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現代剣聖物語 モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝  作者: よっしゃあっ!


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43.ベヒモス攻略戦 その4


 痛い、痛い、痛い。

 例えようのない痛みが全身を襲う。


「あ、あぁ……うわああああああああああああっ!」


 叫ぶ。

 痛い、痛い、痛い。


「あぐっ……た、立たなきゃ……」


 立ち上がれない。

 足が折れてるからだ。


「盾を……持たなきゃ……」


 無理だ。

 左手が――千切れて、無くなったからだ。

 痛みと共に、真っ黒な感情が私の内側を侵食する。

 恐怖と絶望が、私の心を塗りつぶす。


「グォォオオオオオオンッ!」


 何かの叫び声が聞こえる。

 これ、何の声だったっけ?

 私、何でここに居るんだっけ?

 何を、して――、


「――――――――ぁ」


 そこで、私の意識は途切れた。





「あ、え……? 嘘、あやめちゃん……? あやめちゃん!? いや……いやあああああああああああああああッ!?」


 その光景に、七味は絶叫した。

 すぐに駆け出し、彼女の元へ駆け寄ろうとする。

 だがそれを止めたのは、彼女が跨るナイトメアだった。


「え、降りれない……? はな、離してよっ」

『ミャァー! ミャゥー!』


 ナイトメアは霧で作ったベルトで彼女を固定し、降りられないようにした。

 そのまま駆け出し、ベヒモスと距離を取る。


「違う、そっちじゃないよ! 言う事を聞いて!」

『ミャー!』


 七味と違い、ナイトメアは冷静だった。

 攻撃を弾き、敵を引きつける盾役タンクがやられた以上、次にベヒモスが狙うのは最も火力のある彼女だ。

 

 ――彼女まで失わせるわけにはいかない。

 

 ナイトメアは瞬時にそう判断し、即座にあやめを放置し、ベヒモスから距離を取る事を選択したのだ。


「グルル……ォォオオオオオオンッ!」


 その判断は正しかった。

 ベヒモスは気絶したあやめを放置し、即座に七味へと目標を変えた。

『魔物殺し』、『不倶戴天』、そして魔杖。

 この三つが合わさった七味の火力は、現状、ボル、ベレを含めた中で最も高い。

 彼女さえ潰してしまえば、後は消化試合。

 弱体化した骸骨騎士など物の数ではない。

 ベヒモスはそう判断したのだ。


『――舐めやがってッ!』


 その行動に、ベレはとてつもない屈辱感を味わった。

 瓦礫の中から起き上がると、即座に魔槍を構える。


『こっちを見ろ! クソ獣がぁ!』


 槍の中に込められた魂を解放する。

 魔剣ソウルイータと同じく、魔槍、魔弓にも殺した生物の魂を吸い取る性質がある。

 解放された魔槍の能力は巨大化と投槍の威力強化。

 その貫通力は、とある引き籠り狙撃手スナイパーの改造ライフルを軽く上回る威力を誇る。

 急所に当たれば、ベヒモスとて致命傷になる攻撃。

 その気配を感じ取ったのか、ベヒモスは一瞬だけベレの方を見た。


『喰らえッ!』


 投げる。

 流星のごとく放たれた槍は、真っ直ぐにベヒモスの背中に命中する。

 だが、


「ゴォルル……」


 ベヒモスは止まらなかった。

 魔槍の一撃を喰らったのに、大したダメージを負っているように見えない。

 その理由を、ベレは即座に理解した。


『ッ――!アイツ……直前で体を反らしやがった……!』


 避けるのは不可能と判断し、最もダメージが少ないように体を反らしたのだろう。

 言葉にすれば簡単だが、それがもたらした衝撃は大きい。

 つまりそれはベヒモスが、ベレの投槍を『学習』したという事だ。

 その上、自分に意識すら向けようともしない。

 

 ――お前は脅威ではない。


 ベヒモスにベレはそう判断されたのだ。


『――――』


 矜持を汚され、意識すら向けられない蚊帳の外。

 それは根っからの戦士であるベレにとってこの上ない屈辱であった。


『俺が、敵を……』


 手元に戻った槍をギリギリと握りしめる。

 もうとっくに失くしたと思っていた胸の中心が熱く煮えたぎった。


『……アガの……リィンの敵を討つんだよおおおおおおおおおおッ!』


 ベレは再び魔槍の力を解放し、投槍を行おうとする。

 だがその直前、コツンッと。

 彼の兜に何かが当たった。


『……ぁ?』


 それは弓矢だった。

 

『――落ち着け、馬鹿者』

 

 思念による声に距離は関係ない。

 だが離れたところに居るボルの声が、その時だけはとてもはっきり聞こえた。


『怒りに吞まれるな。激情に身を委ねるな。憎しみに駆られるな』


 ボルは弓を引き、ベヒモスへ狙いを定める。


『――我らのような死者が、生者の『特権』を汚すでない』

 

 放たれた弓は、ベヒモスの背中に命中する。

 だが当然、その程度ではベヒモスの動きは鈍る事はない。

 ボルの弓も、ベレの槍同様、ベヒモスの脅威にはなりえない。


『ハッ……んなこたぁ、分かってるよ』

  

 だが、仲間の暴走を射止める事には成功した。

 死者が激情に駆られるなど笑い話にすらならない。


『……何体用意できた?』

『六十七体だ。トレント共の巣穴を漁って素材を掻き集めたが、これが限界だった』


 ぱちんと、ベレは指を鳴らす。

 すると地面からボコボコとスケルトンたちが姿を現した。


『……予定よりもだいぶ少ないな』

『しょうがねぇだろ。たった一日しかなかったんだ。それに大半の素材は最初の戦いで消費しちまった』


 ベレがベヒモスとの戦いの為に用意していたのは、このスケルトンたちであった。

 高位のスケルトンは死体や骨を利用することで、自分の配下となるスケルトンを生み出す事が出来るのだ。


『だがこれで時間は稼げる。全て消費しても良い。あやめが傷を癒すまでの時間を稼ぐぞ』

『あぁ? 治んのかよ、アレ?』

『彼女の相棒パートナーのスキルを使えば可能なはずだ。どの道、彼女とハルが居なければ、この戦いは勝てない』

『ハッ――』

 

 ベレの眼窩の炎が揺れる。

 もし表情があれば、彼は今笑っていただろう。

 たかが一人の人間の為に時間を稼ぐなど、少し前の自分では信じられない事だ。


『面白れぇ、あの女が考えた『作戦』ってのがどの程度のもんか、確かめねぇとな』

『そう言う事だ。では往くぞ、ベレよ』

『ああっ!』


 骸骨騎士二人はスケルトンを引き連れ、ベヒモスへ攻撃を再開する。




 一方、その頃瀕死のあやめに近づく気配があった。


「みゃぁー」


 それは一匹の猫であった。

 彼女が信頼し、これまで共に歩んできた唯一無二の相棒パートナーハルである。


「みゃぅー」


 起きて、と。

 ハルはぺろぺろとあやめの顔を舐める。

 返事はない。


「みゃぁー!」


 ハルは己の固有スキルを使う。

 ハルの固有スキル『変換』は、ただ一度だけ対象を変化させることが出来る。

 どれ程の大怪我を負っても、死んでいなければ元の状態に戻すことが可能なのだ。

 瞬く間にあやめの傷は癒え、元の状態へと戻った。


「みゃぅー?」

「……」


 だが返事はない。

 傷は癒えたのに、彼女は目覚めてくれない。


 ――『変換』は体の傷は癒せても、精神の傷は癒せない。


 彼女の心が目覚める事を拒絶しているのだ。

 

「みゃぁー! みゃぅー!」


 何度も、ハルは彼女に体をこすりつける。

 このままではみんな死んでしまう。

 彼女の先輩も、骸骨の騎士たちも、みんなベヒモスに殺されてしまう。


「みゃぁー」


 だから早く目を覚まして。

 何度も何度も、ハルはあやめのために鳴き続けた。


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本編及び外伝どちらもよろしくお願いします

― 新着の感想 ―
[気になる点] どうせなら元に戻すんじゃなくて 強化した状態に変換すれば良かったのに
[気になる点] こんなに簡単に一度きりの変換を使ってよかったのか
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