想いは星に溶けて
だいぶ続きを投稿するのが遅くなりました。
後一編、特別編が残っているので、どうか最後まで読んで頂けると心から嬉しく思います。
彼女の居なくなった部屋は、まだ仄かに優しい匂いを残していて‥
整理しきれない心を不思議に落ち着けてくれる。
僕は今…ベッドに仰向けになり、視線も合わせること無く、ただボーッと天井を見ていた。
掌に掴んだ封筒‥
その右手を高々と上げて‥
表には
『悠ちゃんへ』
と書かれ、裏側には
『悠ちゃんが後10年歳を取ったら開けてね。もしその間私の事を忘れられたなら…それは構わないよ。
叶より』
と書かれていた。
何とか気を取り直して部屋の片付けをしていた矢先に出てきた手紙。
僕はどうするか迷っていた。
何でもすぐ口にして行動して想いを吐き出す彼女が、まさかこんな手紙を残すとは思わなかったからだ‥。
それに僕だって必ず10年後生きてるとも限らないし。
ぼーっとあれこれ考えて1時間以上。
けど結局開けられず、今の状態になっていた。
そこへ彼女の遺品や荷物を取りに店長が訪れて、僕は手紙をしまい慌ててまた部屋を片付け初める。
本当にこれでさよならなんだ‥
店長の姿を見て本当にもう彼女は戻ってこないんだな、とリアルに実感が沸いて来て、僕はずっと泣かなかったのに、今になってどっと涙が溢れてきた。
横でダンボールの中身を確認している店長の存在さえ忘れて一人想いを涙に変えていく。
彼女の為に僕がずっと気丈に自然体で居ることをどれほどの葛藤を超えてだったのか。
そんな事も全部気付いていたのだろうか。
こんな本当は弱い僕だからと彼女はきっと分かっていたのだろうか。
だから手紙を残したのだろうか。。。
…約束は守ろう。
そう決めた。
これをいつか読む為に僕はそれからの10年を必死で生きようと思った。
そうして10年後の自分も同じようにベッドに横たわりそうしていた。
すっかり古ぼけてしまった手紙を握り締めて…
「僕は10年生き抜いた。今‥開けるよ。叶‥」
ゆっくりとハサミで封をきる。
冒頭には
『悠ちゃん、ちゃんと10年待った?』
と書かれていた。
「あぁ‥待ったよ。ただがむしゃらに生きて」
『んと‥10年後の悠ちゃんは変わり無く元気でやってる?』
「やってるよ。叶のお陰でその先も色んな出会いもあった」
『でも少しは老けて大人っぽくなったのかなぁ‥?悠ちゃんの老け顔ちょっと想像出来ないなぁ。』
「顔はどうだろうな‥でも相変わらず不器用だけどね」
『悠ちゃんはあぁ見えて意外とさみしんぼさんだからなぁ、きっと1人じゃ居られなくて色んな事があったんだろうなって思うけど今が幸せ?』
「余計なお世話だよ‥ったく。でも幸せかどうか分からないけど、いつか言えなかった自分の夢を叶えようと頑張ってはいるよ。もう少しで自分の店が持てるんだ」
『そして‥今隣には大切と言える人が居るのかな‥?』
「‥あぁ…また出逢えたよ。叶のように純粋で真っ直ぐな女性に」
『もしそうなら‥悠ちゃんが幸せなら私は安心だよ。でも正直ちょっぴり妬いちゃいそうだけど(笑)こうして悠ちゃんが10年経って手紙を読んでくれてるんだって想うと私も10年後に一緒に居るような気分してくる‥書いてる途中なのに…あれ目が‥悠ちゃんのバカバカ…』
そしてまだ半分くらいも便箋の行は残っているのに、そこで途切れていて、新しい便箋に『うん、よし。もう大丈夫だよ。』と書かれていた。
けれど、文字の書かれているはずの残りの行には、ペン字が何かに濡れて滲んだ後が、いくつも、いくつも、はっきりと残っていた。
もう彼女の涙を拭うことは出来ない、それが不思議な罪悪感に僕を包み込む。
「でも‥叶の事も受け止めてくれるとても優しい女性だよ。だからそんな妬かないで、心配しないでよ。それに叶は今も僕の心の一部で‥生きる力になってるから」
『ごめん、悠ちゃん。バカじゃないから、愛してます。もうすっごくどうしようもなく大好き。あのさぁ‥私の今の夢は早く生まれ変わってまた悠ちゃんを見付けることだよ。もし‥恋人になれなくても‥あっ…私悠ちゃんの子供になるっ!そしたら悠ちゃんから好きなだけいっぱい愛貰えるもん。パパ~待っててね(笑) だから早く悠ちゃん結婚してよぉ』
「え‥叶らしい発想だな~‥でも今大切な人のお腹には‥新しい命が居るんだよ。女の子だって言ってた。凄く楽しみだけど叶よりはしっかりした大人に育てるつもりだからそれはちょっと大変かもね」
『ね‥だからね、本当はね‥悠ちゃんにはちゃんと幸せになって欲しいの。私の分までとかじゃなくて、今度は自分の為に生きて欲しいって思ったから。
でも悠ちゃんはきっと私の事が忘れられなくていつまでも引きずってそうだから‥悠ちゃんってちょっと苦くて、そして分かりにくいくせに、その優しさが一途に染み過ぎるもん‥
だから…自分を責めないで。もう思い出の私に優しくしないでいいよ。自分の為に生きてよ。これは10年後の私からの最後のプレゼントだよ』
「………」
『最後に悠ちゃん‥本当に本当に悠ちゃんと居た季節は楽しくて幸せでちょっぴり後悔してるけど‥私は大丈夫だよ。あの日の星空を、他の誰かと笑って見上げて下さい。本当に色々ありがとう、悠ちゃん。これからも頑張ってね。じゃぁバイバイ~。悠ちゃんを愛せて私は幸せでした』
「叶‥ありがとう。そして…僕も今も愛してる」
もう涙が止まらなかった…
止まるはずなかった。
そして溢れる涙の全てが滲んでゆき、一瞬で10年前の出来事を綺麗に蘇らせてゆく。
だから僕はその手紙をベッドに寝転んだまま一晩中読み返し抱き締めて過ごした。
ただただあの頃を一途に思い出しながら‥
そうしていつの間にか眠りこけて意識が戻り掛けた頃、ようやく最後に言えずにいた別れの言葉を囁く。
「さよなら。叶」
それから朝になり、そのまま‥そっとその手紙をゴミ箱に落とした。
自分の心の中の苔を落とすように‥
全ての星になった想い出をもう一度記憶に染みさせて。
人は死ぬまで生きて行く。
当たり前だけど、生きてる中で色んな想いに一喜一憂して成長をする。
本当は誰しも脆い心に
不確かな愛を言葉と共に刻んで。。。
「僕はこれからも生きるよ‥叶。君から始まった幸せを最後までつむいでみせるから。。。」




