36.効率は大事
『メール』を取得した私達は一旦、学校へと戻って来た。
佐々木さんたちにメールについて説明する。
「スキルによるメールを送れば、その人はメールの取得条件を満たします。SPが1ポイント必要になりますが、これがあればどんなに離れていても連絡を取り合う事が出来ます」
「確かに……。これは凄いスキルですね。今の状況でこれ以上ないくらい有用なスキルだ」
「マジかよ、九条さん優秀すぎないか?」
「ハァ……ハァ……マジ可愛い。踏んで欲しい」
消防隊の人達は佐々木さん以外SPを使い切っていたので、レベルが上がった際に『メール』を取得することになった。
これで連絡のやり取りが格段に良くなるだろう。
あと最後の人は佐々木さんに頼んで折檻してもらった。
あんな人でも公務員試験は受かるんだから、やっぱり世の中ってどこか歪な気がする。
「そう言えば、自衛隊の駐屯地に向かってた人達はまだ戻って来てないんですか?」
「いや、先程戻ってきました」
「本当ですか? ど、どうだったですか?」
自衛隊の力が借りられるなら戦力としては非常に心強い。
だが、期待する私とは対照的に佐々木さんは渋い表情を浮かべる。
「……残念ですが、協力は得られませんでした」
「え?」
「自衛隊の駐屯地は既にモンスターの襲撃を受けて壊滅していたそうです。生き残った隊員もいたらしいですが、とても私達を手助けできるような状況ではないと……」
「そんな……」
その知らせを聞き、私と先輩は絶望する。
救援要請に向かった消防隊員の話では、自衛隊の駐屯地はここよりもずっと酷い有様だったらしい。
建物や戦車、ヘリはほぼ壊滅し、隊員の殆どが死亡。
その周辺もまるで何度も嵐が来たかのような酷い有様だったとの事だ。
「おそらくはベヒモスの仕業でしょう。九条さんたちの話と合せて推測するに、あの化け物が最初に出現したのは自衛隊基地の近くだったのではないでしょうか? 壊された建物や破壊の傷跡が、ここや他の学校のものと酷似していたようです……」
「……そう、ですか……」
なんてことだ。
まさかここにきて、またあのベヒモスが障害になるなんて。
あくまでこの状況は偶然だろうが、それにしてもタイミングが悪すぎる。
「それとベヒモスの水晶も確認してきました。いえ、その……九条さんの事を信じていなかったわけではないのですが念のために」
「いえ、当然だと思います」
むしろ確認もせずに、鵜呑みにするような人たちじゃなくてよかったよ。
その方が逆に信頼できる。
「九条さん、改めて聞きますが本当にベヒモスと戦った骸骨のモンスターたちの行方は分からないんですか?」
「……はい、全く」
「そうですか……」
「ただ、相当に深手を負ってたと思います。どこへ逃げたのかはわかりませんが……」
「いえ、それは仕方ありません。あんな災害のような状況で生き延びることが出来ただけでも凄い事ですよ」
「……」
すいません、佐々木さん。
今のは嘘です。
本当は足元に居ます。
『――やはり、話すべきではないな……』
影の中からボルさんの思念が届く。
『周囲に負の感情が渦巻いている。自衛隊とやらが何かは知らぬが、彼らの仲間がもたらした情報がそれに拍車をかけているようだ。我々の事を話したとしても、今の彼らでは受け入れられぬし、我々を信じる事など出来ぬだろう』
やっぱりそうなるよね……。
でも、
「……ボルさんたちはそれでいいんですか?」
ちらりと、ボルさんだけに聞こえる声で尋ねる。
『構わんよ。我々はアンデッド――モンスターだからな。どうあっても人とは相容れぬ身だ』
どこか寂しそうにボルさんはそう言った。
『それよりも連絡手段が出来たのならば、早々にレベル上げに努めるべきだ。時間は限られているのだからな』
「うん、そうだね」
佐々木さんとの話は終わり、私は先輩と共に再びレベル上げのために街に繰り出した。
連絡手段が出来た以上、次に狙うのは経験値効率の良いモンスターだ。
検索さんによれば、モンスターから得られる経験値は、個体や種族によって異なり、基本的にはLVが高く、上位種族になればなるほど経験値も多く手に入るとのこと。
だが、それ以外にも例外的に経験値やSP、JPを通常よりも多く手に入るモンスターもいるとのこと。
上位種とは違う『希少種』と呼ばれるモンスターたちだ。
「はぐれスライムみたいなもの?」
「うーん、多分そんな感じだと思います」
私、ド〇クエはやったことがないのであまり知らないけど……。
とにかく倒せば大量の経験値やポイントが手に入るボーナスモンスターというのもこの世界には存在するらしい。
ホントにゲームみたいだよね、この世界。
『……そんなモンスターが居るとは初耳だな』
「ボルさんたちも知らないんですか?」
『ああ、そういうモンスターの存在自体初めて聞いた。世界がこうなってから『生み出された』モンスターかもしれん。……もっとも我々が知らなかっただけという可能性もあるがな』
カオス・フロンティア……二つの世界が融合した新たな世界。
ボルさんたちの居た世界の常識すら、この世界では通用しないこともあるってことか。
『けっ、そんなのどうでもいいだろうが。要はそいつを倒せば強くなれるんだろ? ならさっさとそいつを探し出せ。話はそれからだ』
「ですね」
ベレさんは相変わらず口は悪いが、正論だ。
「それであやめちゃん、そのモンスターってどんなモンスターなの?」
「ああ、それはですね、先輩――」
ぴんと私は指を立てて、
「――レッド・スライムって言うらしいです」
通常のスライムは青色だが、稀に赤い個体が生まれることがあるらしい。
そしてその赤いスライムを倒せば、莫大な経験値、そして大量のSPとJPが手に入ると検索さんは言っていた。
という事で、次の獲物はレッド・スライムだ。




