24.おや、ハルさんの様子が……
「ウキ……ウッキャアアアアアアアッッ!」
クレイジーエイプは大きく跳躍すると、先ほど居た巨木の枝を思いっきりへし折った。
「なっ……!?」
嘘でしょ?
巨木の枝は幹に比べれば確かに細いが、それでも人の腕よりも遥かに太い。
それに長さも数メートル近くあるのにあっさりとへし折るなんて。
なんて腕力だ。
≪クレイジーエイプは『狂化』によって全ステータスを上昇させています≫
検索さん、解説サンクス。
あの毛が逆立ったり、目が赤黒く濁ったのはやっぱりスキルだったのか。
てか、全ステータス上昇ってちょっとズルくない?
「ウッキャアアアアアアアアアアッ!!」
クレイジーエイプはその枝をブンッと振り回し、私たちを攻撃する。
鞭のようにしなった枝は、軽々と地面を陥没させた。
「うっそ……」
その威力に私は寒気がした。
たかが木の枝。されど木の枝。
そういえば、妹がハマってた漫画に丸太で敵を倒すキャラが居たな。
漫画だって馬鹿にしてたけど、丸太って本当は凄く理にかなった武器だったのね……。
≪……≫
なにやら検索さんの呆れる気配がするが、今はスルーだ。
「火球!」
「ウッキィ!」
クレイジーエイプは先輩の放った火球をあっさりと避けた。
「先輩! クレイジーエイプは『狂化』ってスキルでステータスを上昇させています! 普通に攻撃しても避けられます」
「えェ!? じゃあ、どうするの?」
本来なら私が前に出て戦い、先輩が後方から支援するってのが、正しい戦法なんだろうけど、今の先輩の腕前じゃ、私に当たる可能性もある。
私も先輩の攻撃を気にしつつ、戦える自信は無い。
となれば――、
「先輩! 奴の足元に向けて火球を!」
「えっ? わ、分かった! えいっ」
先輩は私の指示通りクレイジーエイプの足元を狙って火球を放つ。
「ウッキィ!」
当然、ステータスが強化されたクレイジーエイプはこれを簡単に避けた。
――ここだ!
「えいっ!」
「ウッキャッ!?」
私は手に持ったソウルイーターをクレイジーエイプ目掛けて投げつけた。
空中なら躱せないよね!
「ウッギャアアアアアァッ!?」
クレイジーエイプの脇腹を、ソウルイーターは軽々と切り裂いた。
よし、狙い通り!
「ッ――ウッギィィィイイイイイイイッッ!」
だがそこでクレイジーエイプは恐るべき反応速度でソウルイーターを抱き寄せた。
木の枝を投げ捨て、自分を切り裂いた魔剣を構える。
そうだよね。木の枝よりも、そっちの方が断然強いよね。
「ウ、ウキキ……」
「あやめちゃん、武器が!」
魔剣をもって勝ち誇った笑みを浮かべるクレイジーエイプ。
後ろから先輩の泣きそうな声が聞こえてくるが問題ない。
「残念だけど、返してもらうね」
「ウキ……? ウッキィッ!?」
私が手をかざした瞬間、ソウルイーターはクレイジーエイプの手から消え、私の体内へと収まった。
うん、試してなかったけどやっぱりこの方法、使えるみたいね。
この魔剣は私の意思で自由自在に収納できる。
それなら相手に投げつけて、その後手元に戻すことも出来るんじゃないかと思ったのだが、予想通りだった。
「ウ、ウキ? ウキキキイ?」
魔剣が消え、動揺するクレイジーエイプ。
「先輩、今です!」
「え、あ……うんっ! 火球!」
「ッ……ウッキャアアアアアアッッ!」
先輩の放った火球は動揺するクレイジーエイプの頭に被弾し、炎上する。
クレイジーエイプは地面を転がり、必死に火を消そうとするが、そんな時間は与えない。
「悪いけど、そっちから襲ってきたんだから恨まないでよっ」
私は再びソウルイーターを取り出し、クレイジーエイプに斬りつけた。
≪経験値を獲得しました≫
≪熟練度が一定に達しました≫
≪剣術がLV3からLV4に上がりました≫
経験値を告げるアナウンス。
「な、何とか勝てたね……」
「ええ、ですが、油断しないで下さい、先輩……」
「え?」
検索さんの情報ではクレイジーエイプは群れで行動するモンスター。
どこかに仲間が潜んでいる可能性は高い。
「……出てこないね?」
「そう、ですね……」
たまたま一匹だけだったって事かな?
だとすればラッキーだ。
一匹だけでもかなり強かったし、あのレベルが群れで来られたら危なかった。
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クジョウアヤメのLVが13から14に上がりました≫
え? アナウンス?
どうして……?
「あれ? そういえば、ハルちゃんは?」
「え……?」
そういえば、先ほどからハルさんの姿がない。
すると少し離れた茂みから、ハルさんが出てきた。
「みゃぁ」
「ハルさんッ! どこに行ってたのさ」
「……けっぷ。みゃぁー」
ハルさんは口元をぬぐうと、申し訳なさそうに頭を下げた。
全くもう、心配させないでよ……。
というか、なんでそんなお腹いっぱいな顔してるのさ。
「あー! あやめちゃん! これ見てよ!」
「どうしたんですか、先輩?」
「いや、だってこれ……。私もレベル上がって、今ステータス見たんだけど、パーティーメンバーのとこ……これって……」
「……?」
要領を得ない先輩の言葉に首をかしげつつも、私も自分のステータスを開く。
パーティーメンバーのところがどうしたって言うのさ?
クジョウ アヤメ
LV14
HP :113/103
MP :70/70
力 :104
耐久 :102
敏捷 :104
器用 :107
魔力 :60
対魔力:60
SP :3
JP :4
職業:聖騎士LV4
固有スキル 検索
スキル
剣術LV4、纏光LV2、聖属性付与LV2、浄化LV2、肉体強化LV3、刺突LV1、ストレス耐性LV2、恐怖耐性LV2、毒耐性LV1、麻痺耐性LV1、ウイルス耐性LV1、毒薬生成LV1、応急処置LV2、番狂わせLV1、逃走LV2、鑑定LV1
パーティーメンバー
ハル 猫又 LV1
ヤシマ シチミLV3
………………んん?
なにやらハルさんの種族がおかしなことになっていた。
本編時系列 カズトさん起床




