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守護の宿命  作者:
本編
5/13

弱肉強食-3

 再び視界が揺らぎ、視界に入る景色が一変する。


 先ほどまでは、どこを見渡しても自然の色で覆いつくされていたが、今映るのは、人の手で作られた家屋。

 とても、裕福とは言えないし、安全ともいえない。

 先ほどまで住んでいたであろう、家々には人間の気配が全くない。

 そして鼻に感じる血なまぐささ。


(村人を救えなかったか)


 大きい魔力反応は一つだけ。そして、今なお移動している。

 その先には、小さな魔力反応が数十だろうか。


「急がねぇとまずいな」


 村の大きさはさほど広くない。しかし、家屋が邪魔をするため、直接見ることはできない。


 直ぐにでも標的を確認したいアルスマークは、こういう平地であたりを見渡すのに最も適した魔法を発動させる。


【空中移動】(エア・ムーブ)!」


 魔法が発動したとたん、アルスマークの体が空中へと浮かんでいく。


 家屋を超える高さまで移動したアルスマークは、直ぐに標的であろうモンスターを確認する。


「ブレイド・ゾールか。厄介だな」


 アルスマークからしたら、このモンスター程度に負ける要素などない。

 ただしそれは、全力を出した場合である。


 ブレイド・ゾールは両肩より伸びる、剣のように鋭利な触手を自由自在に操ることが出来る。そのため、至近距離での戦闘を行うのは薦めらた行為なんかではない。その逆でむしろ自殺行為だ。

 最も賢い戦い方は、触手の攻撃範囲外からの魔法などの魔力のこもった攻撃である。


 だが、相手がいるのは村の中。しかも周囲には家屋が存在する。村人が隠れているとしたら、こんなところで魔法を放つのは、いろんな意味で取るべき手段ではない。


「全く、しょうがないな。接近戦か……できるだけ使いたくなかったんだがな」


 そう呟くと、ブレイド・ゾールに向けて飛んでいく。飛行し標的に近づいていく最中に、刀を握る手とは反対の手をブレイド・ゾールに向ける。


「【(シャックル):Ⅴ】」


 魔力で出来た鎖のようなものがブレイド・ゾールの体中を覆っていく。


 対象の敏捷性を大きく下げる、単体系弱体化魔法のレベル五を発動する。

 この魔法は、移動能力だけでなく攻撃速度も下げることが出来るため、戦士系には大打撃となる。


 ブレイド・ゾールが気づいた時には既に遅い。

 もちろんブレイド・ゾールに対抗できるほどの能力は無く、目に見えて行動が遅くなっていく。

 だが、歴戦の勇者であり、元森の支配者であった者がみすみすやられるわけにはいかない。


 明らかに遅くなった体で大きくバックステップする。さらに追撃として、自慢の触手で攻撃を仕掛けてる。


 二本が自由自在に動くその剣筋は、並みの戦士やモンスターではすぐに細切れになるほどの、切れ味を持つ。


 だが、自分は世間一般では人外の領域を軽く超えてるはずだ。そんな自分がただでさえ、弱体化している相手の攻撃を受けるようなことなどプライドが許さない。

 何もないように、ブレイド・ゾールへと近づいていく。


「ハァッ!」


 空間が切り裂かれたような一撃。

 たった一撃で幾多のモンスターを屠ってきたであろう二本の武器がバッサリと両断された。


 足についている傷が元凶と戦ったときにできた傷なら、先ほどの戦いでも少しは通用した自慢の武器が無くなった痛みは、傷よりも心のほうが大きいだろう。

 だが、その目は未だに闘志を燃やしている。


(さすがは支配者級。この程度では諦めないか。だが、こいつは言葉を発せないのか? おっと!)


 勢いをつけた爪での攻撃。移動速度を下げたにも関わらず、この速さなら十分強い。


 戦闘に集中しなければ――死にはしないだろうが――傷を受けるような醜態はストームの一族としての名が泣く。

 爪での攻撃は、威力は高いかわりに回避がしやすく、その後の隙も大きい。


「甘いぞ!」


 いまだ健在な爪での、切り裂き攻撃が終わった瞬間に距離を一気に縮め顔に狙いを定め、一閃する。

 だが、そんな見え見えな攻撃に、ブレイド・ゾールがやられるわけもなく、既に脅威とはならない触手で即座にこちらを鞭のようにしならせて攻撃するつもりだろうか。


(しょうがない。手っ取り早く終わらせよう)


 手を覆っていた不思議な手袋の隙間から光が漏れる。それは神聖な光のように美しく、戦闘時でなければ見とれてしまうだろう。


雷皇牙(らいおうが)!」


 周囲には全く聞こえないが、アルスマークの頭に直接響く機械のような声。性別は判断しずらい。


『プロセス:(ワン)突破。固有魔法を発動』


 そして、アルスマークの姿が消える。超高速で動いたためあらゆる存在が見失ったためだ。

 今までも、異常な速さを出してきたが、これは別格だ。この速さについてこれるのは、最上級の速さに特化しているような種族だけであろう。


 雷皇牙(らいおうが)の持つ固有魔法。膨大な魔力と引き換えに身体能力を飛躍的に上昇させる、そして風属性の適正は敏捷だ。敏捷力を中心に様々な能力値が上がった彼は、雷神だ。


 すぐ近くで戦っていた筈のブレイド・ゾールでさえも見失う。つまり、無防備状態である。


 危険を本能で察知した、ブレイド・ゾールは飛び退こうとして――




 ――体が動かないことに気づく。そして、体のいたるところから痛みが発生していることも。

 既に時は遅かった。アルスマークは超加速した後、脚や腹など複数を一瞬で切り刻んだのだ。


 その速さは痛み――死すらも感じない。いや、気づかない。


 膨大な魔力を覆う、雷皇牙(らいおうが)の一撃はあらゆる装甲が無に帰する。そして、何事もないかのように、綺麗に切断することができる。


 そのため、死に気づかなかったブレイド・ゾールはそのまま深い海へと意識を沈めていく。

 長らく森を支配していた最強のモンスターは、地面へと倒れた。


「お前の行いは少々許せない。だが、その最後まで諦めない美しい心に誠意を込めて弔ってやる」


 倒れ伏したブレイド・ゾールの亡骸に手の平を向けて、魔法を行使する


「【神聖な炎(ホーリーファイア):Ⅰ】」


 天へと上るように燃え上がる蒼い炎は、本当にブレイド・ゾールの命が天へと召されたかのように美しかった。

やはり戦闘描写は難しい。

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