23.先輩とハルさんのステータス
お昼はコンビニから拝借してきたお弁当だ。
リュックはないので、レジ袋に入れて持ち歩いてきた。
流石に、あの河原で食べる気はないので、少し移動する。
……そういえば、ワイズマンワームの肉片って消滅せずに残ったけど何でだろう?
≪絶命する前に肉体から切り離された部分は消滅せずに残ります≫
あ、そうなんだ。
ありがとうございます、検索さん。
≪追記≫
≪ワイズマンワームの肉は非常に美味で栄養価も豊富です。血抜き、保存加工の必要もないため、携帯食として持ち歩くことを推奨します≫
要りません。
それは遠慮します。
≪…………≫
まあ、食料の問題はこれから考えなきゃだけど、流石にモンスターの、それもでっかいミミズの肉を食べるのは流石に遠慮したい。
……どうしようもなくなったら考えるかもだけど、そんな事態がないように頑張ろう。
「あそこにあるベンチで食べますか」
「そ、そうだね……」
「みゃぁー」
お昼を食べると、大分気持ちが回復してきた。
うん、さっきはヤバかった。
何というか、私じゃないもう一人の私が暴れまわっているような感覚だった。
アレは良くない。心の平静大事、ほんと。
「それじゃあ、『鑑定』スキルを試してみますね」
「うん」
と言っても、先輩のステータスは事前に教えてもらってるので見るのはハルさんの方だけだ。
あ、ちなみに先輩の現在のステータスはこんな感じだ。
ヤシマ シチミ
LV3
HP :18/18
MP :35/35
力 :10
耐久 :8
敏捷 :9
器用 :11
魔力 :20
対魔力:20
SP :0
JP :0
職業:魔術師LV2
固有スキル なし
スキル
火魔術LV2、魔術強化LV2、MP強化LV1、初級魔道具作成LV2
先ほどの戦闘で先輩もレベルが2つ上がった。
なので魔術師をLV2に上げ、火魔術、魔術強化、初級魔道具作成をそれぞれLV2に上げたようだ。
初期獲得スキルもいろいろあったのだが、耐性スキルや役立ちそうなスキルが殆どなかったため、今あるスキルを伸ばす方向にしたらしい。
「そういえば、魔道具のレベルが上がりましたけど、LV2だとどんなのが作れるんですか?」
コンビニで試したが、LV1で作れる魔道具は『火石』というこぶし大の火を起こす石だった。
ただ火力が弱く持続時間も短いため、せいぜい火を焚いたり、水を沸かす程度にしか使えなかった。
レベルが上がって、もう少し良いものが作れるようになったのならいいけど……。
「えーっと、LV2だと……あ、『火魔術の杖』ってのが作れるみたい」
先輩が手をかざすと、何もない空中に捻じれた杖が現れた。
木の枝をねじったようないかにもファンタジーの魔法使いが使ってそうなヤツだ。
「これが火魔術の杖だね。あ、頭の中に使い方が浮かんできた。えーっと……あ、凄い。これを持ってスキルを使えば、威力が15%上乗せされるんだって。それとMPの消費も一割抑えられるみたいだよ」
「それは凄いですね」
威力の上乗せに、MP消費も削減できるなんて凄い魔道具だ。
やっぱり魔術師は当たりの職業かもしれない。
「あ、でも回数制限があるみたい。十回以上のスキルの使用には耐えられないんだって」
「あー、成程。そのくらいのデメリットは仕方ないですね」
「一本作るのにMPが10必要みたいだから、戦いの最中に作り直すのは難しいかも。でも作り置きは効くみたいだし、今のうちにもう一本作っておくね」
「そうですね。それがいいと思います」
先輩のMPはおおよそ一時間くらいで20回復する。
私は一時間で10程度だから、倍近い回復速度だ。
この辺も、職業の違いが反映しているのだろう。
「さて、それじゃあ本命のハルさんのステータスだね」
「みゃぁー?」
ハルさんに向けて『鑑定』を発動する。
ちなみに『鑑定』を取得できたのは私だけで、先輩は取得できなかった。
あんだけ怖い思いをさせたのに申し訳ないけど、こればっかりは運なのでしょうがない。
さて、ハルさんのステータスはどんな感じだ?
ハル
三毛猫LV9
HP :1■/1■
MP :■/■
力 :9
耐久 :■■
敏捷 :■■
器用 :1■
魔力 :■
対魔力:■
SP :18
固有スキル ■■
スキル
戦闘支援LV1、透■LV2、■■■■LV1、■音■■LV2、■主■守LV2
なんだこれ、文字化けして殆ど見えない。
どういうこと?
≪鑑定はLVに応じて見える情報量が変化します。相手の意思にもよりますが、LV1では相手が容認しても名前、LVを確認できる程度です≫
そ、そんなぁー。
あれだけ必死になって覚えたのに。
でもまあ、鑑定のレベルが上がればもっとちゃんと分かるようになるか。
こんなことなら、さっきのレベル上げで入ったSPの分、鑑定に当てればよかった。肉体強化と剣術の方、上げちゃったもんなぁ……。
「みゃぁー?」
「何でもないよ、ハルさん。そんな不安そうな顔しないで」
私が残念がっているの察したのか、ハルさんが不安そうな顔で私にすり寄ってくる。
不安そうなハルさん、凄く可愛い。抱きかかえてなでなでするとようやく安心したようだ。
「懐かれてるね」
「嬉しいです。まだ飼って二ヵ月くらいなんですけど」
「へぇー、ちなみにどうやって出会ったの? ペットショップ……じゃないよね? オスだし」
「はい、アパートの近くで段ボールに入れられてて、見た瞬間放っておけなくて……。ん? なんで捨て猫だって分かったんですか?」
「だって三毛猫のオスって凄く希少なんだよ? 知らなかったの?」
「……初耳です」
「まあ、血統書がないと価値とかないみたいだけどね。でも珍しいのは間違いないよ?」
「へぇー」
「みゃぁー?」
知らなかった豆知識。
まあ、希少だろうが、何だろうが、ハルさんはハルさんだしね。
おー、ほれほれ、耳の付け根が気持ちいいのかなぁー?
「ふみゃぁー……」
ご機嫌な声を上げるハルさんを見てると、凄く癒される。
はぁー、こんな地獄みたいな世界でも、ハルさんはほんと癒しだよ。
「というか、先輩、何故そんな豆知識を?」
「私も昔猫飼ってたの。この子と同じ三毛猫でさ。……もうずいぶん前に死んじゃったけどね」
「そうだったんですね」
そう言って先輩は少し寂しそうにハルさんを撫でた。
「ん……?」
「どうしたの?」
「……なんだか嫌な気配がします」
背中がざわざわする。
多分、近くにモンスターが居る。
周囲を確認すると、周囲に生えた巨木。
その枝に猿のようなモンスターが居た。
体毛が黒く、手が異様に長い。
「キキキ……」
「ッ……!」
猿のモンスターと目が合った。
奴は牙をむき出しにして嗤う。
すると、奴の肉体に変化が起きた。
ざわざわと全身の毛が逆立ち、目が赤黒く変色したのだ。
(まさか……コイツが検索さんの言ってたクレイジーエイプ……?)
どちらにしてもあのモンスターは私たちを逃がすつもりはないらしい。
「先輩、休憩はここまでです」
「うんっ」
「みゃぁー」
ソウルイーターを取り出し、先輩は火魔術の杖を構える。
「ウッキャァアアアアアアアアアアアッッ!」
次の瞬間、クレイジーエイプが私たちへと襲い掛かった。




