20.先輩の職業
「ハァ……ハァ……こ、ここまで来れば大丈夫だよね?」
「はい……多分……」
私と先輩はめっちゃ走った。
それはもう全力の全力だった。
だって芋虫怖いんだもん。
いや、ベヒモスの方が何倍も怖いんだけどさ、虫の怖さって怖さのベクトルが違うじゃん。
もう生理的に無理です。ごめんなさい。
「あ、先輩。あそこにコンビニがありますよ。ちょっとそこで休憩しましょう」
「さ、さんせー……」
モンスターの気配もないし、大丈夫だろう。
ついでに何か食べ物ないかな?
昨日の夜から何も食べてないし、お腹減った。
私たちは吸い寄せられるようにコンビニへと向かった。
「荒れてるね……」
「ですね」
「みゃぁー」
案の定というべきか、コンビニの中は酷い有り様だった。
ガラスは割られ、棚が倒れ、商品が床に散乱している。
「割と食べれそうなものは残ってますね」
未開封のおにぎりやお菓子、それに飲み物もある。
「あ、ハルさんのご飯も置いてるよ」
「みゃぁー♪」
いつもあげてるご飯とは違うけど、ペットフードがあったのはありがたい。
私たちだけ食べて、ハルさんは何も食べれないのは可愛そうだよね。
「でも良いのかな、これって泥棒なんじゃ……」
「……非常時ですし仕方ないですよ。先輩だってお腹空いてるでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「それに根こそぎ持っていくわけじゃないですし、食べる分だけですよ。……一応、レジにお金おいておきます?」
「だね」
お財布はポケットに入っていたので、私たちは食べる分のお金をレジの傍に置いた。
こんな状況でお金も何もないと思うけど、やっぱり罪悪感があるもの。
私と先輩は床に座って、少し遅めの朝食を食べた。
「はぁー、お腹いっぱい。美味しかったぁー……」
「そうですねぇ……。コンビニのお握りってこんな美味しかったんですね……」
空腹や疲労もあってか、味の濃いコンビニのご飯が物凄く美味しく感じた。
「お腹も膨れましたし、先輩、そろそろステータスの方を確認しませんか?」
「あ、そうだね。えーっとステータスオープン……だっけ? あ、ほんとに出た」
「何が見えますか?」
「うーんと、長方形の透明な板みたいなのが見えるよ。私の名前やゲームみたいなステータスが載ってる」
私のと同じだ。
てことは、ステータスプレートの形はみんな同じなのね。
……他人からは見えないけど。
「先輩、ステータスの下の方に職業って欄があるはずです。そこに触れれば、先輩の選べる職業が出てくるはずです」
「分かった。……出てきたよ。えーっと、市民、事務員、冒険者、引き籠り、魔術師、治療師、奇術師、駆除人、だね。全部で八つあるよ。これって多いのかな?」
「どうなんですかね? 私も確か同じくらいだったと思います」
でも選べた職業は結構違う。
人によって最初に選べる職業の種類は違うってことか。
「どれ選べばいいかな?」
「ちょっと待ってって下さい。今、検索で調べてみますから」
検索さーん、教えてくださーい。
≪――検索に該当する思念を確認しました≫
検索さんはそれぞれの職業の特徴や取得できるスキルを細かく教えてくれた。
やっぱりすごく便利なスキルだ。
私は検索さんに教えてもらった情報を先輩に伝える。
「うーん、どれにしようかなぁ。九条ちゃんは何がお薦め?」
「そうですねぇ……」
先輩に合ってそうな職業かー。
どれだろうな?
「とりあえず『引き籠り』だけは絶対ないですね」
「だよねー」
これに関してだけは満場一致だった。
これほど地雷な職業はまずないだろう。
ステータスが滅茶苦茶下がる上に、その後いくらレベルを上げてもほとんど上がらないとか地雷もいいところだ。しかも室外に出れば更に運動能力が低下するおまけつき。
更に取得できるスキル『ガチャ』は完全に運任せのスキル。
運が良ければ強力なスキルや職業も手に入るらしいけど、絶対上手くいくわけない。
そもそも引き籠りって職業じゃないでしょ。
「うーん、良さげなのだと『魔術師』か『治療師』とかかなぁ……」
「あ、確かに。その二つは割といい感じの説明でしたしね」
魔術師と治療師。
この二つは多分、当たりの職業だと思う。
≪『魔術師』について≫
≪魔術系の初期職業。MP、魔力、対魔力が上昇する。同じく三項目に成長補正。火、水、風、土、聖、闇の六属性の魔術の内一つを選んで取得できる。スキル『魔術強化』、『MP強化』、『初級魔道具作成』を取得できる。演算スキルには及ばないが多少は頭の計算が早くなる≫
≪『治療師』について≫
≪魔術系の初期職業。MP、魔力、対魔力が上昇する。同じく三項目に成長補正。スキル『治癒』、『MP強化』、『回復薬作成』、『結界』を取得できる。≫
どちらも魔術系の初期職業らしい。
説明文を見ても、割といい感じの職業だし、先輩の性に合ってるように思える。
先輩って小さいからとんがり帽子とか捻じれた杖とか凄く似合いそうなんだよね。
コスプレにしか見えないけど。
そんな私の視線をよそに、先輩はうんうん唸りながら、真剣に考えてる様子だ。
「あやめちゃんは聖騎士ってのを選んだんだよね?」
「そうですね」
「うーん……」
先輩はしばし考え、やがて小さく頷いた。
「――決めた。私、『魔術師』にする」
「魔術師、ですか?」
「うん。最初は怪我した時とかの為に、『治療師』にしようかなとも思ったんだけど、九条ちゃんは『応急処置』を持ってるし、それなら魔術師の方がいいかなって。それに――」
「それに?」
すると先輩は私の方をじっと見つめて、
「――あやめちゃんだけに戦わせるのはやだもん……」
「先輩……」
「そりゃモンスターと戦うのは怖いよ。昨日みたいなのが出たら、きっと凄く震えるだろうし、泣いちゃうかもしれない。でも、それでも――あやめちゃんだけに無茶させるのはもっと嫌」
「……ありがとうございます、先輩」
こんないい先輩が居て、私は幸せ者だ。
「分かりました。これからよろしくお願いします、先輩」
「うん、こっちこそ」
こうして先輩の職業は『魔術師』となった。
パーティーメンバーにも加わり、スキルの効果も検証する。
「よし、それじゃあ今度こそモンスターを狩りに行きましょう!」
「おー」
「みゃぁー」
私たちはコンビニを出て、町へと繰り出した。
クジョウ アヤメ
LV11
聖騎士LV4
ヤシマ シチミ
LV1
魔術師LV1
ハル
三毛猫LV9
ちなみにカズトさんはまだ寝てます




