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現代剣聖物語 モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝  作者: よっしゃあっ!


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47.戦いが終わって


 佐々木さんたちの姿を見た瞬間、真っ先に動いたのはボルさんだった。

 持っていた弓で、私と先輩を打ち払ったのだ。


「がはっ」

「きゃあッ!?」


 受け身も碌に取れずに、私と先輩は地面に倒れ込んでしまう。

 何をするのかとボルさんの方を見れば、


「ッ――」


 ボルさんは恐ろしい形相で私達を見ていた。

 

「ォォォオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 それは聞いた事も無いようなボルさんの叫び声だった。

 地獄の底から響いてくるような亡者の叫び。

 佐々木さんたちはもとより、私や先輩すらその声に恐怖してしまう程であった。


「な、なんだこの化け物は……?」

「おそらく九条さんが仰っていた骸骨の騎士なのでしょうが、まさかこんな……」


 佐々木さんたちもボルさんたちの威圧を受けて動けないでいる。


「ボ、ボル――」

「ォォアアアアアアアアアアアッ!」


 私が何か言おうとする前に、ボルさんは叫び声を上げる。


(まさかボルさん、私達との関係を気付かれないように……)


 モンスターと手を組んで戦っていたなんて事が知られれば、佐々木さんたちとの関係が危ぶむかもしれないと思ってわざとこんな行動に出てくれたのだ。


「オアアアアアア! シャアアアアアアッ!」


 ベレさんもボルさんの意図に気付いたのか、持っていた槍を振り回しながら、私や佐々木さんたちを威嚇する。

 

「ニャー! ワンワン!」


 ついでにナイトメアさんも芝居に乗るが、鳴き声がメチャクチャだ。いや、首のない馬の状態でその鳴き声なんだから十分怖いといえば怖いんだけど……あ、ベレさんが殴って黙らせた。


「ぐっ……」

「ど、どうするんだよ、これ」


 とはいえ、事情を知らない佐々木さんたちからすれば、ボルさんたちの威嚇は十分に効果があったようだ。

 恐怖に吞まれ動けないでいると、ボルさんとベレさんは武器を構えたまま、ジリジリと後退を始めた。

 そして十分に距離が離れたところで、二人はナイトメアに跨り、そのまま消えて行った。

 静寂が満ち、ややあって佐々木さんたちは私達の方へ駆け寄ってきた。


「ふ、二人とも大丈夫ですか! 怪我は?」

「一体何があったんだ?」


「え、えっと……」


 佐々木さんたちの問いかけに、私は何て答えていいか迷った。

 すると、先輩がぐすぐすと泣きだした。


「うぅ……怖かったです。あの骸骨の騎士達と、ベヒモスがここで戦っていたんですが、偶然私達も近くにいて、戦いの余波で吹き飛ばされてしまって……。それでベヒモスを倒した彼らは私達に近づこうとして、そしたら佐々木さんたちがやってきて……」

「成程、そうだったんですね……」

「はい、怖かった……。凄く怖かったです」


 うわぁーんと泣き叫ぶ先輩。


(先輩、演技すごーい……)


 めちゃくちゃ堂に入った演技だった。

 息を吐くようにそれっぽい作り話をでっち上げて、佐々木さんたちを信じ込ませてしまった。

 泣き虫で子供っぽくて、甘えん坊で、お菓子が大好きで後輩みたいなところもあるけど、それでも先輩はちゃんと先輩だった。


「ともかくお二人が無事でよかったです。ここは危険ですし、一旦学校へ戻りましょう」

「は、はい」


 こうしてボルさんや先輩の咄嗟の機転で私達は佐々木さん達の追及を逃れる事が出来た。

 とはいえ、ボルさんたちにそんな行動を取らせてしまったことはやはり心が痛んだ。


(きっとボルさんやベレさんなら気にするなって言うかもしれないけど……)


 それでもひと時の間でも、一緒に戦った仲間だ。

 もし次に会う事が出来たらきちんと謝ろう。

 私はそう心に誓った。

 




 ――で、その日の夜、普通に再会した。


『うむ、咄嗟の芝居にしてはまあまあ上手くいったな』

『ったく、バレねーかどうか、冷や冷やしたぜ。まあ、元々死んだ身だ。冷えるわけねーか』

『全くだな、はっはっは』


「……」


 凄くノリが軽かった。

 全然、微塵も気にした様子はなかった。

 なんで再会できたかと言えば、夜に体育館で寝ていると、枕元にナイトメアさんが現れたのだ。普通にびっくりした。

 霧のモンスターだから、他の人にばれずに侵入するなんてお手の物らしい。

 先輩を起こして、他の人にばれないようにこっそりついていくと、河川敷にボルさんとベレさんは居た。


「へくちっ」

「あ、先輩、鼻水でてますよ。ほら、ティッシュです」

「うん、ありがとー、あやめちゃん。ちー」


 うん、先輩可愛い。


『夜は冷え込むからな。体調管理には気を付けた方が良い』

「はぁーい」


 いや、なんでアンデッドに体調の心配されなきゃいけないんですか。

 そう突っ込みたかったけど我慢した。

 すると猫に擬態したナイトメアさんが、足元に体を擦りつけてくる。


『ミャーゥ』

「ナイトメアさんも道案内ありがとうね」

『ミャーゥ……フミャァー』


 撫でてあげると、ナイトメアさんは凄く気持ちよさそうにゴロゴロした。

 もう完全に猫だ、これ。

 ちなみにハルさんは私のフードの中で体を丸めて器用に寝ている。

 夜行性などお構いなしに寝たい時に寝る自由猫である。


「あの、すいませんでした……」

『何を謝る事がある。あの場ではああするほかなかっただろう』

「でも――」

『謝罪など不要だ。そもそも君たちのように我々の存在を受け入れてくれる人間などそうそうおらん。君たちに出会えただけで、我々は嬉しいのだよ。それに生きていれば、また会う事もあるだろうしな』

「……え?」


 また会うって、まるで居なくなるような言い方だ。

 ぽかんとする私に対し、ボルさんは続ける。


『ベヒモスは倒した。我々がもうこの地に留まる理由もない。次の目的地へ向かわねばならん』

「次の目的地……?」

『前に話しただろう。我らが王の眠る墳墓へ帰還する事。それが我らの目的だ』


 そう言えば、一番最初に出会った時にそんな事を言っていた気がする。

 

「その墳墓ってどこにあるか分かるんですか?」

『ああ。我ら守護者にはどれだけ離れていても、墳墓の場所は分かる。距離が離れすぎていると、おおよそしか分からぬが、ここから東へ千里程と言ったところか。距離が近くなれば、より場所も正確に把握できるようになるし問題はない』


 それなら私の検索で調べなくても大丈夫って事か。

 最後に何か役に立ちたかったから残念だ。


「……」

『あやめよ、そんな顔をするな』


 ぽんと、ボルさんが骨と皮だけの手を私の頭に乗せる。


『君も、七味も、ハルもまだまだこれから先、もっともっと強くなるだろう。また再会した時に、強くなった君たちに会わせてくれ』

「……はいっ」

『それと――』

「フミャァー」


 ひょいっとボルさんは私の足元でゴロゴロするナイトメアさんを拾い上げる。

 そのまま私に手渡すと、


『次に会う時まで、この子は君に預ける』

「え?」

『その子は君に随分と懐いているようだ。元々、アガが使っていた子だからな。魔剣を持つ君が気に入ったのだろう。可愛がってやるといい』

「え、いや、でもそれだとボルさんの馬が――」


 そう言いかけたが、ボルさんの足元の影が広がると、もう一体の新しいナイトメアが姿を見せた。

 首はないが、だがとても雄々しい馬の姿だった。


『もともと私が使役していたナイトメアはコッチだ。ベレも自分の馬が居る。……リィンのナイトメアは彼女が死んだときに一緒に消えてしまったがな』


 そうだったんだ。

 そう言えば、最初に見つけた時は、三人とも馬に乗ってたもんね。

 

「わ、分かりました。大切にします!」

『うむ、その子は海や空も渡る事が出来る。足に不自由することはないだろう』

「海も……」


 それって九州を出て本州や四国に向かう事も出来るって事?

 いや、ボルさんたちが東に向かうって言ってる以上、きっと出来るはず。

 それってつまり――、


(――私も東京へ……、家族に会いにいけるって事?)


 こんな世界だし、飛行機や船なんて絶対に使えないと思ってた。

 でも、ナイトメアさんが居れば、時間はかかるけど東京へ向かう事が出来る。

 ばくばくと心臓が高鳴っているのを感じた。

 家族やカズト君に会いたいという気持ちがどうしようもなく膨らんでくる。


『それともう一つ、最後に君に伝えておくことがある』

「何ですか?」

『君はベヒモスとの戦いで盾を使いこなす事が出来た。だが魔剣ソウルイーターにはまだ隠された力があると言われている』

「隠された力……それってどんな能力なんですか?」

『さあな、私にも分からぬが、アガも辿り着けなかった魔剣の極致らしい。そして、その力を身に着けた者はこう呼ばれるそうだ』


 ボルさんは少しだけ間をおいて、



『――――【剣聖】』



 剣聖……なんか凄く強そうな響きだ。

 私みたいな一般人が、そんなアガさんも辿り着けなかった場所に辿り着けるのだろうか?

 後で検索さんで調べてみよう。


『では、そろそろ行くとしよう』

「あ……」


 名残惜しそうに手を前に出す私に、ボルさんはふっと笑って、


『ナイトメア、ハル、七味、そしてあやめよ――さらばだ! また会おう!』


 そう言って、ボルさんは駆けだした。

 少し遅れて、ベレさんも私達の方を見る。


『はっ、精々次に会う時までに死なねーこった! あばよっ!』


 そんな悪役みたいな捨て台詞を吐いて、ベレさんもボルさんの後を追う。


「……今までありがとうございました。絶対にまた会いましょう」


 本当は大声で叫びたかったが、周りに気付かれないように静かにそう呟いた。

 こうして私と骸骨騎士さんたちとのひと時の共闘は幕を閉じた。


「……」


 ボルさんたちが向かった地平の先を眺めながら、胸に手を当てて拳を握りしめる。


「はぁー、本当に凄い人たちだったねー。ちょっと寂しいけど、また会えるかもしれないし……どうしたの、あやめちゃん?」

「……先輩」


 湧き上がる熱に促されるように、私はその想いを口にした。


「――私、東京に行きたい」


 これが私の旅の始まり。

 家族に再会し、カズト君を――弟を助け出す為の長い旅の序章プロローグ

 それが今、幕を開けたのだった。



読んで頂きありがとうございます。

これにて外伝第一章は終了となります。

時系列的には、本編の54話辺り。カズトさんがハイオークさんを倒した辺りですね。

ここからようやく彼女達の旅が始まります。


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本編及び外伝どちらもよろしくお願いします

― 新着の感想 ―
[一言] 兄弟揃ってスキルエグくて草
[気になる点] 魔剣の極地のようなものがあるなら、「魔剣アロガンツ」を手に入れたカズトも極地になれる可能性があるということだよね
[一言] 本編時間が濃縮されすぎて一日の話数とんでもないの草
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