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守護の宿命  作者:
本編
13/13

豪商の系譜ー2

 あたり一面自然色で埋め尽くされている中、本来であればその場から動かないはずの巨木が鳴動していた。何かを木が避けているような異様な光景がそこには広がっていた。


 その中心にいたのは巨大な馬車であった。金の装飾であしらった漆黒のボディに、金属でできているのに物音一つ立てず振動をすべて吸収している4つの車輪。一般的な馬車の3倍はあるのではないかという巨体を牽引するのは拒絶の大砲虫リジェクション・キャノンクロウラーと呼ばれるモンスターである。

 "クロウラー"の名のとおり足を持たず這って移動し、普段はぷよぷよした軟らかい黒褐色の皮膚を持っているが、戦闘時になるとあらゆる攻撃を無力化する鉄壁に様変わりする。魔法による遠距離攻撃が得意であり、攻撃時に大砲を作り出すことからその名がついたとされる。大きさは馬と同じくらいであるが馬の数十頭分のパワーを有しており、牽引しているのはたったの1頭だけであった。


その馬車はカセドラルの物である。

 剥ぎ取りがすべて終了したため、アルスマーク一行は帰途についていた。


 大地の巨大鬼(ティターン)との戦闘時に森の中の魔素が一時的に乱れ、一部のモンスター――主に低級のモンスター――が混乱状態に陥っていたため、何度か襲撃を受けたがカセドラル傘下の傭兵が対処していった。


 馬車の中は見た目以上に広く、大人が10人が過ごせるのではないかという十分なスペースがあり、様々な調度品が置かれこの馬車だけで所有者の富を誇示していた。

 その一角に設置されている対面式のソファに机を挟んで、3人が座っていた。


「カセドラ。お前の事業に協力するのはやぶさかではないが、俺はエンシリア・ポリスに永住するつもりはない。もうしばらく、こいつ――」


 アルスマークは、ポルトルの頭の上に手をのせ、


「――の能力を馴染ませたら、すぐにでも出るつもりだ」

「構いませんよ。短時間でもアルスと組めればそれだけで満足です」

「そうか。なら、できる限りカセドラからの依頼は受ける。でも、わざわざギルドを通さなくても協力はするぞ?」

「さすがは【守護】を司るだけはありますね。しかし、私も未熟ではありますが【豪商】を司っています。商売に関しては、たとえ親でも曲がったことはできません」


 つい数時間前にあったとは思えないほど、目に見えない信頼関係が築かれていると、ポルトルは感じていた。そして、時折出てくる、【守護】や【豪商】という単語に疑問を感じていた。その疑問を察したのだろうか、カセドラルは問いかけた。


「おや? ポルトルさんに話していないのですか?」

「ああ。必要とも感じていなかったからな」

「そうですか……ポルトルさんは知りたいですか? 我々の関係……その様子だと、先ほどから話に出てる【豪商】や【守護】の方ですかね」


 そこで、初めてポルトルは言葉を発した。

 緊張と全く言葉を発していなかったためか、己の声を大きさを調整できなかったのだろう。かなりの声量であった。


「は、はい!! 是非教えてください!!」


 カセドラルは苦笑いを浮かべながら続けた。


「エンシリア・ポリスまではまだ時間がかかるでしょうし、長くなりますが、話をするからには最後まで付き合っていただきますよ。まず、ポルトルさんが疑問に感じていることを解決するには、我々のことから知っていただきます――」


 今より遡ること数千年。いまだ人類が目立った能力を持っておらず他の生物からの脅威に怯え一つの国として団結していた時代。食料に困った野生の肉食獣に襲われる以外、目立った戦闘はなく、もちろん人間同士での争いなどあるはずもなかった。多くの人間はその生に目立った変化など起きず、静かな湖の如く平穏な人生を歩んでいた。

 いい意味で表すならば、平和な時代。

 悪く言うならば、停滞した時代。


 そんなある日、波紋が生じた。


 世界に神が降臨し、生きとし生けるモノ全てに不思議な力を授けたのだ。

 次第にどこからか強大な力を誇る者たちが現れた。ある者は魔法を操り、またある者は天をも切り裂いた。類稀な才能を有した鍛冶師は万物を切り裂く剣を生み出し、天才と呼ばれた錬金術師は賢者の石を捨てるほど作り出した。今までの人間の文明が何世代も進化を繰り返していき、人間の全盛期と言われている時代を迎えた。

 しかし、同時期に凶悪なモンスターも数多出現し、そのほとんどが人間を敵――食料やただの趣味として――とみなし侵略を繰り返した。

 人類は堅牢な要塞や高度な魔法罠、作戦を用いてモンスターの侵略を防いでいたが、モンスターの数の多さ、能力の多様さから次第に人類を圧倒し、目に見える建造物をすべてを薙ぎ払っていき、人類は絶滅の危機に瀕した。

 生き残った人類が一堂に会し、最後の晩餐会を開いて明日の最後の戦いに備えようとしていた最中、どこからか()()()の救世主が現れた。その者たちは、【守護(しゅご)】【皇槍(おうそう)】【死鬼(しき)】【必滅(ひつめつ)】【原初(げんしょ)】【万象(ばんしょう)】【聖癒(せいい)】【闇魂(あんこん)】【神匠(しんしょう)】【司命(しめい)】【範士(はんし)】【豪商(ごうしょう)】と名乗り、各々が一騎当千の力を有していた。

 迫りくるモンスターをその圧倒的な力で撥ね退け、人類を絶望の淵から救ったのだった。


 突出した力を持つその12人は救世主と称えられた。そして、その感謝の念は"現人神"と崇拝する感情へと昇華していき、その12人を神とする宗教が発生するに至った。

 後にその12人はその活躍と偉大さを称し、【十二天人】と呼ばれるようになる。


 一時は絶望の危機に瀕し、生存圏がたった一つの街だけに追い詰められた人類であったが、その12人を筆頭にその版図を広げ続けた。

 その者たちは無差別な殺戮は好まず、友好な関係を築ける種族とは融和を図り、多くの文明を吸収、進化させていくことで、生物の最盛期を築き上げた。いつしかその者たちを崇拝するモノは人類のみに限らず、数多の種族から"神"と拝められていき、その地位を確固たるものとした。

 全世界の完全統一を達成し唯一無二の強大な国家を築き上げ、生物はその能力で生活を豊かになる一方であった。


 そんな世界がいつまでも続くかと思われたが、その12人は忽然と姿を消した。


 絶対的な柱をなくした統一国家は、数年は変わりなく維持していくことはできていたが、民からの不満はたまる一方であり、捌け口として犯罪が横行していく。一度決壊したら止めるのはとても困難であり、エスカレートしていく行為に止める者は現れなかった。弱肉強食とはいつの世でも同じであり、必然として強力な力を有する種族が弱い種族を奴隷として扱ったり、略奪が頻発するようになっていったのだ。

 それは終わりの始まりだったのかもしれない。


 全種族の統一国家はいくつかの派閥に分裂し争いの絶えない時代に突入していくことになる。


「――その後の数百年は戦争時代と呼ばれていまして、その名のとおり世界各地で毎日争いが起こっていた時代なのですが、歴史の授業ではありませんのでここで割愛させていただきますね。さて、本題の我々の関係や【豪商】のことですが、よく分からないというのが正直なところです。分かっているのは、我々のご先祖様はお隠れになったのち、別々に生活を始めたということだけです。そして、私やアルスが今代

の【豪商】と【守護】ということ、我々の能力はご先祖様の能力に類似しているということ。そして、各々が司ることは宿()()として心に強く宿っているということ。この程度なんです。情けないことですがね」


「そ、その、ご先祖様はなぜ突然いなくなってしまわれたのでしょうか?」


 至極当然の質問であったがために、カセドラルの回答も早い。


「謎に包まれてます。何せ、当時の資料が全くありませんので」

「その後、ご先祖様たちは特定の国に属することをしていない。そこに何かしらのヒントがありそうだが……その辺のことは【原初】がすでに調べてそうだな」


 静かに聞いていたアルスマークが補足する。


「以前訪れたのは約3年前ですか……あそこの蔵書量は流石の一言です。時間が出来たらまた行きたいものです。ちなみに、アルスは行ったことあるのですか?」

「原初の書架のことか? もちろん行ったことある。知りたい情報は得られなかったけど」


 原初の書架。通称、オリジンアーク。

 移動式の図書館であり、その時代によって大きさや形を変える。一般的に伝説の図書館であり、訪れたことがあるのは、アルスマーク達を除けば百にも満たない。

 その蔵書量は未知数であり、一説には数億以上を超え、訪れればすべての知識を得られると言われている。そんな、世界で一番知識が集まる場所ですら知りえない情報とは、もちろん【十二天人】にまつわることであった。


「あそこで知りえないということは、ご先祖様のことだね?」

「あぁ。俺の武器である六神刀は、真の神器なんだけど、代々プロセス:五の能力を解放できてないんだ。ヒントでもあればと思ったが、空振りに終わったよ」


 生物の最盛期にもたらされた武器の多くは神器と呼ばれており、他の武器とは一線を画すものである。その最たる例が、意志ある武器とも呼ばれるとおり、使い手を選ぶことにある。また、神器の中にもグレードがあり、初級、中級、上級、最上級、真の五段階に分けられる。

 神器を最強の武器たらしめる所以は、保有する固有能力にある。初級であれば一つ。上級であれば三つという具合だ。固有能力の強さによっては上級よりも強い初級なんてこともあり得るので、グレード=強さとはならない。

 なお、存在が確認されている真の神器は、【十二天人】の一族が保管しており、世間に出回っている神器は最上級までである。

 現在のアルスマークはプロセス:四まで開放しているが、ストーム一族歴代最強ですらも、超えられないプロセス:五。ローランですら、冥皇牙(めいおうが)のプロセス:三までしか解放できなかったことを考えれば、すでにプロセス:四まで開放できる、アルスマークの異常さ分かるだろうか。


「プロセス五の壁を突破しなくては倒せない敵がいるなど信じたくないですね。私は今の力でも十分やれてますしね」

「だからといって、己の力に胡坐かいてるようじゃ格下にすら負けるぞ。心しておけ【豪商】」

「勘違いしないでほしいですね、瞬間火力では引けを取りませんよ?」


 一般的に商人系の職業は、武力を傭兵などに依存するのだが、賭博師(ギャンブラー)系を修めた最上位職、皇室大商人(ロイヤルディーラー)にもなると並みの戦闘職すらも上回る火力を有するようになる。とはいえ、世界でこの職まで到達できるはゴルド一族だけであろうが。

 一般的な知識しか持ち合わせていないポルトルからすると、商人が武力を持っているとは考えられなかったのだろう。


「カセドラル様の職業(クラス)って商人系でしたよね?」

「ポルトルさん、様はつけなくていいんですよ? そうですよね、一般的には商人系は非力な生産職ですからね」

「ポルトル。この世界にある職業(クラス)で戦闘能力を持たないものはない。最上位職ともなればなおさらだ。油断しないように気をつけろよ」

「わかりました」


 アルスマークの知り合いということで、非凡だろうとは思っていたが、どこか信じられないポルトルにカセドラルが提案する。


「納得していただけないようですね。なら、外に出ましょう。私の力の一端見せて差し上げます」


 停車した馬車から降りる3人。

 "並走"していた傭兵たちも周囲に待機しており、その鋭い眼差しを周囲に向けていた。

 どうやって力を顕示するのか疑問に思っていたが、唐突にアルスマークが詠唱を開始した。


「【不死者召喚(サモン・アンデッド):Ⅴ】! 出でよ無慈悲な死神(グリムリーパー)!!」


 エンシリア大平原に突如として現れた、膨大な魔力を保有するモンスター。

 敵意は感じられないが、ポルトルの背筋に大量の汗が流れていた。

 このモンスターの特性として、物理攻撃と光属性以外の魔法攻撃に耐性を持っているため、人間では倒すことのできないと言われており、出現した暁には街を放棄するしかない絶対的なモンスターである、

 そんな、生物の天敵とも呼ばれるモンスターを召喚するアルスマークも大概ではあるが、商人という一般的に非力な職業(クラス)にもかかわらず平然としているカセドラル。

 カセドラル付きの傭兵と協力して戦闘を開始するのだろうか。ポルトルは戦闘のビジョンが全く見えなかった。様々な想像をするポルトルであったが、結果はそのさらに上をいくものであった。


無慈悲な死神(グリムリーパー)ですか。こんな物理耐性では、私の力の前には何もないのと等しいですよ? では、〈殺界(さっかい):Ⅴ〉、〈時は金なり(タイム・イズ・マネー):Ⅴ〉、〈殺界(さっかい):Ⅴ〉、〈金は力なり(マネー・イズ・パワー):Ⅴ〉!!


 突如、カセドラルの背後に天まで届くのではないかと思われるほどの量の"金"が現れたかと思ったら、一気に凝縮され空中に直径1センチにも及ばないであろう大きさの"金"へと変わった。

 その小さな小さな"金"に罅が入ったかと思うと、砕けた散った。一体どれほどの力が凝縮されていたのだろうか。砕け散った"金"を中心に、暴力の嵐が吹き荒れる。油断すると体ごと飛ばされるのではないかという風。黄金に輝く爆発で空間の中は見ることが出来ない。

 その嵐が去った跡は、元から何もなかったかの如く静かであった。

 範囲内にいた無慈悲な死神(グリムリーパー)はもちろんのこと、平原の中にポツンと草が生えていないギャップが生じ、クレーターさえ発生していた。

  

 このような惨状を生み出した、絶対的な暴力を持つ者とは思えないほどの整った容姿を持つカセドラルが振り向く。


「どうですか、ポルトル。これで納得していただけましたか? 私が少し――」


 皺の一つもなくスラっとした親指と久指で小さな隙間を作る。


「――は、力を持っているということを」


 ポルトルは突っ込むことさえ忘れ、ただただ目の前で起こったことに対する驚きに頭を支配されていた。生産職系の【豪商】でこの力なのなら、己の恩人である【守護】、それに比肩する他の【十二天人】はどれほどの力を有しているのか、少しだけあった己の力への自信が完全に砕け散り、憧れへと変わっていくのだった。

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