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電子の海は繋がっている  作者: 友鶴 紫丹
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店主の回想

 「お疲れしたー。」

「うぃー、気ぃ付けて帰りや。」

 深夜2時、裕彦が勤めている飲食店で作業していると、バイトの桜木が帰宅のあいさつに来た。

従業員10名ほどの小さな店ではあるが、年に1回の飲み会が開けるくらいには仲良くやっている。

メニューの品数も少ないが、10年近く同じ場所でほとんど変わらない面子でやってこれたのも、前の職場で培った経験が少しは役に立っているのだろうかと、最近裕彦はぼんやりと考えるようになった。

 前の職場といっても、何のことはない、近くの県にチェーン展開する飲食店だったのだが、チェーン展開しているだけあって、様々な性格や文化をもった、”普通の人”と知り合うことができた。

 辞める時は二度と振り返らないと考え続けたものだが、10年たった今では良い思い出へと記憶が風化してくれた。

 10年の間に裕彦の周囲もすっかり変わってしまったが、不思議とこの店だけは見つけた時からの空気感を保っているように思える。よく言えば、いつまでも初々しく新鮮。悪く言えば、どこまでも認めてはくれないというやんわりとした拒絶。この両方を感じる。特に後者は、地方で働いていた時によく感じるものであった。

 1~2年働けば、それなりに土地の言葉が移って、方言なども飛び出すが、その時に自分で思ってしまうのだ、嘘くさいのではないか、間違ってはいないかと。現に、そんな僕の振る舞いが気に入らないのだろう、上司についた人とは、ことごとくうまくいかなかった。無論、働きぶりという言葉で濁してはいたが、その都度感じるのだ。自分がよそ者であることを。

 それが原因やきっかけになったとは考えていないが、自分の店がほしくなった。自分と同じような、はぐれ者・よそ者の集まれる店が。

 今思えば、きっかけは確かにあったのだ。それも、自身運命的とも感じられるほどに劇的なものが。

 その日は、店の排水溝の清掃をするため、一人で店に残って作業をしていた。本来であればパートのおばちゃんにでもお願いしてやってもらえばよいが、残業などとなると上司もうるさい。そのうえ、今はサービス残業など流行りもしない。優しさに包まれた古き良き時代はとうに去り、要領のよさと、人をうまく利用できるやつが上を目指してのし上がっていく。

 そんな、戦国時代もかくやといわんばかりの群雄割拠な時代になってしまったように感じる。そう感じるのは、裕彦の感性が古臭いせいで取り残されているように感じているだけなのか?それとも、このぼんやりとした焦りみたいなものは、夢を見つけて走り出せていない自分へのいら立ちなのか?

 わけもなくアンニュイな気分を引きずって、従業員通用口の喫煙所へと足を向ける。

 もはや、夜間作業のたびに癖になってしまっている15分おきの休憩だ。なにせ裕彦が自分の作業としてしまっている(いまや、裕彦以外だれもやらなくなった)店舗設備の清掃は、営業終了後が主な作業タイムである。当然、飲食店であるから夜はそこそこに遅い時間までやっている。夜の作業時間は主に深夜1時くらいからがもっとも捗るようになってしまった。集中力など、そんなに続くわけもないから、タバコでドーピングしているのだ。もっとも、非喫煙者である方々からはあり得ないといわれている。しかし、肺に煙が入ったその瞬間に悩みも疲れも一瞬だけ忘れていられるような気がして、この習慣はいまだにやめられない。


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