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第193話「元魔王、旅立ちの前に故郷を見る」

「……到着、っと」


『フィーラ村』に着いたのは真夜中だった。

 月が出ているから、視界に問題はない。

 150年住んでいた村だ、どこになにがあるかはわかっている。


「村にいるコウモリたちは元気だったか?」

『『『は──────い!!』』』


 呼びかけると、周囲の森から大量のコウモリたちがやってくる。

 村の管理を任せていた者たちだ。


 前回、ここに来たとき、俺は山のコウモリたちを使い魔にしておいた。

 彼らはしっかりと、村の警備(けいび)維持管理(いじかんり)をやってくれていたようだ。


『異常はないのですー』

『侵入者もありませんでしたー』

『ごしゅじんの村は、私たちが守っておりますー』


「ありがとう。俺が今日ここに来たのは、しばらくの間、遠出することになりそうだからだ」


『『『しょうちしておりますー』』』


「その間、王都の宿舎の警備(けいび)を頼みたい。ここにいるコウモリたちの中で、王都に来てもいいと思う者は名乗り出て欲しい。業務内容は、俺のおさななじみと、使い魔の護衛(ごえい)だ」


 ディックは俺と一緒に帝国に、ニールはアイリスと一緒に国境地帯に行くことになる。

 その間、マーサとレミーの警備(けいび)を増やしておきたい。

 俺が『フィーラ村』に来たのは、そのためでもあるんだ。


「受付を開始する。希望者はこっちに……いや、3匹くらいでいいからな? 『フィーラ村』を守るのも大切な役目だから。ん? 宿舎にいるのは俺の幼なじみと(きつね)の使い魔で……いや、気合いを入れてくれるのはうれしいけど、あんまり大量に来ると目立つから。ああ、ケンカするな。誰が来るかは話し合いで決めてくれ」


 押し寄せてきたコウモリたちに、俺は指示を出す。

 それから、コウモリたちは円陣(えんじん)を組んで話し合い。

 結局、選ばれた3匹が王都に来ることになった。


「よし。お前たちは帰りに『黒王騎』にくっついてきてくれ。王都では先輩(せんぱい)のコウモリの指示に従うように。あとでマーサとレミーに引き合わせる」

『『『りょうかいなのですー』』』

「俺は1時間くらい村を回ってから、王都に帰るよ。ああ、ついてこなくていい。今はひとりで村を回りたいんだ」


 しばらくここには来られなくなる。

 帝国での仕事が、どれくらい時間がかかるかわからないからな。


 外交使節(がいこうしせつ)の目的は、帝国と交渉すること。


 ──王国に対する、今後の不干渉(ふかんしょう)を約束させる。

 ──代わりに、捕虜(ほりょ)にしていたナイラーラ皇女を引き渡す。


 それらが完了したら、外交使節の仕事は終わりになる。


 潜入部隊(せんにゅうぶたい)の目的は、外交使節のサポート。

 今後のために帝国内に味方を作ること。

 多くの情報を入手すること。


 俺の目的は、ライルとレミリアの消息(しょうそく)を知ること。

『裏切りの賢者』『策謀(さくぼう)淑女(しゅくじょ)』と呼ばれたふたりの()(ざま)を確かめること。

 それが、ふたりの家族としての役目だ。


「でも、帝国内には諜報機関(ちょうほうきかん)があるらしいんだよな……」


 ナイラーラ皇女が警告(けいこく)するくらいだ。

 かなり危険な連中なんだろう。

 皇帝直属(こうていちょくぞく)か……あるいは『聖域教会』の残党が関わっているのかもしれない。


 諜報機関(ちょうほうきかい)警戒(けいかい)している相手は、『国に毒をもたらす蛇』にたとえられている。

 たとえとしては的確だろう。

 毒というのは、気づかないうちに人間……あるいは組織を(おか)していくものだからな。


 それは言葉のかたちをしていたり、隠された策略(さくりゃく)だったり謀略(ぼうりゃく)だったりする。

 その手の毒は本人も気づかないうちに、人間や組織を破壊していく。



 たとえば……200年前、ライルたちが『聖域教会』に対してやったように。



 ライルは俺を殺したことで『聖域教会』に認められ、賢者となった。

 けれどそれはうわべだけ。

 ライルは『聖域教会』を内部から崩壊(ほうかい)させた。

 いわゆる獅子身中(しししんちゅう)の虫になった。

 まるで毒のように、内部からあの組織を(こわ)していったんだ。


 だとすると──


「ライルたちの作った組織が、今も帝国内に残っているとか……ないよな」


 ないと思う。

 ライルたちは『聖域教会に潜入(せんにゅう)して、内側からぶっこわそう』グループを作って、実際に『聖域教会』をぶっこわした。

 目的は達成されている。


 だからグループは解散して、みんな平和に人生を送った……と、信じたい。

『聖域教会』にとどめを刺そうとしたのはライルとレミリアだけで、あとの者は目的を果たして満足したと、そう信じたいんだけど……。


「あいつら……なにをするかわからないからなぁ」


 俺はみんなが平和に暮らせるように教育をしたはずなんだけど。

 ただ……少しだけ、人間の性格を読み(あやま)ってた。

 あの子供たちが命がけで『聖域教会』に仕返しするとは思っていなかったんだ。


「だけど、さすがに今もまだ、ライルたちの組織が受け継がれているとか……活動を続けているとかは……ないよな?」


 気がつくと、俺は『フィーラ村』の古城に来ていた。

 隠し扉を開けて、『黒王騎』が隠してあった部屋に入る。


「もしも帝国内に抵抗勢力があって、それがライルたちと関係しているなら……『グレイル商会』に接触(せっしょく)するはずだ。商会の資金力は役に立つ。なのに、そうしない理由は──」



 ──転生した俺を、戦いに巻き込まないため。



 ふと、浮かんだ言葉に、俺は(ひたい)を押さえた。


 あいつらのやりそうなことだと思った。

 なぜなら、ここにライルが残した言葉があるからだ。




『ひとに消えないトラウマを植え付けた馬鹿親父に、これを(おく)る。

 あんたが二度と死なないように。あんたを二度と、誰にも殺させないように。


 我が主に、王騎「ロード=オブ=ノスフェラトゥ」を捧げる』




 ──と。


 ライルにとっては、俺を殺したことがトラウマだった。

 だから、二度と俺が死なないように……誰にも俺を殺させないように『黒王騎』を(のこ)した。


 そんなライルたちが『聖域教会』と戦い続けるなら……絶対に俺を巻き込まないようにするだろう。

『グレイル商会』と関わらなかったのは、そのためかもしれない。

 あの商会は転生した俺とアリスのための組織だからな。

 転生した俺たちに迷惑をかけないように、商会との接触は避けた……とか?


「…………いや、考えすぎか」


 思考が先走っていた。

 まだ帝国に足を踏み入れてもいないのに、答えを急ぎすぎてた


 俺には人間のことは、よくわからない。

 わかるのは、『うちの子』のやりそうなことくらいだ。

 まあ、それも最近自信がなくなってきたけどなぁ。

 前世の俺……ディーン=ノスフェラトゥも、自分が死んだあとにあいつらがなにをするか、完全に読み(あやま)っていたわけだし。


 だから──


「俺は、自分の目で確かめてみることにするよ。ライル」


 俺は床に(きざ)まれた、ライルの言葉に触れる。


「俺は、お前たちがどんなふうに生きたのかを知りたい。親として、家族として……人間を目指す生き物として。そして……できれば『聖域教会』にまつわるすべてを終わらせたい。お前たちがやりかけたことを引き継いで、終わらせたいと思ってるんだ」


 人間のやり方とは(ぎゃく)だけどな。

 普通は親がやりかけたことを、子どもが引き継ぐものだから。


 でも、これはしょうがない。俺は人間じゃないからな。

 俺はもともと不死の魔術師で、一度死んで、『古代器物』の力で転生している。

 普通の人間じゃないんだから、普通の人間とは違うやり方をしても仕方ないよな。


 俺は、できることをするだけだ。

 子どもが生き残っているなら、その子のためになることをする。

 この時代に大切な人ができたのなら、その人が生きやすいようにする。


 できるだけ人間らしく。

 無理だったら……ほどほどに人間らしく。


 そんな感じでやっていくしかないんだろうな。

 俺は不死の魔術師の転生体だし。

 それでいいと言ってくれて……一緒にいてくれる人たちがいるんだから。


「また来るよ。ライル」


 俺は立ち上がり、ライルの文字を見下ろす。


「必ず、また来る。今度はお前とレミリアの消息(しょうそく)を知った上で。今度はアイリスも連れてくるし、もしかしたら、また友人を連れてくるかもしれない。そしたらここで、無茶をしたお前の思い出話をしながら、のんびりお茶会でもすることにするよ」


 そうして、俺は隠し部屋を後にした。


 それから『フィーラ村』の跡地(あとち)を見てまわり──

 庭に生えたバニルララの花を採取して──

 最後に、コウモリたちに改めて、村の管理をお願いして──



 俺は帝国に向かう準備をするために、王都へと戻ったのだった。




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 そのころ、トーリアス領ではちょっとした事件が起きていて……。


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