プロローグ
周辺を見渡しても自然だけが広がっており、人が住んでいる気配は全くない。
山の奥深く、小さな集落が存在した。
頑丈とは言えない柵に囲まれた中、点々と家が存在し周囲には畑などが広がり何の変哲もないただの村に見える。
が、それは表だけである。
ひときわ大きな屋敷の中には辺境の村とは思えないほどの荘厳な景色が広がっていた。
天使や悪魔を象ったような彫刻などがいい例である。
莫大な富を持っている、そんな印象を受ける。
ここの村の総人口は驚くほど少なく、木で出来た小さな家に住んでるものは誰一人としていない。
誰かが来た――ここまで来る者はそういないが――時の秘密を隠すためのいわば、見せかけの村である。
そんな村で住んでいる者たちは通常の生物と大きく変わる特徴がある
それは、膨大な保有魔力だ
この世界を成り立たせている魔法と呼ばれる力を行使するために必要なものであるが
何も鍛えないものは雀の涙程度しか無く、魔法詠唱者と呼ばれる魔法を生業としている者ですら及ばないだけの魔力だ。
これは何か特殊な訓練をしているわけではない。
生物としての「格」が違うだけである。
かつて、何千年も昔。生物の最盛期と呼ばれた時代。
圧倒的な力を持つ者が数多存在した。だが、身に余る力は滅ぼすだけである。ある者は欲望に飲まれ。またある者は殺戮を好み。またある者は異種族を軽蔑し虐殺した。
そんな中、世界を救ったとされている神々。その末裔である彼らは生まれたときから闘う運命にあるのだ。
そのため、膨大な魔力と圧倒的な身体能力を生まれながらにして持っているのだ。
当主、ローラン・メイガ・ストーム。
身長一メートル八十センチくらいだろうか、その身に纏う高価そうな白い衣装の内に秘める戦闘力は計り知れない。
普段は冷静な彼が、今日ばかりは落ち着いてはいられなかった。
「まだか、我が息子にはまだ会えんのか」
「申し訳ありません。もう暫くお待ちください」
白を基調にしたメイド服姿の女性が返事を返す。
「わかってはいるが……」
どれほど顔が怖くとも、どれだけ最強に近い力を持っていたとしても自分の子供にはやはり甘くなるだろう
子供を産むときには男女で愛をはぐくむ必要があるがこの一族には、その必要が無い。
もちろん行った者も少なからずいるが、子供を授かるということは無かった。
ある一定の年になると儀式の間と呼ばれる部屋の一部で自身の魔力から生み出すのだ。
これは、流れている神の血を少なくしないためであり、実際その力は衰えることを知らず、最強に近い力を持って子供が生まれる。
そして、生まれたらすぐに別の儀式をしなければいけないため、ローランの気持ちが高くなるのも仕方がないともいえる
そわそわした彼に望んでいた言葉が掛けられた
「ローラン様。準備が出来ましたのでこれから継承及び適正の儀を始めます」
「うむ、すぐに行く」
初めて子と会える儀式。そして、子供のこれからが決まる大事な儀式。
それに向かう彼は嬉しいような、悩んでいるような複雑な顔をしていた。
どこまでも広がっているように感じさせる長く広い廊下を少しばかり歩き。
大きな扉をノックもせずに開ける。
「おぉ! あれが我が子か! やはり私に似てなかなかカッコいいではないか!」
誰かに似るということは無い。しかし、子供を持つ親馬鹿と一般に呼ばれる父は幻視する。
「はい。魔力もローラン様に匹敵する程持っております」
「とすると、残るはどの刀に認められるかだな」
「はい。すでに六神刀は準備しております。あとはローラン様お願いします」
「了解した。では始めるとしよう!」
どの代でも解明できなかった、複雑な魔法術式にローランは魔力を込める。
部屋一面に広がった魔法陣から光が放たれ、空中には解読することのできない不思議な文字が形を変え刻一刻と流れていく。
そんな幻想的な光景だが、見惚れるわけにはいかない。
ローランやそれに従う者たちにとってこれほど重要なことは無い。
そう、この先のありとあらゆるものがこれで決まるといっても過言ではないのだ。
「さて、我が子はどの刀に認めれられるかな?」
六神刀
先祖が振るったとされている最強の六振りの太刀。
それぞれが固有魔法を内装し、あり得ないほどの魔力を内包。世界で最も硬いとされる金属アダマンタイトをバターを切るかの如く切り裂く鋭利な刃で、魔法の障壁さえ切り裂く。驚くほど軽く、攻撃の隙なども軽減される。魔力を常に放出することでその武器固有属性の障壁を作り出すことが出来る。武器を一度も握ったことが無い子供でも、そのスペックから無敵になるだろう。そんな武器だ。
風属性の雷皇牙
火属性の炎皇牙
土属性の地皇牙
水属性の氷皇牙
光属性の光皇牙
闇属性の冥皇牙
六神刀は持つものを選ぶ。そしてそれはその一族だけとなる。
これは、先祖が残したとされる書物の六神刀の欄に書かれていた数少ない説明だ。
そして、光は子に吸収されていく。
もうすぐすべてが決まる。
先祖が残した中で最強と謳われる雷皇牙であれば良いなと心の中で彼は思う。
光が完全に収まり、広がった光景に誰もが驚愕の意を隠せずにいた。
通常は一振りのみがその所有者を選ぶはず。しかし、目前に広がったのは全ての太刀が所有者と認めたのだ
「な、なんだと……そんなことが……あ、あり得るのか……」
「わ、分かりませんが……すべての刀が所有者として認めているのは事実です」
「この子にはどれほどの道が待っているのだ」
中でも最も強い結びつきを見せたのは、最強の一振り。雷を刀身に宿す雷皇牙だった。
その少年の名は、アルスマーク・ライガ・ストーム。
最強の存在が生まれた瞬間であった。
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時を同じく
白を基調とし、エメラルドグリーンやライトブルーに輝く魔法的な光によって模様が描かれた壁。これだけ広大なスペースなのに塵や埃などは一切見当たらない。そんな部屋によく合う似たような模様をした巨大な椅子が十二個、部屋の中央を向くように並べられてい た。それ以外にインテリアは見当たらない。他の部屋に繋がると思わしき扉も存在しない。
神聖な場所。神が住まう場所。そんな場所だ。
その椅子に座る、明らかに場違いな、石や土で作成されたゴーレムのような二メートル級の物体が椅子と同数の十二体。表面にはツタなどが生え膨大な時間手入れされていないことが伺える。
そのうちの一体が滑らかな動きで瞬きをした。
「時が来た。終わりの時が」
口も驚くほど滑らかだ、まるで石や土などで作成されたゴーレムではないかのように。
それと同じく、全身黒づくめの存在が一人中央に現れた。
声を発したゴーレムの方に向き跪いている。
「御前失礼します。永きに渡る眠りから目覚めたこと嬉しく思います。計画の準備は完全に終了しております。御方々の声一つでいつでも開始可能です」
「うむ。ご苦労」
「その一言で報われます」
「10年後。いや、15年後がちょうどいいだろう。その予定で頼む」
「はっ! 了解致しました」
両者ともその内の感情を読み取ることが出来ない。だが、声からして跪いている者は男だろう。
「我が仲間よ。永き眠りより目覚め終わりを始めようぞ」
ゴーレムが発した声に反応し、他のゴーレム達の瞳が開いた。
その瞬間部屋はまばゆい光に包まれた。生物が見たら失明をするほどの眩しい光。それは徐々に収まる。
ゴーレム達は消えそこに現れたのは、それぞれが絶世と謳われるほどの美男美女。また、保有する魔力や身に纏う装備はどれもが桁違い。
仲間であるはずの男でさえ一瞬慄く。が、すぐに元の態勢へと戻った。
「長かった。本当に、長かった」
「えぇ、これでやっと終わりなのね」
他愛のない言葉にさえ魔力がのる。その魔力であらゆる存在は恐怖するだろう。
「それで、いつ開始するのだ?」
全員の視線――跪く男以外――が一人に集まる
「15年後だ。15年後に、”ハルマゲドン”を開始する」