53.私が一番年下なのに年上に見える不思議
呆然とする私と先輩を見て、三木さんは苦笑する。
咄嗟に私と先輩はハッとなり頭を下げた。
「す、すいません。会ったばかりなのに失礼な態度をとってしまい……」
「ごめんなさいっ」
「気にしなくていいです、慣れてますから。自分、こんな見た目なので、夜中とか一人で歩いてたり、バイクに乗ってたりすると、よく警官に職質受けるんですよ。たまに免許証とか見せても信じて貰えない時もありましたけど……」
「そ、それは大変ですね……」
その光景が容易に想像できた。
てか、バイク乗るんだ……。ますますギャップが凄い。
すると先輩がずいっと前に出て、三木さんの手を掴む。
「分かるっ! その気持ち凄く分かるよ、三木さん! 私もこんなちんちくりんだから、私服で歩いてると小学生とかに間違われるし、同僚には全然年上として見て貰えないし。ホント、もうあと十センチ身長が欲しいって何度思ったか」
「そうなんですよね。何故か散歩してるとお年寄りに飴とかお菓子貰いますし、その度に説明するの面倒ですし……。てか、あのおじいちゃん、毎日会ってるのに……」
「あるある。買い物行っても『お遣いえらいねー』って何故かおまけ貰ったりするんだよね」
「ありますね。この間なんかも――」
なんかすごく話が弾んでる。
まあ、先輩も三木さんに負けず劣らず歳不相応な容姿だものね。
お互いにシンパシーを感じたのか、先輩と三木さんの話はますます盛り上がり、その間私はすることが無いので、ハルさんとメアさんをモフモフしていた。凄く癒された。
「――なるほどー、じゃあ栞さんは『料理人』って職業にしたんだ」
「はい。自分、小さな料理屋で働いているんですが、次の日の仕込をしてる時にゴブリンに襲われたんです。包丁でなんとか倒したら、頭の中に変なアナウンスが流れて……。最初は夢か幻覚かと思ったんですが、町にモンスターは溢れてますし、スキルは本物だし、もう大変でした」
「分かるよー。私も最初はそんな感じだったもん。でもなんで『料理人』にしたの? 他にも選択肢はあったんだよね?」
「これが現実とは思わなかったので……。まあ、モンスターを捌いたり、目利きするのには便利なので結果的には良かったですけど」
「なるほど、結果オーライだね」
「はい。それにそのおかげでこうして九条さんや七味さんにも会えたので、自分は満足です」
「だねっ」
ねーと手を合わせるロリ二人。
名前で呼び合ってるし、完全に意気投合してる。
いや、でも普通モンスターを捌いたり食べようとは思わないと思うけど、もうそこは突っ込まないでおこう。
すると、ふと三木さんが私の方を見た。
「――ところで、ちょっと気になってたんですが、お二人はどこから来たんですか? 伊方町とは真逆――というか、海の方から来たように見えたのですが……」
「えーっと……」
どうしようか?
普通に話しても大丈夫かなぁ……?
「みゃぁー」
『ミャゥー』
ちらりとハルさんとメアさんの方を見れば、「もんだいないよー」と言ってるように見えた。
先輩の方も見れば、力強く頷いて見せた。
まあ、確かにこの人なら話しても大丈夫そうだよね。
「えっと、実は――」
私は三木さんに、私達がここに来た経緯を説明した。
「う、海を渡って来たんですか……?」
「はい」
『ミャーゥ』
流石にこれには、三木さんも驚いたようで、口を開けて呆然としている。
メアさんが首のない馬の姿やチョコ◯形態になると、更にびっくりした。
「猫ちゃん達がモンスターなのには気付いてましたが、この姿は流石に予想外でした。色んな意味で危険な姿ですね」
「……気付いてたんですか?」
「『鑑定』がありますから」
あ、そうだった。
この人もワイズマンワームを倒して『鑑定』を手に入れてたんだった。
「それにしてもベヒモスですか……。九州にはそんな強いモンスターが出現してたんですね……」
「正直、何度も死にかけたよねー」
「ですね……」
今思い出しても、体が震える。
勝てたのは、ボルさんたちの協力や、様々な奇跡と偶然が重なった結果だ。
もう一度戦えば、間違いなく殺されるだろう。てか、絶対無理。
「どんな味だったんでしょうね。気になります」
「いや、気になるのそこですか」
ブレないな、この人……。
「しかしこの状況で東京向かうなんて、ずいぶんと思い切った事を考えましたね」
「まあ、自分でもそう思います。でも……それでもやっぱり家族に会いたくて……」
「……その気持ちはよく分かります。自分も歳の離れた妹がいますから。この後の道のりは決めているんですか? 四国から本州に向かうとなると、瀬戸大橋を通って岡山県に入るか、大鳴門橋を通って淡路島から兵庫県に入るルートかと思いますけど……」
「そうですね。とりあえず淡路島の方を通って、本州に向かおうと考えてます」
そのルートが一番いいって、検索さんも言ってたし。
すると三木さんは顎に手を当てて、なにやら考え込む仕草をした。
「……うーん、となるとアレが障害になるかもしれませんね……」
「障害? 何かあるんですか?」
「ええ、向こうの海には少々厄介なモンスターが居るんですよ」
「厄介なモンスター?」
「はい」
三木さんは少し間をおいて、
「――リヴァイアサンです」




