヴァイアサンが私達に固執でもしない限りは。
まあ、流石にそんな事ないと思うけど。
「……あやめちゃん、四国ルートは安全だって言ってたよね?」
先輩がじーっとこっちを見つめてくる。
「安全ですよ。…………比較的」
「比較的って言った! 今、比較的って言ったぁ!」
「私だって騙されてたんですよ! 今、知ったんです、すいません!」
「むー、下調べはもっと念入りにしようよ、あやめちゃん」
「返す言葉もありません……」
今度から検索さんに調べて貰う時は、もっとしっかり調べて貰うようにしよう。
ついでに言葉の裏とか、言外に触れてない部分とかも気にしないと。
検索さん、割とその辺大雑把だし。
≪――――騙した覚えはありません。詳しく聞かなかっただけでしょう……≫
あれ? なんか、今検索さんがイラッとしたような気配を感じたんだけど……?
≪……気のせいです≫
本当に気のせいだろうか……?
ちらりと三木さんの方を見れば、私と先輩を見てくすくす笑っていた。
「仲がいいんですね、お二人は」
「そうだよー。私とあやめちゃんは公私ともに相性ばっちりなんだから」
「……いや、プライベートはまだしも、仕事の方はちょっと……」
「なんでそこで否定するの、あやめちゃん!?」
「いや、だって先輩、よく私に書類作りとか押し付けたじゃないですか……」
「それはあやめちゃんの方がワード打つの早いからだよ。私、パソコン作業って苦手だし……」
「年配の方ならまだしも、先輩の歳でパソコンが苦手って言い訳は駄目ですよ。怠慢です。何度も教えようとしたのにずーっとその場しのぎで憶えようとしなかったの先輩じゃないですか」
「そ、それは……その……うぅー、栞さぁーん、あやめちゃんがいじめるよぉー」
「はいはい、泣いちゃ駄目ですよ」
おかしいな。年上の女性が、より年上の女性に慰められてるはずなのに、小学生男子に、小学生女子が慰められてる絵面にしか見えない。
「……ところで九条さん、一つご相談があるのですが」
「なんでしょうか?」
三木さんは先輩の頭をなでなでしながら、真面目そうな表情になる。
「自分もお二人の旅路に連れて行ってはもらえませんか?」
「「えぇ!?」」
予想外の申し出に、私と先輩の声が綺麗にハモる。
「ど、どうしてですか?」
「……実は自分も東京に妹が居るんです。こんな状況ですし、今生の別れになるかもと思っていたのですが、お二人について行けばもしかしたら会えるかもしれないと思うといてもたってもいられず……。お願いします、邪魔にならないと誓うので、どうか自分も仲間に入れて貰えませんか?」
「そ、それは――」
「自分、戦闘面ではあまりお役に立てないかもですが、生活面ではお役にたてると思います。自分、料理得意ですから」
「りょ、料理……」
ちらりと、私は取り皿に盛られたモンスター肉を見る。
「あ、こっちはあくまで自分の趣味です。モンスター料理に抵抗があるのでしたら、普通の料理も出来ます」
そう言うと、三木さんは空中に手をかざす。
すると大きな冷蔵庫の扉が出現した。
中を開くとそこには、お肉や野菜、果物といった様々な食材が収納されていた。
「『料理人』のスキルの一つ『食材収納』です。食料や飲み物、調味料限定になりますが、こんな感じに不思議な空間に食料を収納出来るんです。中は二層になっていて、冷蔵、冷凍を選べます。三人で、毎日三食食べても、一月は持つ程度の量を収納できますよ」
「そ、それは凄いスキルですね……」
確かにこのスキルがあれば、食料問題という最大の懸念が解消される。
それに私も先輩も料理はからっきしだし、毎日おいしいご飯が食べられるなんて凄く魅力的だ。
「正直、私としては願ったり叶ったりですが、いいんですか? 多分、凄く危険な旅になりますよ?
「覚悟の上です。それに、まだ見ぬ食材との出会いも、旅の醍醐味です」
「……そ、そうですか」
あくまでこの人にとってモンスターは食材なのか……。凄いなぁ。
「先輩やハルさんたちはどう思いますか?」
「私は問題ないよ。栞さんと一緒に旅が出来るなら凄く楽しそうだし」
「みゃーう♪」
『ミャァー♪』
先輩も、ハルさんもメアさんも異論は無いようだ。
ハルさんとメアさんはまだお肉を食べてる辺り、完全に胃袋を掴まれてる。
「……分かりました。それじゃあ、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、迷惑にならないよう精一杯務めさせていただきます」
こうして私達のパーティーに新たなメンバーが加わった。
三木栞さん、28歳、職業『料理人』。
モンスターを料理するちょっと変わった人だけど、これから仲良くなれると良いな。
捕捉
『食材収納』はカズトさんのアイテムボックスのように、LVが上がるごとに収納量、便利機能が追加されます。また食材を入れるための鍋や真空パック、飲料や調味料の入れ物など、食材の保存に必要なモノであれば食材じゃなくても限定的に収納する事が出来ます。ただし拡大解釈してアレもコレもというのは不可能です。




