第193話「リースティア王国潜入部隊、帝国に入る」
その後は、帝国に潜入する準備が続いた。
俺とオデットはグレイル商会に通って、打ち合わせを繰り返した。
俺たちは商人のふりをして帝国に入る。
そのためには、商人らしく見えるようにしなければいけない。
商人っぽい態度や動作、口調などを身に着ける必要があるわけだ。
潜入部隊のリーダーはオデットだけれど、前面に立つのはジゼルだ。
彼女はグレイル商会の一員として経験を積んでいるからな。
俺とオデットはジゼルをサポートできればいい。
まあ、それでも多くのことを覚えなければいけないんだけど。
「……ユウキは、覚えるのが早いですわね」
その日の準備を終えたあとで、オデットがつぶやいた。
息も絶え絶えだ。
今日はローデリアが直々に俺たちを指導してくれた。
俺はついていくことができたけれど……オデットはかなり大変だったらしい。
「もうすでに、商人っぽい振る舞いが身についていますわ。わたくしは、基本的なことを覚えるのがやっとなのに……どうして」
「ローデリアの教え方が上手いだけだよ」
「そうなんですの?」
「ああ。ローデリアの教え方は、前世の俺のやり方と似てるからな」
「…………え?」
「ほら、前世の俺は古城で、子どもたちに勉強を教えていただろ? ローデリアの教え方は、そのときのものと似てるんだ。だから俺にはわかりやすいんだよ」
「はい。我がクーフィ家では、代々、マイロード流の指導法を採用しております」
満足そうな笑みを浮かべるローデリア。
「グレイル商会でも、部下を指導するときに使っております。当商会がここまで大きくなったのも、その指導法のたまものなのですよ」
「200年の歴史がある指導法だったんですのね。確かに、わかりやすかったですけど……」
オデットはため息をついた。
「でも、そのやり方なら、ユウキに敵うわけがありませんわね」
「だよな。俺にとっては、自分が書いた教科書を読んでるみたいだったから」
「でも、オデットさまも飲み込みが早いですよ」
ローデリアはうなずいた。
「すでに店舗で仕事ができるレベルです。店員のふりをするには十分だと思います」
「そうですの……。では、ユウキはどのレベルですの?」
「……私の代理をお任せできるレベルですね」
「差が大きすぎますわ……」
オデットは机の上につっぷしてしまった。
勉強疲れの限界が来たようだ。
とにかく、俺もオデットも、商人っぽい振る舞いと知識は身につけた。
ローデリアも、十分、商人に見えるとお墨付きをくれた。
となると──
「勉強は、ここまでだな」
俺は手にしていたペンを置いた。
「本格的に出発の準備をする時期だからな。ここまでにしよう」
「そうですわね。持って行くものの用意と……それから、覚悟も必要ですわね」
俺たちはこれからガイウル帝国に向かうことになる。
『聖域教会』の残党がいるという、あの国へ。
目指すのは帝国の南端、国境の町ダルードだ。
そこにあるグレイル商会の支店を拠点に、俺たちは調査を行うことになる。
「では、私の授業はここまでにします」
ローデリアは姿勢を正して、宣言した。
「どうか、おふたりともお気を付けて。無事な帰還をお待ちしております」
「ありがとう。ローデリア」
「感謝いたしますわ。ローデリアさま」
俺とオデットはローデリアに礼を言った。
「帝国に行ったあとも、できるだけ商会の支店に迷惑をかけないようにするよ」
「いえ、それはお気になさらずに」
ローデリアはあっさりと答えた。
「グレイル商会はマイロードと、転生したアリスさまを支援するために立ち上げたものです。マイロードのお役に立つことが優先です。いざとなったら帝国内の店舗を閉じて、従業員を王国に避難させるだけのことです」
「いいのかそれで」
「はい。その程度では、当商会は小揺るぎもしません」
自信たっぷりの口調だった。
「ですから、マイロードが遠慮する必要はございません。お心のままに動いてください」
「わかった。でも、やりすぎないようにするよ」
「そうしてほしいですわ」
オデットは苦笑いをしていた。
「わたくしたちの役目は、表向きは外交使節の支援だということをお忘れなく」
「わかってる。大丈夫だ」
「はい。信じていますわ」
俺とオデットは顔を見合わせて、うなずきあう。
いよいよ。ここまで来た。
俺たちはガイウル帝国で潜入調査を行う。
──『聖域教会』の残党がなにをたくらんでいるのか。
──奴らはどんな力を持っているのか。
──ライルとレミリアは、どうなったのか。
それらを調べて、情報を持ち帰る。
もちろん、一度の潜入ですべての情報が得られるとは思わない。
手がかりだけでもつかめれば、十分だ。
「それじゃ、5日後に。王都の城門で」
「ええ。お待ちしていますわ」
そうして俺たちは、最後の打ち合わせを終えたのだった。
そして5日後。
俺たちはグレイル商会の馬車に乗り、王都を出発した。
外交使節に先行して、帝国に潜入するためだ。
リースティア王国の外交使節は、俺たちより1日遅れで出発することになっている。
すでに王国からは、先触れの使者を送っている。
返答も来ている。『国境のダルードの町に入ることを許す』と。
リースティア王国の使節は、数台の馬車を引き連れた大集団だ。
帝国側はそちらを警戒し、注目するだろう。
その間に、俺とオデットとジゼルは、ダルードの町に入るという手順だ。
「王国内の旅の手配は、ローデリアさまが済ませてくださいました」
馬車の御者席で、ジゼルは言った。
「不備はないはずです。マイロード……いえ、ユウキさまとオデットさまは国境地帯まで、どうかおくつろぎください」
「わかった。でも、ジゼルも無理しないようにな」
「ありがとうございます。ただ、私は御者としての仕事がありますので……」
「馬は使い魔にしておいた」
出発前に、馬車を曳く馬に『魔力血』を与えておいた。
俺の使い魔になっているから、わざわざ手綱を握る必要はないはずだ。
「なにもしなくても馬車は進んでくれる。ジゼルは、居眠りしていても大丈夫だ」
「い、いえ。そういうわけには」
「ときどきわたくしが交替しますわ。馬車の御者って、一回、やってみたかったんですの。馬と話が通じるなら簡単でしょう?」
「……オデットさま」
「なんでしょうか。ジゼルさん」
「最近……マイロードのやり方に慣れてきていませんか?」
馬車の中に沈黙が落ちた。
オデットもジゼルも口をきかない中で、馬車が進む音だけが響いている。
「…………ショックですわ。わたくしはいつの間に……そんなふうに」
「そこまで気にすることか?」
「わたくしは常識人で通っておりますの。ユウキのやり方が当たり前になってしまったら……のちのちの領地運営に支障が出ますわ!」
「そしたら俺がサポートするから大丈夫だ」
「ですから! それが当たり前になったら困ると言っているのですわ! もーっ!」
そんな話をしながら、馬車は進んで行く。
馬の調子は上々だ。
疲れたときは馬の方で教えてくれる。
だから、俺たちは馬たちのペースに合わせて進むことができた。
適度に休憩を入れながら。
人目に付かない場所では、魔術の実験をしながら。
外交使節とは、コウモリ経由で連絡を取っている。
使節は、俺たちから約1日半遅れて進んでいるそうだ。
さらにその後ろを、カイン王子が率いる部隊が進軍している。
国境警備を名目に出動した部隊で、数騎の『レプリカ=ロード』を連れている。
それに加えて、アイリスが操る『獣王騎』も。
外交使節と潜入部隊、そして、国境警備部隊。
今回の作戦では、この3つの部隊の連携が重要になるはずだ。
そうして、旅は順調に進み──
十数日後、俺たちは帝国領──ダルードの町が見える場所まで来たのだった。
ダルードの町は、高い城壁に囲まれている。
城壁の向こうには塔がある。
たぶん、見張り台のようなものだろう。
あの高さからなら国境地帯まで見渡せる。
帝国側は、リースティア王国に対して、ずっと目を光らせていたらしい。
……目を光らせていたのは、『聖域教会』の残党かもしれないが。
「まもなく門を通ります。身分証をご用意ください」
「了解」
「わかりましたわ」
俺たちの身分証はローデリアが用意してくれた。
グレイル商会の従業員であることを示すもので、書式としては正式なものだ。
ただし、名前は違っている。
身分証に書かれている俺の名前はノール=ロータス。
オデットの身分証には、マリー=ローゼンと書かれている。
帝国内には、王国の貴族に詳しい人間もいるかもしれない。
成り上がりのグロッサリア伯爵家はともかく、スレイ公爵家の家名を知る者もいるだろう。
そんなわけで、実在の従業員の名前を拝借したわけだ。
もちろん、彼らが帝国に来たことはない。
だからグレイル商会の支店の者も、俺とオデットが偽物だということはわからないはずだ。
事情と、俺たちの正体を知るのは支店長だけだ。
「グレイル商会のジゼル=ガルフェンと申します。ダルード支店へ商品の納入に参りました」
正門前で馬車が停まる。
ジゼルは御者席から降りて、衛兵に身分証を差し出す。
受け取ったのは、衛兵の隊長らしき人物だ。
他の兵士とは鎧の色が違う。
身分証を受け取った兵士が着ているのは純白の鎧。
そのまわりにいる兵士たちの鎧は灰色だ。
俺はナイラーラ皇女の言葉を思い出す。
『帝国にいる、清き鳥に気をつけるがいい』というものだ。
清き鳥……汚れのない色……白。
身分の高そうな兵士の鎧の色も、純白。
……考えすぎだろうか。
聖域教会が『白は清き色』とか言っていたわけじゃない。
というか、あいつらは『黒王騎』を重要視していた。
最後に見つかったあれには尊い名前をつけるつもりだったらしいし。まあ、それをライルが奪って『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』という名前をつけたんだけど。
ただ、兵士がひとりだけ真っ白な鎧を着ているのが気になる。
帝国では色が重要な意味を持っているんだろうか。
「同行者の身分証も提示せよ」
純白の鎧を着た兵士が言った。
俺とオデットは用意しておいた身分証を見せる。
隊長らしい兵士は鋭い目で、それを見つめる。
それから兵士は、商売についての質問を口にした。
ジゼルに、それから俺とオデットに。
──商会の場所。あつかっている商品。支店長の名前。
──商売についての基本的な情報。
──滞在の目的。今後の予定。ふたたび商人としての基本的な問いかけ。
そんなふうな質問を繰り返したあとで、荷物の検査が行われた。
そのあとで、隊長らしい兵士は──
「通ってよろしい。商売を許されていることに感謝し、我が帝国に利益をもたらすように」
やがて、もったいぶった動作でうなずく。
「ありがとうございます」
「「ありがとうございました」」
俺たちは頭を下げて、町の大門を通り抜ける。
安堵の息はつかない。
まだ、第一関門を突破しただけだからな。油断はできない。
「……ここが、帝国国境の町ダルードか」
「……大きな町ですわね」
ローデリアから、町の様子についての説明は受けていた。
それでも実際に目の当たりにすると、王国との違いにおどろく。
まず目につくのは、人の多さだ。
国境地帯といえば田舎というイメージがあるけれど、ここは少し違うらしい。
それくらい出歩いている人が多い。
ただし、道は悪い。
王国とは違い、道はほとんど整備されていない。
あちらの町の道はほとんどが石畳なのに、こちらは土だ。しかも、整備状況が悪い。変な感じに踏み固められているせいで、かなりでこぼこしている。
それでも誰も気にしていないところを見ると、帝国では当たり前のことなんだろう。
他に気になるのは、兵士の数だ。
ダルードの町のあちこちには兵舎があり、建物の前に兵士が立っている。
全員が灰色の鎧の兵士たちだ。
彼らは道ゆく者たちを、じっとにらんでいる。
当然、俺たちがいる馬車も。
「……目を合わせてはいけませんわよ。ユウキ」
俺の隣で、オデットがつぶやいた。
「資料にありましたでしょう。帝国の町にいる兵士たちとは、目を合わせない方がいいと」
「わかっている。通行人もみんな、そうしてるからな」
町を歩く人々は、兵士の方を見ないようにしている。
視線を逸しているわけじゃない。ただ、兵士がそこにいないように振る舞っている。
ただ、意識していることはわかる。
みんな兵士たちの前では小声になるか、黙るからだ。
「夜になったら暗躍するつもりだったけど……その前に、兵士の配置状況を確認した方がいいな」
「同感ですわ」
オデットは納得したように、うなずいた。
俺がなにをしようとしているかわかったんだろう。
「そのあたりはユウキに任せます。わたくしはダルードの支店長さんから話を聞きます。おたがいの情報をまとめて、外交使節に伝えましょう」
「了解だ。それじゃ、ジゼルはオデットの補助を頼む」
「しょ、承知しました」
やがて、馬車はダルードの町の一角にたどりつく。
大通りからは少し離れた場所だ。
建物の入り口には小さな看板がある。コウモリと古城の紋章はない。ただ『グレイル商会』の文字があるだけだ。
他国への出店だから、目立つ看板は避けたんだろう。
帝国内の競合店に目をつけられないように、ひっそりと営業しているという感じだ。
「お待ちしておりました。マリー=ローゼンさま。ノール=ロータスさま」
俺たちを出迎えてくれたのは、高齢の男性だった。
長年グレイル商会で働いている人で、名前はウォーレン=ハイタス。
ローデリアの腹心らしい。
「長旅、おつかれさまでした。まずは荷物を中に運ぶとしましょう」
ウォーレンさんが手を叩くと、店内から従業員が現れ、馬車の荷物をおろしはじめる。
その間にウォーレンさんは、すばやく俺たちを店内に導く。
正面の入り口を避けて、裏口から建物の中へ。
それから細い階段を上がり、二階へ向かう。
長い廊下を通ると、応接室にたどりつく。
「ご来訪をお待ちしておりました。オデット=スレイさま。ユウキ=グロッサリアさま」
ウォーレンさんは深々と、俺たちに頭を下げた。
「ジゼルも、よくここまでおふたりを案内してくれたね」
「ありがとうございます。ウォーレンさま」
支店長のウォーレンさんは、俺たちの事情を知っている。
その上で、手助けをしてくれることになっているんだ。
「リースティア王国のお役に立てることを、うれしく思います」
ウォーレンさんは胸に手を当てて、そんなことを言った。
「皆さまが帝国内にいる間は、できるだけの便宜を図らせていただきます。ご希望がございましたら、なんでもおっしゃってください」
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
潜入部隊の代表として、オデットが礼を返した。
「リースティア王国は、グレイル商会の助力を忘れることはないでしょう。この仕事が終わったら、あなたも商会も、大きな報酬を受け取ることになるはずですわ」
オデットの言葉は正しい。
国王は『グレイル商会の助力に必ず報いる』と約束している。
というか、そういうものがないと、商会が助力するのが不自然だからな。
グレイル商会はあくまでも利益のために、王国に協力するというかたちになっているんだ。
もちろん、商会が『オデット派』を支援しているというのもあるんだが。
「多くは望みませんわ。ただ、わたくしたちの滞在を許してくださることと、町の状況について教えてくださることを願いますわ」
「約束いたします。ところで……」
「はい?」
「ローデリアお嬢さまは、お元気ですかな?」
ウォーレンさんは優しい祖父のような顔で、たずねた。
「お嬢さまは無理をすることがありますから心配なのですよ。若くして商会長となった重圧は大変なものでしょう。困ったことがあったら相談するように伝えているのですが……王都までは距離がありますからな、なかなか手紙も届かなくて」
「あ、はい。ローデリアさまは元気でいらっしゃいます」
「そうですか。よかった……」
「ウォーレンさま。あなたは、ローデリアさまの腹心だとうかがっていますが……」
「はい。自分は先代のころから、グレイル商会で働いておりますからな。ローデリアお嬢さまとは、昔から親しくさせていただいたのですよ」
そう言ってウォーレンさんは、俺たちにお菓子を勧めてくれる。
子どもに対してすぐに食べ物を勧めるところは……前世の俺を思い出す。
いわゆる、世話焼きのお年寄り、って感じだ。
「ご両親が忙しいときなどは、自分がお嬢さまに商売の基本などをお教えしたものです。もっとも、お嬢さまは賢い方ですから、自分が教えることはあまりなかったのですがね」
「そうなんですか……」
「はい。お嬢さまは必要な知識をあっという間に吸収してしまったのです。なんでも、クーフィ家に代々伝わる勉強法があるとかで……」
うん……なんとなくわかる。
クーフィ家は、ディーン=ノスフェラトゥ式の勉強法を伝承してきたんだろう。
それを活用して、必要な知識を身につけてきたんだろうな。
まあ……あれは別に特別なものじゃないんだが。。
個人の資質と勉強の進み具合に合わせて、指導を変えるだけだからな。
なんであんなものを200年も伝えてるんだよ。ローデリアの実家は……。
「話がそれてしまいましたな。申し訳ありません」
ウォーレンさんは照れたようすで、せきばらいをした。
「とにかく、ローデリアお嬢さまが信じたお方であれば、自分にとっても主人のようなものです。なんでもお手伝いするつもりでおりますよ」
「ありがとうございます。ウォーレンさま」
オデットはウォーレンさんに礼を返す。
俺も同じようにする。
「まずは、この町のことを教えてくださいませ。町の人たちがどのように生活をされているのか。帝国の方々のなかで、話題になっていることなどを。できるだけ詳しくお願いしますわ」
そうして、俺たちは情報収集をはじめたのだった。
俺たちの宿泊先は、商会の3階だった。
3階はウォーレンさんの住居と、ときどき、従業員が泊まり込むための部屋がある。
俺たちはそこを借りることになった。
俺は角部屋。その隣がオデット。
その隣の階段に近い部屋にジゼル……という並びだ。
これなら俺とジゼルが、左右からオデットを護衛することになる。
彼女を守るには、一番いい配置だ。
ウォーレンさんは階段と厨房を挟んだ先にある部屋に住んでいる。
俺は彼の部屋から、もっとも遠い部屋を指定したわけだ。
もちろん、それには理由がある。
「…………そろそろ、真夜中か」
窓を少しだけ開けると、外の空気が入り込んで来る。
周囲はほとんど真っ暗になっている。
足音が聞こえるのは、遠くで兵士が巡回しているのだろう。小さな灯りは、兵士が持っているランタンだろうか。
見えるのはそれくらいだ。
この時間はもう、みんな眠りについているんだろう。
つまり、暗躍する時間ということだ。
といっても、俺が空を飛んで調査を……というわけにはいかない。
兵士がどこにいるかわからないからな。
それに『清き鳥』のこともある。
俺はそれが諜報機関のことだと思っているけれど、実は鳥の使い魔だった……ってこともありうる。夜目の利く鳥もいるからな。
俺が夜の空を飛んでいたら発見された……ってこともあり得る。
「そういうわけだからな。まずは調査を頼むよ。みんな」
俺はベッドの下に声をかけた。
『『『……りょうかいなのですー』』』
隠れていたコウモリたちが、一斉に飛び出してくる。
夜中なので静かに。音をさせずに。
このコウモリたちは、ずっと俺たちと一緒に旅をしてきた。
荷物の中に隠れたり、俺の膝の上に乗ったり。
人目のないところでは偵察もしてくれた。
帝国に着く直前で、コウモリたちは馬車の床下に隠れた。
あの馬車は特別製で、床下に小さな隙間が作られていたんだ。
もちろん、人間が入れる大きさじゃない。コウモリがぎりぎり入れるサイズだ。
だから兵士たちも気づかなかったんだろう。
門をくぐったあとで、コウモリたちは俺の手荷物の中に移動した。
その後は俺が自分の手で、この部屋に運び込んだんだ。
そして夜。
コウモリたちの時間がやってきたというわけだ。
「お前たちは町を見てまわってくれ。注目すべきは兵士の配置場所と、巡回の状況だ。それに、怪しい使い魔がいるかどうかもチェックしてくれ。偵察中は、できるだけ普通のコウモリのふりをするように」
『『『わかりましたー』』』
「『魔力血』は十分与えてあるけど、無理はするな。それと……」
俺は少し、考えてから、
「地元のコウモリを見つけたら、話をしてみてくれ」
──そんな指示を付け加えた。
「帝国に住んでいるコウモリなら、なにか情報を知っているかもしれない。ただし、十分に注意するように。わかったか?」
『『『かんぺきにわかったのですー』』』
「よし。それじゃ、行ってきてくれ」
俺はコウモリたちを送り出した。
まずは偵察から。
コウモリたちに町の様子を見てもらって、兵士たちの警備状況を調べよう。
そうすれば、俺が飛び回れるようなコースもわかるはず。
いざというときの脱出ルートも確保しておきたい。
それと──
「王国の外交使節には、間違いなく監視役がつくだろうからな。それをコウモリ軍団に監視させればいいな」
帝国の監視役を、俺たちが監視して、その目的や首謀者を探りだす。
そうすれば帝国がなにを考えているのか、わかるはずだ。
作戦はゆっくりと進めよう。
ライルとレミリアだってそうしたんだ。あいつらは長い時間をかけて『聖域教会』に潜入して、やつらを内部崩壊させたんだからな。
それに比べたら……これからの調査にかける時間なんか、どうってことはない。
あせらずに作戦を進めよう。
コウモリたちを送り出しながら、俺はそんなことを考えていたのだった。
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ユウキはデメテルから、『古代魔術文明の都』の探索についての説明を受けます。
その後、ユウキが魔術ギルドに向かうと、意外な出会いが……。
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