聖女様はどんくさい
魔法学の授業が終わり、次の授業は魔法の実技演習だ。運動着に着替えて訓練場に向かわないといけない。僕はようやくこの席から離れることができると思い席を立ち、机を離れようとして固まった。そういえばこの机四人が同時に並んで使うタイプの机なのだ。僕が机を離れるためには左右どちらかが空く必要がある。姫様に退いてほしいなんて言うのなんて辺境伯の僕は言えないし、聖女様も同様だ。
そんなわけで僕は彼女達二人のどちらかが、席を離れてもらわないと動けない。とりあえずどちらかが空くまで待つことにした僕は机に突っ伏した。
しばらくすると姫様の方は居なくなっており、僕はようやくこの席を離れることが出来た。
(それにしても、もう着替えるまでの時間があんまりないな。急がないと)
そう思い僕は駆け足で、教室を出ようとしてうん?と首を傾げた。そういえば聖女様何でまだ教室にいるんだろう。そう考えた僕は教室にポツンと一人佇んでいる聖女様を見てやはり気になってしまった。教室にはもう誰もいないし、話しかけても大丈夫かなと周囲の安全確認をしてから聖女様に声を掛けた。
「あの、カナリア様何でまだ教室におられんですか?」
「?次の授業の教室もここだと聞いたからですけどどうかなさいましまか?」
「いや、次の授業実技演習ですよ!ここじゃないですよ」
「ほ、本当ですか!?私ったら勘違いしちゃてました。わざわざ教えてくださりありがとうございます、ハルさん」
「いえ、これくらいは当然ですよ。それより急ぎましょう早く行かないと先生に怒られてしまいます」
「それは大変です、ではまた後ほど」
聖女様は僕にぺこりと頭を下げた後、更衣室の反対側の方向に真っ直ぐ向かっていった。
「カナリアさまーーー、そっちじゃなくてこっちです」
僕の声が聞こえたのか、聖女様は恥ずかしそうに顔真っ赤に染めて俯きながらこちらに戻ってきた。
「あの、その、申し訳ないんですけど更衣室まで連れて行ってもらえませんか?」
聖女様はか細い声で僕に頼んできた。僕はそれに苦笑いを浮かべながら了承をするのだった。
「かしこまりました、私でよろしければご案内いたします」
◇
「ここが女子の更衣室です。訓練場は出てすぐあるのでカナリア様でも迷わないと思いますよ」
「むぅ、それくらいなら大丈夫です。でもここまで案内ありがとうございました、また後で会いましょう」
頬を膨らませながらいかにもそう思われるのは心外だと拗ねた顔聖女様浮かべた後更衣室に向かって行った。聖女様がやると普段の大人な雰囲気がなくなって年相応の女の子って感じがして少しだけドキッとしてしまった。僕は、内心を悟られないようにするため苦笑い浮かべて、男子更衣室に向かうため身体を反転させるとそこには、クラスの男子どもがいた。あっ、これやばいやつだ。そう本能的に察した僕は更衣室に向かって全速力で走り出した。
「てめぇ、俺たちの聖女様と二人で何してたんだーーー!」
「聖女様と二人っきりなんて羨ましい!席も隣ではないか」
「こいつしかも姫様とも隣だぜ!さらに前後はアイネ様とリーサ様だぜ」
「実技演習の前に一発かましたれ!みんな行くぞ」
「「「おう」」」
『『火球』』
『『紫電』』
(何でお前ら普段話さないの話さないのにこんなに息ぴったりなんだよ!公爵家の長男まで一緒になってるし!しかも学校で禁止されてない魔法の中で威力が一番高い二つ使ってるじゃん、って、死ぬーーーーーーーーー!)
僕は火球や雷を避けながら、更衣室に何とか退避するのだった。そして、はぁと安堵のため息を吐いたが、そこにも後ろの男子同様に魔法を手に浮かべていた。
「「死ねぇ!」」
「うわぁ、ちょ、たんま、せめて着替えてから…」
「問答無用!喰らえ」
「俺と席代わりやがれ」
僕は、ここもかーー!と内心叫びながら授業の開始のチャイムがなるまで逃げ回るのだった。
その後僕以外の男子全員は先生にこってり絞られた。ちなみに何故かその後先生からの指導が僕だけ厳しかった気がする。うん、気のせい……気のせいなはず………
1話の賢者の名前がなぜかアイネになっていたのでリーサに修正しました。
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