勇者様は手加減ができない
魔法の実技演習を乗り越えた、ようやく先生の地獄のようなしごきを耐え抜きこの苦痛から解放されたと思っていた。
だが、この苦痛はまだ続く何故なら次の授業は剣術の授業だからだ。しかも絶対先程の授業よりしごきがキツくなるのは明白だ。
理由としては、剣術の授業の担任が聖女様のファンクラブの会長であり当然僕が聖女様と二人で喋っていたことを把握しているからだ。近い未来僕は、先生にバラバラに切り裂かれるのは確定してしまった。
僕は友人と共に、剣術用の訓練場に向かおうと思い友人を探すが見当たらなかった。チッ、あいつら僕の近くにいたら危険だと勘付いて離れたよ。まぁ、でもあいつらといたらあっさりと、裏切られて拘束されてしまう気しかしないので少し安堵した。
仕方がないので僕は、一人で訓練場に向かうことにした。
訓練場を出ようとしたタイミングでアイネ様が背中をパンと叩いて話かけてきた。
「お疲れーー!先生にめちゃくちゃ扱かれて大変だったねハルくん」
「本当ですよ、先生があそこまでやってくるなんて僕じゃなきゃ死んでますからね」
アイネ様は普段僕とも話すことがあるのでこうやって割と気さくに話すことができる。でも、今の状況で話しかけるのはやめて欲しい、先程殺気を出していなかった女子までも僕に殺気を向けてきた。怖いです、女の子がそんな視線を向けてはいけません。貰い手が貼っちゃいますよ。
「まぁ、先生途中から本気て魔法撃ってたからね。それでもあれを全て捌くハルくんも大概だね」
「家の領地は辺境なんでこの辺にはいない強力な魔物が多くてよく討伐に行ってましたから、都会に住んでる温室育ちの先生には負けませんよ」
「あれ?でもあの先生と元宮廷魔道士だって聞いたけど」
アイネ様は人差し指頰に当てて、自分の記憶を確かめるように言ってきた。僕はそれを聞いて先生がそんなに凄いなんて知らなかったーー。と内心で驚いた後、まぁ今回はあまりみんなそのことに気付いてないみたいだしいっか、と楽観的に考えた。別に強さを隠しているわけではないし、特別な力を持っているわけではないので僕が実は強いことがバレたところで意味はないだろう。(だって僕の領地だと先生レベルの人山ほどいるし)強いて言うなら他校との交流試合で選抜として選ばれるくらいだ。それくらいなら別になんてことはない。
「まぁ、それほどでも〜」
「今の状態でこれだけ強いなら次、私と試合しない?」
アイネ様は顔をキラキラしながら顔を近づけて来た。僕はあまりの純粋無垢な顔の迫力に押されてしまい、
「僕なんかでよかったら」
と了承してしまった。この後僕は先程の授業よりも過激な事が起こるとは思いもしなかった。
◇
「ようやく私達の試合だね。私待ちくたびれちゃったよ。さっ、やろっか」
アイネ様はそう言って、試合スペースへ向かいながら笑顔で言ってきた。
(何というかこの時点でさっき了承した自分をぶん殴りたい、これ絶対戦闘狂じゃん。ほらもう、剣をニコニコしながら眺めない。これ確定だよ。しかも手を抜いたら『本気を出してないでしょ?私のこと舐めてるの丸わかりよ絶対本気を出させるんだから』って言って本気で切り掛かってくるパターンだよ)
「それでは、アイネとハルの試合を始める。…………………
両者構え、初め」
僕の頭の中をよそに先生は試合開始の合図をした。それと同時に目の前のアイネ様の姿が消えた。
(マッ…ズ!)
僕は、それ知覚したと同時に剣を抜いて後ろに向けて振るう。
キンッと鉄と鉄がぶつかった後がしたと同時に、片腕にかなりの衝撃が走った。僕はその衝撃の流れに身を任せ身体を後ろに飛ばして距離を取ろうとするが、アイネ様の追撃がそれを許してくれない。僕はこれまずいと思いアイネ様が横一線にないできたタイミングで身体を後ろに倒して避ける。そこから反動で足を蹴り上げアイネ様の剣を持ってる方の腕を上に弾き、その隙にバク転をして距離をとる。
ようやく一息つけた僕は剣を構えて、アイネ様と正面から対峙する。アイネ様は先程のホワホワした雰囲気から、淡々と敵を殺す無慈悲な殺人鬼のような冷たい雰囲気が漂っている。
周りの奴らは一連の戦闘に度肝を抜かれて呆けている。アイネ様があんな速度で動くのは初めてだから当然なのだが、僕があれを防いだことに驚いている奴もいた。
しばらくお互いの出を窺いあい、数秒経ったので今度は僕から仕掛けることにした。先程のお返しとばかりにアイネ様より少し速い速度で後ろに周り剣を振るう。アイネ様はまさか僕がこんなに速いと思っていなかったのか反応が遅れて体勢が崩れてしまった。僕はその隙を逃さず足を払った。
(とった)
と僕が確信したタイミングでアイネ様の剣に魔力が集まっているのを感じ、咄嗟にバックステップで緊急回避。そしてアイネ様が放った斬撃波はハズレ、天井に当たった。
(危なかったー、強力な防御結界が貼ってある天井に斬撃の後が付いてる。あれを喰らったらひとたまりもないな)
流石勇者の末裔だなと思いつつ僕は、今度こそ勝敗が決したのを確信をした。何故なら……
「はぁ、もうおしまいかー、いつもの聖剣だったらこれくらい耐えるんだけど。楽しかったよ、ハルくん」
アイネ様の剣が魔力に耐えきれず、あの一撃を放って自壊したのだ。アイネ様は負けてしまったが、全力で試合ができたことには満足したご様子でスッキリした笑顔で握手をして来た。みんな試合の内容が信じられないといった様子で先程見ていたが、僕がアイネ様と握手をした瞬間に全員が僕に殺意を向けて来た。
はぁ、この後の更衣室もやばそうだなぁーと思いつつ、剣を振って少し硬くなっているが女の子らしい柔らかなアイネ様の手を堪能するのだった。
恋愛モノばかり書いてたので戦闘描写はどうでしょうか?軽く書いてみたのですが久々すぎて時間がかかりました。意見や感想を頂けると嬉しいです。
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