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第93話「ユウキの依頼と新装備と、ローデリアの忠誠」

「いらっしゃいませ。マイロード。お待ちしておりました」


 その日の午後、俺は『グレイル商会』のローデリアを訪ねた。

 場所は、商会にある隠し倉庫だ。

 話は『コウモリ通信』で通しておいた。


 ここに来たのは『黒王(ロード=オブ=)(ノワール)』を倉庫に戻すためと、新装備の確認をするためだ。


「悪いな。ローデリア。いきなり『黒王(ロード=オブ=)(ノワール)』が消えて、びっくりしただろ?」

「いえ。緊急時には召喚(しょうかん)するというお話を聞いておりましたので」

「今、元に戻す。ちょっと待っててくれ」


 俺はてのひらに、『魔力血(ミステル・ブラッド)』で紋章(もんしょう)を描いた。

 収納の『古代魔術』を展開して、『黒王(ロード=オブ=)(ノワール)』を呼び出す。


「よいしょ」


 俺は隠し倉庫の中央に『黒王騎』を置いた。


「……すごいですね」

「ああ。こんな魔術があるなんてな。びっくりだ」


 収納の『古代魔術』は展開に魔力を食うかわりに、荷物を異空間に収納できる。

 つまり、移動はほとんど手ぶらだったことになる。

 それを使ってた『古代魔術文明』は、一体どんな生活をしていたんだろうな。


「いえ、すごいというのはマイロードのことなのですが」


 でも、ローデリアは(かぶり)を振った。


「私も商会の仕事をする中で、魔術師が『古代魔術』を使うところは見たことがあります。でも、荷物を異空間にしまってしまう魔術など、初めて見ました」

「今のところ内緒にしといてくれ」

「はい。でも、この収納魔術があれば、世界の流通は一変しますね」

「いつかはこれを、ギルドの魔術師も使えるようになるはずだ。それから、市民の方に降りてくると思う。楽しみにしておいてくれ」

「わかりました。ところで、マイロード」

「どうした?」

「この魔術は今のところ、マイロードしか使えないのですか?」

「ああ。まだギルドの解析が終わっていないし、そもそも収納空間を開いたり閉じたりするのに魔力を食うからな」


 今のところは『黒王騎』の収納専用だ。

 この魔術について書いてあった石板は、ギルドに預けてある。

 あっちの解析が終わるまでは、おおっぴらには使えないんだ。


「つまり私は今、最先端の魔術を見ているのですね……」


 ローデリアはため息をついた。


「……先祖が言っておりました。マイロードと一緒にいると、時代の最先端を見ることになるでしょう、と」

「そんなこと言い残してたのか?」

「はい。『フィーラ村』の人間は、マイロードから最先端の教育を受けて、疫病(えきびょう)が流行したときは、最先端の感染対策をしてもらったと言っていました。今まで実感はなかったのですが……私も、はっきりと実感しました」

内緒(ないしょ)だけどな」

「はい、内緒です」


 俺とローデリアは指で唇を押さえて「ないしょ」のポーズ。

 それから、ローデリアは表情を引き締めて、


「では、『黒王騎』の新装備を見ていただけますか?」

「前に話していたあれか」

「はい。これです」


 ローデリアは、倉庫の隅に置いてあった箱を開けた。

 中に入っていたのは、金属製の箱だった。


 サイズは腰にさげる革袋くらい。

 上の方に(ふた)があって、密閉できるようになっている。

 表面はなめらかで、紋章(もんしょう)を描くのも良さそうだ。


 俺がローデリアにリクエストした通りのできばえだ。


 使い方は、あらかじめこれに俺の『魔力血(ミステル・ブラッド)』を注いでおく。

 これを『黒王騎』の腰に装備して、敵が来たら表面に紋章(もんしょう)を描いて投げる。あるいは上から叩き付ける。

 敵のど真ん中に落ちたところで魔術を発動。

 範囲内の魔物を一気に倒すというものだ。


「使っても回収できないかもしれないが、コスト的には大丈夫なのか?」

「はい。持ち主がわからないように、使い古しで、安物の鉄を使っています。制作費もほんとに安いです」

「わかった。料金はあとで請求してくれ」

「制作費は『マイロード基金』から出ています。お気にならさず」

「……ありがと。大事に使うよ」

「御身を大切に。必要なときは『えいやっ』と使ってくださいね」

「助かる。それから、倉庫の隅に投網(とあみ)が落ちてるけど、あれも使っていいのか?」


 隠し倉庫の隅っこには、金属製の投網(とあみ)が放置されている。

 手に取ってみると──錆びてはいない。

 重さもそれほどでもないし、使えそうだ。


「それは、片付け忘れたものです。マイロードがお使いになるほどのものでは……」

「いらないならもらうけど」

「どうぞ。でも、使い物にはならないと思いますよ」


 ローデリアは困ったような顔で、


「それは北方に住む漁師が、海魚クラーケンを捕らえようと、うちの商会に作成を依頼したものです。氷の海でも使えるように、耐寒強度を上げています。けれど、重すぎて使い物にならなかったそうで……」

「収納しとくよ。『身体強化(ブーステッド)2倍(ダブル)なら持てるだろ」


 まだ収納(しゅうのう)紋章(もんしょう)は消えていない。

 とりあえずしまっておいて、あとで使おう。


 それにしても、ローデリアは頼りになるな。

『グレイル商会』はあちこちに支店がある大商会だ。

 北方の海のあたりまで付き合いがあるなら、様々な情報が入ってくるんだろうな。


「そういえば、ローデリアに頼みがあるんだ」

「はい。どうぞ、マイロード」

「これはできたらでいいのだが……信用できる戦士や剣士を紹介して欲しい」


 俺は少し考えながら、言った。


「ダンジョンの探索用(たんさくよう)に。秘密を厳守(げんしゅ)できる人を」


 元々、前衛はコウモリ軍団が、荷物運び(ポーター)は冒険者ギルドの人を雇うつもりだった。

 だけど、『エリュシオン』の下層の魔物は強すぎる。

 アイリスとオデットを守るためにも、『王騎』を使って探索(たんさく)したい。

 そうなると、冒険者ギルドの人間を使うわけにはいかないんだ。


 それに、俺たちが隠し通路を見つけたことで、地下第4階層までの距離が短くなった。

 探索にかかる時間が減り、必要な荷物も少なくなったんだ。

 これなら、荷物運び(ポーター)を雇わずに、こっそり収納魔術を使っても言い訳できる。


 ただ、前衛だけは念のために用意しておきたいんだ。


「けれど、前衛はマイロードの『黒王騎』とコウモリ軍団があれば十分なのでは?」

「『黒王騎』でサクサク先に進むと、ギルドに色々疑われる可能性がある。あくまでも普通に、人間っぽく、前衛の戦士たちに守ってもらいながらサクサク進んだという形を取りたいんだよ」

「なるほど……カムフラージュのための人材が欲しい、ということですか」

「できれば『王騎』のことも秘密にできる人がいいんだけど、心当たりはあるかな?」

「あります。うってつけの人材がおります。話してみましょう」

「手間をかけてすまないな。ローデリア」

「なんてことはありません。マイロードからは、帝国やトーリアス領の情報をいち早くいただいております。それだけで、十分おつりが来ますよ。商会にとっては情報は重要ですからね」


 ローデリアは胸を叩いた。


「それに、マイロードをお助けするのは、私の望みでもありますから」

「ありがと。助かるよ。ローデリア」

「こちらこそ。『フィーラ村』の子孫としては、転生したアリスには幸せになって欲しいですからね」

「そうだな。アイリス──アリスはどんな手を使ってでも引き取るつもりだ」


 それは確定してる。

 うちの家族に迷惑をかけずに行方不明になる方法も考えてある。

 まぁ、そっちは最終手段だけどな。


「それと、ついでに俺は『古代魔術文明』のことも知りたいんだよ」

「『古代魔術文明』のことを?」

「古代の文明が、どれだけ便利な生活をしてたのか。どうして滅んだのか。人類の進化とかぶち上げてた『聖域教会』が、どこで間違えたのか、とかな」


 巨大ダンジョン『エリュシオン』は謎だらけだ。

 階層ごとに環境がまったく変わる理由さえ、いまだに解明されていない。

 そもそも魔物の生態系も違う。

『ジャイアント・オーガ』のように、異常に巨大な魔物もいる。


 一番の謎は、通路が『王騎』も通れるようになってることだ。

 俺の『黒王騎』も、翼をすぼめるだけで通れた。

 これは仮説だが、もしかしたら『エリュシオン』は、中で『王騎』を使えるように作られているのかもしれない。


「『古代魔術文明』の連中が考えてたことがわかれば、今の時代ももうちょっと楽に生きられるかもしれないだろ。まぁ、魔術師としての興味だ。わかったらローデリアにもフィードバックするけどさ」

「私にも、ですか?」

「ギルドが許してくれる範囲でな。俺としちゃ、そういう知識で身内にはのんきに暮らせるようにしたいんだよ」

「わかりました。マイロード」


 ローデリアは俺の前にひざまづいた。


「マイロードの望み、全力をもってお手伝いいたしましょう。私もアイリス殿下と同様に、マイロードに忠誠を捧げているのですから」

「ほどほどにな」


 俺は言った。


「お前も『フィーラ村』の子孫……うちの子には変わりないんだから」

「困った主君ですね、あなたは」

「そうなのか?」

「そういうことおっしゃるから、配下はうっかりがんばってしまうのですよ。マイロード」

「だから、ほどほどにな」

「はい。ほどほどにですね」


 そんなことを言って、ローデリアは笑ったのだった。



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