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病気泥棒

作者: とーま


テレビの特番で手を触れただけで病気を治せるって人が出ていたけれど、くだらない。

そんなこと、できるわけない。

そんなことが本当にできるなら、私の母を助けてほしかった。


私の母は中学の時、乳癌って言われた。

それから3ヶ月後にあっさり死んでしまった。


医療が発達したなんて言われてるけど、結局治せない病気はたくさんある。

今の医療にイラついて、私は医者を目指した。

そして、私は医者になった。

と言っても、まだ研修医だけど、医者として誰かの命を救いたくて毎日、頑張っていた。


そんなある日のことだった。

私はある患者を受け持った。

末期の肺癌だった。

まだ30代。

若いのに、あと1年も生きられない。

医者になったって、結局彼を助けられない自分の無力さにイライラしながら、毎日彼に会いにいっていた。

最初は体調の話だけだったけど、毎日顔を合わせるうちに仕事や趣味、家族の話なんかするようになって、彼の笑顔を見てるうちに、束の間でも安らげる時間を過ごせる手助けができてるのなら、まだ救われるのかもしれない、と思うようになっていっていた。

でも、ある時、病室に行くと、彼が泣いていた。

「死にたくない」

そんな彼にかけられる言葉がなく、黙ったままの私に彼は言った。

「でも、それよりもっとずっと死んでほしくない」

彼はそう言って、私の手を握った。

その時、ほっと体が暖かく軽くなるのを感じた。


それから、半月後、彼は亡くなった。

肺癌の予後は1年ほどだっただけに急過ぎる死に、病理解剖を行った。

男性には珍しく乳癌ができていて、そこからの全身への転移が原因で亡くなったのだった。

亡くなる1ヶ月前のCTでは転移の所見は全く無かったのに。

ありえない速度での進行だった。

そう指導医には言われた。


だけど、それから5年後乳癌になって遺伝子を調べた私は、彼が私の病気を奪ったんじゃないかと思った。

やっぱり、手を触れただけで病気を治すなんて、くだらない。

そんなこと、できるわけない。

手術を終えた私は、失った胸に手を当てながら泣いていた。

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