弱肉強食-2
鬱蒼と生い茂る森を切り開いて出来た道を歩く者が一人。道とは言え、現代のようにアスファルトで舗装されたりしているわけではない。いわゆる道なき道である。確かに、中程度の馬車であればギリギリ通れるくらいの道幅は確保できてはいるが、それでも好き好んでこの道を進むものは極少数だろう。
道は平らではなく、自然で出来ているのか、はたまたモンスターや小動物などが故意でやっているのかは分からないが、穴が開いたり、ちょっとした坂が出来ていたりしているが、その中を何事もないかのごとく平然と歩く。
獰猛で凶暴なモンスターが闊歩する中、平然と。
「暑いな。全く街までどれくらいかかるんだよ」
確かに、日差しがメラメラと照り付けてくる。
彼は十四年前に生まれたアルスマーク・ライガ・ストームその人である。重厚な鎧といったものは見当たらず、一見すると成人したての戦闘力を持たないただの若者であろうか。
金髪の髪の毛はミディアム程度の長さで切られてはいるが、整えている様子は無い。しかし、その程度では一ミリもその美貌は霞まない。街中で見かければ、男女問わず十人中十人が振り向くであろう。そんな美青年だ。
なんの魔法的な効果を持たないであろう服装でなんの武装もしていない。また、不思議な手袋のようなものを装備しているが、手の甲にしか覆っておらず、手のひらや指先には布のような生地は存在していない。このような危険な場所を歩くには不向きである。確かに高位の魔法詠唱者であれば納得がいくかもしれないが、魔法を発動する時は隙が多いため、魔法詠唱者は前衛となる戦士系とチームを組むのが当たり前だ。
つまり、ここをこのような格好で歩けるのは超人的なあるいは人外の力を持つ存在か、はたまた、こういうスリルがたまらないという狂人の類かのどちらかであろう。
いうまでもなく、前者であるが。
この世界に存在する魔法は大きく分けて二種類存在する。自身の保有魔力を用いて魔法を行使する、魔力系魔法。普通、人間が使えるのはこの魔法である。そしてもう一つが、モンスターといった人間ではない種族が使う種族特有魔法。一般的にこの事実は知られていない。
世界で一般常識な魔法の種類は、魔力系魔法と聖霊系魔法の二種類だ。前者は基本同じだが、モンスターの魔法も含まれる。そして、聖霊系魔法というのは、目に見えない聖霊の力を借りて魔法を行使するというものだ。聖職者にこの使い手が多く、中には神系魔法といい、神の力を借りるというのも存在するようだ。
だが、ここで疑問が一つ生まれる。聖霊は存在するのか。
答えとしては、聖霊という種族は存在する。
しかし、人間に力を貸すということは基本的にない。そもそも聖霊とは魔力のみで構成された高次元な生命体で、実際に目に見ることが出来る。聖霊という種族は基本的に自主族のみで生活するため、他の種族との共存は例を見ない。
では、何故聖霊魔法と呼ばれるのか。それにはその人間の魔法行使能力が高いからというのが、答えだろうか。普通の人間は空気中に存在する魔素といった、魔力の源となる物質を使用して魔法を行使できない。しかし、〈魔素制御〉という特定の技能があれば行使可能となる。
そして、通常の魔力系魔法を空気中に存在する魔素と自身の魔力を少量だけ使用してあたかも、聖霊や神が力を貸してくれて魔法を放っているように感じるというだけである。もちろん威力等も変わらず、そのレベルの魔力系魔法を行使するものと何ら変わらない。利点としては、自身の魔力消費を最小限に抑えることが出来るので、継続戦闘力が高いといったところであろう。
では、何故このような事実を誰も知らないのか、それは、そのほうが都合がいいため。または、そういったこと自体が認知されていないからであろう。
聖職者達は、宗教組織。主に教会という組織において一定の権利や地位を得ている。その時に、「自分は聖霊や神に認められていますよ」とアピールでき、信者たちからも信頼されるのだ。そして、何より個人能力を知る者が少なすぎる。という点だろう。
この世界には、レベルや個人能力といったものがはっきりと存在する。道に生える草の一本一本から最強種のドラゴンに至るまで。はたまた、魔法や技能にも存在する。有名な魔法の一つ【火の球】にもレベルが存在し、だいたいが一から五で区分されている。
そして、もちろん上限も決まっている。生物などは一〇〇レベルが限界で、魔法や技能は五までが限界だ。
過去、生物の最盛期と呼ばれた時代はこれらは、当たり前だったのだが、時代が流れ生物としての力が次第に廃れていった。それと同時に失われた技術は多い。これもその一つだ。
これらを全てすべて、幼少期からの教育という名の洗脳で叩き込まれた、アルスマークはもちろん知っている。
一見武装はしていないが、世界でほんの数人が使用できるという魔法の一つに【保管倉庫】がある。高位の魔法詠唱者という一区切りのさらに上の存在が使える魔法だ。
彼にとってこの魔法程度では、片手間で行使ができる。それだけ、生物としての格が違うのである。
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「ん? なんだこの動き? 何かに怯えて……しょうがねえ。ちょっくら寄り道していくか」
急に態度を一変させ、道を外れ森に向け走り出す。その速度は風のようだ。
「数が多いな。しかもほとんどが統率を失ってる。異常事態か、それとも違うところから強者が塒を変えに来たかか」
先ほどから使用しているのは基本属性の【魔力感知:Ⅲ】だ。
この世界に存在する生物は必ず魔力を持っている。つまり、この魔力を探知できればどこにどの程度の魔力を持つ者がいるのかというのが、すぐにわかってしまう。
だが、過信しすぎるのは愚か者だ。魔法というのもは万能ではない。自分よりも高レベルの隠蔽系の魔法を使用されると魔力探知では発見できない。それに、逆探知や妨害といった魔法も存在する。
「方向的に考えると、北から逃げてきている。しかし、こいつらを放置して被害が拡大しても困るな」
一番楽なのは、逃げてくるモンスター達を全滅させること。魔力の反応からして低級のモンスターだ。彼にとって全滅させるのは容易い。周囲への影響を考えなければ、一瞬で片が付くであろう。
しかし洗脳、いや、教育で一番初めに叩き込まれた言葉「ストームの下に生まれた者は、守護の宿命にあり。種族問わず。善を尊び、力に溺れず。命尽きるときまで使命を果たせ」を思わず口ずさむ。
「皆殺しじゃ悪いもんな」
そうつぶやくと、何もない空間から突如太刀が出現する。金髪にお揃いな色の稲妻を纏う刀身は二メートルに及ぶのではないかというサイズである。《六神刀》の最強格の雷皇牙だ。
「さて、行きますか!」
その瞬間姿が消える。
瞬き一つだろうか、逃げ惑うモンスター達の目にはどのような光景が飛び込んできたのだろう。気づいたら目の前に人間がいる。しかも、巨大で特殊な形をした剣を片手で軽々持っている。
しかし、ここにいるモンスターは低級である、ゴブリンやオーガ、ウルフ、中には珍しいアラクネ等多岐にわたる。知能が少ないものにとって、強弱は一般的に敵味方の数で決める。
つまり、ここにいるほとんどのモンスターの考えは「邪魔だから倒して行こう」である。そんなことを一切考えていない、アルスマーク。
その巨大な太刀で何もない目の前の空間を一閃。
突如、全力疾走していたモンスター全てが地に伏せる。死んではいない。気絶しているだけだ。
総数は数千ではないだろうか、膨大な数のモンスターを一撃で仕留めたのだ。
トリックなんで物は存在しない。その圧倒的筋力や瞬発力で空気を搔き乱す。そして、そこに魔力をほんの少しだけ込めれば、魔素までもがぐちゃぐちゃに乱れる。モンスターにとって魔素は命とも呼べる。濃ければ濃いほど長生きするだろうし能力も高くなるだろう、逆に薄ければ薄いほど命は続かず能力も高くはならないだろう。
そんな魔力が少なくなったり、濃くなったりすれば、酔うのは当たり前だ。急激な変化に、低級のモンスター程度では耐えられないのだ。
「まぁ、こんなもんかな。あとは、元凶を調べて――」
その時、ふと気づく。この辺を占めていた支配者階級のモンスターが存在しないことに。確かに、突如として現れた強者などが従えているというのも頷けるが、ここまでのモンスターが取り乱している。
それも尋常じゃないほどに。
なのに、支配者階級が一体もいないのはおかしい。もう一つ答えにたどり着いた。それは、先に逃げ出したということ。
強い者は、能力が高いのはもちろん、危険などにも敏感だ。先ほどの知能が低いような行動はしないだろう。その優れた肉体能力を駆使して、先に逃げた可能性が高い。
「――ッチ! 全くどういう状況だよ!」
反転し、急いで森を駆け抜ける。風のように木々の間をうまくすり抜けていく。身体能力の高さだけでの技ではない。恐ろしいほど高い反射神経と判断能力のコンビネーションがなせる業だ。
(この先に、村や街が無ければいいんだがな)
支配階級のモンスターに立ち向かえるのは、それこそ国の軍隊やハンター——対モンスター専門の傭兵——の高ランクに位置付けている者たちだけだろう。
つまり、村があった場合容易く殲滅されるのは想像に難くない、また、街だとしても最悪崩壊する。運よくこの森の支配階級モンスターがそこまで強くないとしても、結果はあまり変わらないだろう。
現在使っている【魔力感知:Ⅲ】をレベル五へと上昇させる。これにより、隠蔽系魔法をほとんど無効化し、さらに、感知範囲も大幅に拡大する。消費される魔力は比例するが、出し惜しみする余裕が無い。
そして、一際巨大な反応を多数感知する。やはり我先にと逃げ出したのだ。
また、アルスマークは走るのをやめ一つの魔法を行使する
「【空間転移】!」
驚異的な集中力と転移先の座標、そして、多くの魔力量を消費して発動した魔法により、アルスマークの姿が掻き消える。
転移先はもちろん支配階級モンスター達の目の前だ。そして、ターゲットを目視する。
先ほどいた、ゴブリンやオーガなどの低級モンスターなどではない、中級に位置付けるモンスター達。
中でも一番多いのは、先ほどのゴブリンよりも一回り大きな筋肉に整った装備、そして身長も大きく、顔も幾分かましである。そして、体形は同じだが、装備のランクが少し下がるように感じられる者が三体。計四体のゴブリンはハイゴブリンと呼ばれる中級モンスター達。そして、前者が部族をまとめ上げていた者だろう、戦闘は剣を使った戦士系だろう。それに続くのはおそらく親衛隊のような存在と思われる。全員が金属で作られているであろう剣を所持している。一体一体の能力は他の中級モンスターに比べると数段劣るかもしれないが、固体により保持している能力がバラバラで対応力が求められるのと、何より異常なほどの繁殖力が持っているため、低級から進化する数が多い。何より厄介なのが、単独で行動することが少なく必ずと言っていいほど集団で戦闘を行う。また中級にもなると知能も高くなるため、連携した動きが増える。並みのハンターでは対処できないほどの戦闘力を生み出すのだ。
他には、ハイウルフと呼ばれる狼型のモンスターの中でも、闇属性に特化しているシャドウ・ハイウルフだろう。体を覆う体毛が黒く、眼光には真っ赤な瞳が、そして鋭くとがった爪や牙。個体にもよるが、魔法を使ってくる者もいるため、低級のモンスターの比ではないほどの脅威となる。また、この手のモンスターは敏捷性が高く、他のモンスターよりも早く逃げてくるのはさすがというべきだろう。数は少なく二体しか確認できない。片方が一族を纏める王だとするなら、その番となる者か、一族の中でも強者であろう。
オーガを纏めていたであろう巨大なモンスターはトロールだろうか、種族特有の再生能力に、その巨大な体に比例する筋力から繰り出される一撃は中級モンスターの中でも、上位に食い込むだろう。また、敏捷性に欠けるようなイメージを持つ者が多いが、その一歩の大きさはそれさえも無視できるほどだ。中級のモンスターの中でも知能は低いので、文明は発達せず、装備も巨大な木を握りやすく加工しただけの武器しか持たない。だが、防具と呼ばれる鎧などを着ないのは、その再生力に大きな自信があるという心の表れのかもしれない。
他にも数体のモンスターを確認する。
それらを確認したアルスマークの感想。
それは、なんだたったこれだけか、である。
そして同時に、何か重要なことを見逃しているような違和感があるがまずは目先に集中する。
アルスマークの敵となりうるのは、低級・中級・上級・最上級の分類の中で上級の一部と最上級だけであろう。
十数体にも及ぶ中級モンスターは全力を出す必要もない。それどころか、上級に位置づける魔法一つで片が付くはずだ。つまりは、圧倒的格下、これなら殺すこともないだろう。
だが、先ほどの魔力による衝撃波は使えない。中級にもなると魔素が書き乱れることにも対応してくる。つまりは、魔法を使うか、愛用する太刀を使うか。どちらかだ。
「久々にお前の出番だな」
自我なんてないはずの雷皇牙が、嬉しがるように煌めく。まるで、早く自分を使ってくれと言ってるかのように。
そして、敵を詳しく確認する。このままいけば一番初めにまみえるのは、シャドウ・ハイウルフだろう。数は二体と問題は全くないが、自身の持つ膨大な保有魔力に怯え散らばるのは避けたいところだ。アルスマークは探知系魔法を警戒し、魔力を抑える装備をしているが、本能的な部分は鋭いだろう。
そして、戦闘をイメージしたアルスマークは目的に向け距離を詰める。生物はいきなりトップスピードで走り出すことはできないだろう。それも何の構えも無く。しかし、戦士系で必須ともいえる訓練の一つの予備動作の減少や身体改造などを極めることで、ゼロコンマ何秒でトップスピードへと達することが出来る。だが、アルスマークにとってまだまだ上の速度は出せるだろうが、そこまではしない。
瞬き一つでハイ・シャドウルフに接近したアルスマークは装備する雷皇牙を器用に右前脚めがけて太刀を横に払う。
一瞬である。斬られた本人は何が起こったのか分からないだろう。気づいたら、前足の一つがきれいに無くなっているのだ、脚の中頃からバッサリと。
そして、その勢いのまま流れるような動きでもう一体の左前脚を横に切り裂く。
そこへ雷皇牙の追加効果である雷撃の中でも弱いほうに分類される麻痺効果を発揮する。
その動きはまるでダンスのよう。ここに第三者がいたら、その見事な体さばきに見とれるだろう
二体はほぼ同時に地面に倒れこむ。やはり、何が起きているのかさっぱりと分からないであろう。その顔には——感情が浮かぶのかは不明だが――不思議や困惑、そして、絶望へと変わった気がした。
「すまないな。だが、ことが収まるまで、ここで静かにしていてくれ」
倒れこむ二体のウルフに顔を向けずに言い放つ。その声は、自分の脚を切り落とした者とは考えられないほど優しい。
四足獣にとって脚は命ともいえる。足が無いこのウルフはこの森を生きていくのが、どれだけ過酷になるのか想像がつかない。おそらく今までのように部族の長として行動することは出来ず、良くて部族追放、最悪場合その場で仲間の食料になることだってあるだろう。
そして、アルスマークは再び走る。次の標的は集団で行動するハイゴブリン。やはり、同族が多い者から戦闘不能にしていったほうが、幾分か楽になるだろう。
だが、今度の敵は脚を切り落とすには狙いが定めにくい。なら、他の部分を切ればいいだけの話だ。
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ゴブリン達は前方で倒れこんだウルフに驚愕しながらそれを行った者を確認する。あいつは危険だ。そう本能が刺激する。だが、後ろに戻るわけにもいかない。決死の覚悟決め、相対するであろう敵をしっかりと目で確認しながら——。
――消えた。先ほどまですぐそこに居たはずの者が消えた。頭では警報の鐘がうるさく鳴り響く。そして、辺りを見渡そうとしたときに違和感を覚える。手に持っていた筈の自慢の剣が消失している。そして、体が上手く動かないという異常事態を。起きたことをその小さな脳が処理しきれない。そして、実際に起きたことを理解したが、時は遅すぎた。ますます、動かなくなっていく体。そして、同様に倒れこむ自慢の配下。そして、聞こえてくる、人間と呼ばれる劣等種族であるはずの雄の声。
「すまんな。そこで寝ててくれ」
今まで劣等種と呼び何度も撃退したことのある者達の声ではない。うまく表現できないこの本能に訴えかけるような感じ。それはまさに、圧倒的な強さを持つ、限られた者独特のオーラを発する声だった。
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アルスマークがやったことは単純だ。ゴブリンが視認できる速度を超えて瞬時に横へと回り込む。そこから、接近して一体一体の腕を麻痺属性を付けて切り落としただけだ。
前には警戒をしていたようだが、盾のようなものも装備していないので、横には隙がたくさん存在した。
そして、次の標的を確認する。距離はそこまで開いてないので、直ぐに行動する必要があるだろう。
トロールに近づきその隙だらけの足首を切り裂く。
体とばらばらになった足はその場に残り、体は走って来た速度のまま地面へと向かう。そして、地面に付く前に、前方にあった巨木に頭を打ち付ける。それだけでも、気絶ものだが、そこに麻痺のおかわりをくらい完全に戦闘不能状態だ。
残る相手は数体、だが、ここまでやれば中級程度のモンスターならば力の差というモノを理解する
後ろからくるかもしれない恐怖と、眼前に迫る死の恐怖。
逃げることも、戦うことさえも諦めたモンスター達は、その場で最後の時——死——を待つ。
せめて、苦痛なく殺してくれ。そう願うように。
そして、時が止まった彼らに言葉をかける。
「良いかよく聞け。お前達が何から逃げてたかは知らんが、森から出ずにこの辺で仲良くしていてくれ。それがお互い幸せになれる。その元凶がいるなら俺があとで倒してきても良いからな。わかったか?」
この世界の言葉は、どういう理由か種族を超えて通じる。過去には、世界全体に神の守護が掛かっているとか、実際に全員同じ言語を使っているとか、様々な説が出されてきたが、未だに答えにはたどり着いていない。
しかし、言葉が通じるとはいえ、それはある程度の知能を持つ者に限るが。
その言葉を聞いたモンスター達は何が何だが、分からなかった。自分たちを殺しに来たはずなのに殺さないと言い、森に出現した格上のモンスターを倒してくれるという。
その言葉に、素直に従う。いや、正確には従わざるを得ないであろう。
同意のしるしとして、自身の種族で表現できる最高の服従の姿勢を取る。
命を助けてくれるという強者にわざわざ殺されるなど、正気の沙汰ではない。
「おし! じゃぁ、やることがあるから、大人しくしててくれよ」
違和感の正体を掴んだ彼は、先ほどと同様に魔法を発動する
「【空間転移】!」
違和感の正体は言うまでもない。この森の真の支配者モンスター。未だ感知は出来ていないがその方角であろう方角に向けて【魔力感知:Ⅴ】の最大限の距離をゼロ秒で移動する。
視界が揺らぐ。視界に移る景色はあまり変わらない。
つまり広大な森からは未だに抜けてはいない。だが、直線距離にして三キロくらいは移動したはずだ。
そして、探知範囲内に一際大きな魔力反応を感知する。
最悪なことに、周囲には小さな魔力反応。つまり、人。あるいは、はぐれ低級モンスター。
もし、この大きな魔力の主が恐怖状態で暴走なんてしていたら、その小さな者たちは間違いなく死ぬ。
手遅れになっていないことを祈りながら、再度同じ魔法を発動する。
「【空間転移】!」
スキルや魔法は両方とも魔力を消費します。
マナ・コントロールも低級同士の戦いであれば有益になりますが、レベルが上昇していくつれ使用し無くなるスキル。いわば初心者スキルですね。