15.吐きそうです
「大丈夫、立てる?」
「うんっ」
子供を立たせると、私は周囲の状況を確認する。
他にモンスターは……居ない。
少なくとも目の届く範囲には。
(あ、魔石だ)
足元に親指ほどの大きさの魔石が転がっていた。
色は緑色だが、最初に拾った魔石に比べればちょっと濁った感じの色彩をしていた。
検索さん曰く、モンスターの生前情報や経験が全て蓄積されているとのこと。飛行機のブラックボックスみたいね。
とりあえず拾ってポケットに入れる。
「はぁ~~~~~~~」
大きくため息をつくと、どっと疲労感が押し寄せてきた。
怖かった。本当に怖かった。
未だに心臓がバクバク言ってるし、背中に嫌な汗が張り付いて気持ち悪い。
でも、それ以上に――
「うっぷ……」
思わず口元を手で押さえ、こみ上げる吐き気を必死に抑える。
斬った。モンスターを。
(気持ち悪い……)
仕方がなかったとはいえ、モンスターを――生き物を自分の手で斬る。
それはどうしようもないほどに不快で気持ち悪い感覚だった。
それでも剣なんて握ったこともないド素人の私が、あの蛇を一刀両断できたのは間違いなくスキルやステータスのおかげだろう。
(恐怖耐性やストレス耐性があってもこれかぁ……)
きっついなぁ……。
ポイントの振り分け間違えたかな?
もっと耐性スキルのレベル上げておけばよかった。
「おねぇさん、だいじょうぶ?」
「……大丈夫だよ。ごめんね、心配させちゃったね」
あらら、助けたはずの子供に心配されたよ。
よほど私の顔色が悪かったのだろう。
すると人だかりから誰かがこちらへ走ってきた。
「翔太! 翔太ぁ!」
「おかーさんっ」
どうやらこの子の母親のようだ。
ぎゅっと抱きしめると、ボロボロと涙を流した。
「駄目じゃないの、勝手に外に出ちゃ……」
「ごめんなさい……ごめんなさい、お母さん」
再会を果たした二人は顔を上げ、私の方を見ると、頭を下げた。
「息子を助けていただき、ありがとうございます。本当に、何とお礼を言ったらいいか……」
「あ、いえ、そんな……頭を上げてください」
別にお礼を言われたくてやったわけじゃない。体が勝手に動いたんだ。
頭を上げようとしない母親に対し、私があたふたしていると、不意に少年がにかっと笑った。
「おねーさんっ! ありがとう!」
「ッ……」
その言葉を聞いて、少しだけ心が軽くなった。
モンスターを斬って震えてた指先が止まった。
「おい、アンタ」
「はい?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには消防隊の人たちが居た。
それとあの学生と青年も一緒だ。
「自分たちからも礼を言わせてほしい。本当に助かったよ。……凄いな。俺たちがあんなに苦戦してたあの化け物を一発で倒しちまうなんて」
「あ、いえ、そんな……」
「出来れば詳しく話を聞きたいんだが。その……持ってる武器の事とかも含めて」
「あー、ですよね……」
そうだよね。
やっぱり気になるよね。
すると一緒に戦ってた学生が目をキラキラさせながら近づいてきた。
「な、なあ! すげーな、アンタ! 何だよ、その剣! どうやって手に入れたんだ? それになんか斬ってる最中、体も光ってたし、あれってスキルだよな? どういう効果なんだよ? あー、いいなぁー、俺ももっとつえースキルとかあれば――って、いてぇっ! 何すんだよ、兄貴?」
「何すんだよじゃない! いきなり失礼だろうが! 命の恩人に何やってんだ、この馬鹿がっ! ほら、謝らんかい!」
「……すいませんでした……」
大学生っぽい青年が拳骨をして諌めると、男子学生はものすっごい勢いよく頭を下げた。
……この二人兄弟だったのか。
てか、頭めっちゃコブ出来てるけど、大丈夫なのそれ?
「あ、あはは大丈夫ですよ、気にしてませんから」
「……場所を移しましょう。宜しいですか?」
「あ、はい……」
「上田君たちは私たちと一緒に来てくれ。他の者たちは警戒を続けろ」
「「「はいっ」」」
上司っぽい消防隊員に連れられて、私は再び校舎へ向かう。
あの兄弟も一緒についてくるようだ。
移動している最中、他の人たちの視線やひそひそ話が聞こえ、正直あまりいい気分はしなかった。
(うーん、それにしてもどう説明したらいいのかなぁー……)
てか、ぶっちゃけ疲れたし、凄く眠い。
早く終わらせて、私も休みたいのだけど……。
ハルさんと八島先輩大丈夫かなぁ?




