33.ハルさんの固有スキル
家族に会いたいという思いを必死に堪え、私は行動を再開する。
レベル上げと、連絡用のスキルの取得だ。
今の世界ではスマホも無線も使えない。
口頭や原始的な狼煙くらいしか連絡手段がないのだ。
検索さんに調べて貰ったところ、『念話』の他にも『メール』、『通話』、『意思疎通』といった連絡用のスキルがあるらしい。
ただし『念話』や『意思疎通』は基本的にモンスターしか使えず、人が取得する場合には特定の職業に就く必要がある。『魔物使い』という職業らしいが、説明を聞くとかなりやばい職業だったので却下した。
運がよければ、初期取得スキルで手に入る場合もあるらしいけど、あいにく私を含めその手のスキルを持ってる人は居なかった。
なので、まずはレベル上げも兼て、連絡用のスキルを取得することにした。
『メール』、『通話』の取得方法は以下の通りだ。
『メール』の取得条件
・ドロップボックスのスキルオーブより一定確率で取得
・ガチャのスキルオーブより一定確率で取得
・メール取得者よりメールを受信する
・スカルシープ討伐の際一定確率で取得
・スカルターベ討伐の際一定確率で取得
『通話』の取得条件
・ドロップボックスのスキルオーブより一定確率で取得
・ガチャのスキルオーブより一定確率で取得
・カースドナイト討伐の際一定確率で取得
・ドラゴン種討伐の際一定確率で取得
こんな感じだ。
『ほう、我々を倒すとそんなスキルが手に入るのか』
足元の影からボルさんが声を上げる。
「ボルさんたちってカースドナイトって種族なんですか?」
『ああ。そうだ。とはいえ、流石に討伐されてやるつもりはないぞ?』
「しませんよ」
いくらなんでもスキル取得の為に、ボルさんたちを討伐するつもりなんてない。
というか、メールに比べ、通話の取得条件が厳しすぎる。
ボルさんと同格のモンスターやドラゴンとか絶対勝てないって。
てか、やっぱドラゴンっているんだなぁ、今の世界。
『竜種はどれも強いぞ。我々も一度ブルードラゴンの雌と戦ったが、手も足も出なかった』
『だな。……途中で番いっぽいもう一匹のドラゴンが来た時は流石に死んだと思ったぜ』
戦ったことあるんだ……。
「で、でもそれで生き延びたって凄いですね」
『たまたま番いの竜が話の分かる奴であっただけだ。もう少し来るのが遅かったら、我々は今頃ここには居ないだろうな』
「へぇー、会話が出来たってことは、その竜も知性を持ってたんですか?」
『ああ。我々に限らず長い時を生きたモンスターや、力の強い個体は理性や知性も高くなるケースも多い』
成程……、てことは私が戦ったモンスターの中にもそんな個体が居たのだろうか?
あの猿とか、ワイズマンワームとか。
『……とはいえ、そんなモンスターは稀だ。ベヒモスのように強くとも本能のままに暴れる種族も居る。だからあやめよ、戦う時に躊躇はするな』
「……はい」
内心を見透かされたかのように、ボルさんはフォローを入れる。
本当にこの人凄く優しい。……人じゃないけど。
話が脱線しちゃった。
ともかく、条件的に『通話』の取得が不可能な現状、私が選べるスキルは『メール』のみ。
スカルシープかスカルターベの討伐だ。
検索さんによれば、スカルシープは骨だけの羊のようなモンスター。
スカルターベは骨だけの鳥のようなモンスターらしい。ターベって事はハトなのかな?
どちらもボルさんたちと同じアンデッドのモンスターで、この周辺に生息しているらしい。
『戦うならばスカルシープだな。スカルターベは空を飛ぶ上、中々素早い。今のあやめたちでは荷が勝ちすぎる相手だ』
「ですね……」
という事で戦う相手はスカルシープに決定。
それじゃあ早速先輩やハルさんと一緒に向かわなきゃ――……ってあれ?
「……先輩?」
あれ? 先輩、どこ行った?
周囲を見回すと、瓦礫となった校舎の隅で、ハルさんと何やら作業をしていた。
「……先輩何してるんですか?」
「ひゃぅ!?」
私が声を掛けると、先輩は凄く驚いた表情で振り返った。
「あ、あやめちゃんかぁー。驚かさないでよ」
「いや、普通に話しかけただけですけど……。というか、なにしてたんですか?」
先輩が持っていたのは折れた杖だった。
もともと先輩が持ってた杖とは形が違う。
「それって……ボルさんたちの仲間が使ってた杖ですか?」
「うん、折れてるけど何とか使えないかなぁーって色々試してたんだ」
「みゃぁー」
先輩が折れた杖を私に見せる。
てか、その杖ベレさんが持ってなかったっけ?
『さっきソイツに渡した。俺たちが持っていても役にはたたねぇからな』
「いいんですか……? その、仲間の形見なんですよね?」
まあ、それを言ったら私の魔剣もそうだけど。
『馬鹿か、テメェは。武器は使われてなんぼだろうが。使えそうな奴が居んのに、使わねぇでほこり被ってる方がリィンにもアガにも失礼だ。アイツらもそう言うに決まってる』
口は悪いけど、それがベレさんなりの死んだ仲間への気遣いらしい。
何も言わないって事は、ボルさんも同じ気持ちなのだろう。
「分かりました。それならありがたく使わせてもらいます」
『けっ』
何となく影の中で顔を逸らすベレさんの姿が浮かんだ。
「それで先輩、どうですか? 使えそうです?」
「うーん、ちょっと難しいかも……。そもそも折れてるから何の反応も無いし……」
ボルさんたちの仲間が使っていた杖は真ん中からぽっきり折れてしまっている。
元々がかなり長い杖だったので、今のサイズで先輩が持つには丁度いいんだけど、壊れているなら持つ意味も無い。
でも、ベレさんの口調だとこの状態でも使えるっぽいよね。
適正とかがあるのかな?
私が魔剣を手に入れた時も、アナウンスが流れてたし。
「みゃぁ」
するとハルさんが折れた杖にしがみついた。
すると不思議な事が起こった。
杖が淡く光り輝き、折れる前の姿に戻ったのだ。
しかも先輩が持つのにちょうどいい大きさに変化している。
「あれ? なにこれ……所有者……? 登録……?」
先輩がそう呟くと、杖は光の粒子となって先輩の中へと吸収されていった。
「え、えっ? なにこれ、どういう事なの?」
混乱する先輩。
「……今のってハルさんがやったの?」
「みゃぁー」
ハルさんは「そうだよー」と頷く。
武器を変化させるスキル?
そう言えば、私が魔剣を手に入れたあの時も、武器の大きさに違和感があった。
もしかして、あの時もハルさんの仕業だった……?
『変化』……それがハルさんの固有スキルの名前……?
いや、なんか違う気がする。
でも近い名前だったような……あ、そうだ! 思い出した!
「――『変換』だっ!」
「みゃっ!?」
「え、なにっ?」
ようやく思い出せた!
それがハルさんの持つ固有スキルの名前だ。
「あやめちゃん、どうしたの?」
「あ、先輩、すいません。何でもないです」
私が急に大声を上げたのに驚いたのか、先輩やハルさんが何事かと見つめてくる。
す、すいません、驚かせてしまって。
(ともかく、スキル名は『変換』で間違いないはず。検索さん、お願いしますっ)
するとすぐに検索さんの回答が来た。
≪スキル『変換』≫
≪一つの対象の姿、状態、スキルの効果、性能を一度限り変化させることが出来る≫
ようやく判明したハルさんの固有スキル。
それは私が思っていた以上の超絶チートスキルだった。




