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真夜中の駒音  作者: 富士江 三蔵
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珍客

青年を降ろしたあと、繁華街で拾った客は“当たり”だった。 壮年期の後半と思しく、話好きなその男は白川がイメージしていた街金のボスの像とはかけ離れていた。饒舌であることもそうだが、運転手付きの高級外車にいつも乗っていて、タクシーを利用する人種ではないと思っていた。確かに彼はそれを所有しているが市場調査という名目で時折独りの時間を作り、気の向くままにさまざまな飲食店に足を運び、タクシーで帰宅するという。

ワンマン社長には多い、やや高圧的な雰囲気はあるが命令待ちの部下であれば頼もしいリーダーに映るだろう。話術にも長け、白川が気を許すのにも時間はかからなかった。 加えて指定された高級住宅街は遠距離だ。上手く取り入って“ご指名”ともなれば大きな収入源になるかもしれない。


「兄ちゃん、将棋とか指すんか?」


途切れた会話の間を嫌い、それを繋ぐために思いついたものを小金井が口にする。


「ええ、幾らか指せますよ。」


白川は将棋においては自信家ではあるが自己顕示の強い人物ではない。

普段の“お客”なら“少し”が入るところだが、営業色が色濃い現状に白川の欲は掻き立てられ、より会話に食らいつく返答になる。


「お、自信ありやな。一局指すか!」


ひとり盛り上がったはいいがここには盤も駒もない。別の方法でそれを可能にしているタクシーであることをまだ知らない小金井は軽い失意に首を左右に振った。そして次の瞬間、彼は両手を頭の後ろに組むと上体を後ろに反らし、そのままの姿勢で数秒“伸び”をして呻くような息を吐き、座り直す。


「・・目隠し将棋でええやないか!」


思いつきでありながら自分の実力を誇示するように小金井が提案する。 彼はこうと決めたら実行しないと気がすまない。その貪欲な実行力で彼は富を得てきた。


「それだと運転に支障が出ますんで・・」


「なんや、その程度か・・」


白川もプロに近かった人間である。当然目隠し将棋はできる。

だがかなりの集中力と記憶力を要するそれは運転すら目隠しになりかねない。

人間的魅力と、なにより長距離の太客として『仕方ないか・・』という妥協に傾きかけたサービス精神はさっきの台詞で『・・なら潰してやる!』という気持ちに切り替わった。


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