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守護の宿命  作者:
本編
12/13

豪商の系譜ー1

 エンシリア・ポリスより東に鬱蒼と広がる森。その生息するモンスターから"鬼の森"と名付けられた、その森は小鬼(ゴブリン)人食い鬼(オーガ)など鬼系にまつわるモンスターが多種多様に進化し、人類がいまだ支配できない自然の驚異でもあった。


 その森の支配者階級の一角大地の巨大鬼(ティターン)。生物として極限クラスまで進化を繰り返したその肉体から繰り出される一撃は、地を裂き、巨木を薙ぎ倒す。肉弾戦闘では無類の強さを誇るその身体能力に加え、地属性の魔法を得意とする。中でも、広範囲にわたりスリップダメージの空間を作り出す【大地の咆哮(アースクライ)】は、その職業特性も相まって極悪な性能を誇る。この森で進化を続けた大地の巨大鬼(ティターン)は毒使いの最高峰である毒の支配者(ポイズンロード)を修めるまでに成長を遂げた。


 普段であれば、圧倒的捕食者側であるはずの大地の巨大鬼(ティターン)

 数日前より森が騒めき、部下の多くが行方をくらました。

 この数年間で、森を支配する他のモンスターとの小競り合いは数えるしかない。それに、そのような事態が起きているのだとしたら、森の中に放っている排斥がすぐさま報告を上げるはずである。

 報告がないのであれば、明らかな侵略である。

 直ちに支配領域の監視を行っている部下の責任者に招集を掛けた。


「この数日、森が騒がしく感じる。お前らの方には何か情報は入ってきているか?」


 大多数のモンスターは本能で生きているのに対し、知恵を付けた一部のモンスターは流暢に話すことができる。大地の巨大鬼(ティターン)も例外ではない。また、配下にも数体、言葉を理解しコミュニケーションを取れる者がいる。その者たちは、支配領域を把握するうえでとても重宝しており、群れの中でも地位はかなり高いものばかりである。


「いえ。しかし、北と東からの侵入が見受けられないことから、人間が侵入してきたのではないかと」


 最初に言葉を発したのは、小鬼(ゴブリン)系の中でも上位に分類される小鬼の王(ゴブリン・キング)である。一般的な小鬼(ゴブリン)より3倍近い巨体を持ち、魔法の力を含んでいる"眼"をしている。


「同意。我ラノ一族カラモ報告ハ無イ」


 続いて状況を報告したのは、巨大鬼(ギガンテス)であった。暗殺者(アサシン)系統のクラスを修得しているこの巨大鬼(ギガンテス)はその巨体に見合わず俊敏に動くことが可能であり支配領域の西側――エンシリア大平原と隣接しているため、人間の侵入が一番多い――を守護及び監視しているモンスターだ。


「植物、動物系の配下までやられているようだ。森に擬態化し常に監視するこのシステムをいとも簡単に突破してくるとは。大地の巨大鬼(ティターン)様。敵はかなりの強者と見受けられます」


 集まった"4体"の内最後に発言をしたのは、人食い鬼(オーガ)の上半身と蛇の下半身を持つ異形である。森の鬼蛇(フォレスト・オーミラ)と呼ばれる彼女は、支配領域の南――西と同じくエンシリア大平原と隣接しているため、人間の侵入が多い――を中心に全域をその特殊能力でカバーしている。


「ふむ。敵は人間だと仮定し我らの索敵が不可能なことを考慮し、かなりの脅威とする。部隊の準備だ戦が起きる」


 命令を受けた3体はすぐさま行動を開始する。戦闘が得意の部族に片っ端から伝令を走らせる。各地に散った部族を呼び寄せても恐らく間に合わないだろう。念のため連絡を飛ばすが、期待はしていない。また、支配領域にはいくつか拠点が点在しているが、そこを手薄にするわけにもいかず、集まったのは全勢力の4分の1にも満たない数であったが、主を守護するために必要な力を保持している者ばかりであり、少数精鋭であった。


 そして、最終的には総勢千体にもおよぶ軍勢が組まれることになった。配下の中でも特に戦闘能力の高い強者どもを呼び寄せ、いかなる敵が攻めてこようとも、必ず勝利を収めれると信じていた。













 侵略者は、小さき人間がたった2人。

 それも、片方は成人もしていないだろう小さな者。

 最初は侮っていた。しかし、油断はしていなかった。相手はおそらく、人間の中でも強者に分類されるのだろう。この森に侵入し、あまつさえ部下が数十体完全に消されたのだから。己の配下に、敵の強さを推し量れない弱者など存在しない。故に、誰もが臨戦態勢であった。


 その人間どもは小さな声で何か話した後、大きいほうの人間が一歩前に出て手に持っていた、剣の切っ先をこちらに向けてきた。その行為は明らかな敵対行動。たった2人の人間相手に怪我を負わされたなど、プライドが許さない。完璧な勝利を飾るべく、前線の味方に突撃するよう命令を下そうとして――




 ――それよりも早く、一つの魔法がこの世に臨界した。


 その魔法の名は、【神雷の爆発トールサンダー・エクスプロージョン:Ⅴ】。

 超広範囲にダメージ分散なしの風属性ダメージを与えるその魔法は、魔法使い(メイジ)系の中でも特に属性魔法に特化した巫師(シャーマン)三次職業(サード・クラス)で習得可能な風属性系では最高の制圧力を誇る魔法である。


 そして、その魔法は1回で終わらなかった。

 再び放たれた魔法により布陣していたモンスターはそのほとんどが息絶え、魔法の範囲外にいたモンスターも恐怖で動けないものと逃げ出すものしかおらず、戦意など欠片も残ってなどいなかった。



 大地の巨大鬼(ティターン)は、歴戦の戦士に相応しくこのような事態でもパニックに陥ることは無かった。むしろ、怒りに満ち溢れ目の前の脅威を排除しようと真っ先に駆け出した。

 その速度は、巨体に見合わず高速であり両者の距離を一瞬で詰める。


 相手は、魔法使い(ウィザード)であることは確定している。近接戦闘は己に分があるはずだ。


 しかし、小さいほうの人間がこちらに向かって飛び出した。

 よく見れば、右手には剣を持ち、その刀身から稲妻が迸る強力な魔法が込められた業物であることが一目分かった。


 だが、どうだと言うのだ。

 相手が戦士(ファイター)魔法使い(ウィザード)なんて関係ないのだ。

 己が持つ最強の攻撃をもって相手を屠れば良いのだ。


 大地の巨大鬼(ティターン)は、保有する魔力の殆どを右手に籠めることで、様々な特殊技術を併用し一つの技能(スキル)を繰り出す。


「ゥガァ! 〈大地の粉砕(タイタン・クラッシュ):Ⅴ〉!」


 右手を起点として扇状に広がる破壊の空間。

 効果範囲内には、その種族特性と職業特性からなる硬直、鈍足化、気絶、全能力低下、猛毒など様々な状態異常がダメージとともに相手を蝕む。


 先ほどの惨状を生み出した人間が、たったの一撃で倒せるなどこれっぽっちも思っていない大地の巨大鬼(ティターン)は、すぐさま態勢を立て直し今度は左手に魔力をため新たな技能(スキル)を発動しようとするが、それよりも早く小さな人間が行動を起こした


「〈致命の一撃(フェイタルブロー):Ⅲ〉!」


 上段より繰り出される金属の煌めき、刀身より溢れ出す雷光。

 天空より振り下ろされた渾身の一撃により、鮮血が迸る。その一撃は、大地の巨大鬼(ティターン)に一瞬の隙が生まれ、それは、文字通りの致命傷となった。


「これで仕留める! 〈無慈悲の連撃(カーネイジ):Ⅳ〉!」


 無防備の体へ技能(スキル)によるブーストが掛かった攻撃が牙をむく。一撃目で魔法の防御層を貫き、その次の一撃で肉を抉る。再び繰り出される攻撃で体力は限りなくゼロとなった。抵抗する生命力も、気力も失った大地の巨大鬼(ティターン)はゆっくりとその巨体を地に沈めようとして――

 


 ――高速で振られた最後の返し刃で、その首を落とされた






 






「いいじゃないかポルトル。今のコンボに無駄は無いし、戦士系ソロでは討伐不可能と言われている大地の巨大鬼(ティターン)を俺の補助があったとはいえ倒せたんだ。自信を持て。お前は強くなった」


 既に〈多重詠唱(マルチキャスト)〉と【複体作成(ドッペル・クリエイト)】を発動し、倒したモンスターの剥ぎ取りを開始していたアルスマークは、ポルトルへ労いの言葉をかける


「ありがとうございます! それにしてもいまだに信じられません。僕にこんな力があるなんて……」

「俺のスキルでかなり底上げしている状態だからな。もし、ソロだったら多分勝ててないから、過信はするなよ」

「はい!」


 ポルトルには戦闘開始の前に数十に及ぶバフを掛けていた。

 その効果もあり今の戦闘能力は数倍にも膨れ上がっている。属性すら自由に操るアルスマークにかかれば相手の属性攻撃を無効化するのは容易く、状態異常もほとんど抵抗(レジスト)することが可能だった。

 相手の情報を掴んでおり、事前に対策を施した二人の前に大地の巨大鬼(ティターン)の敗北は決まっていたのだ。


「さて、俺の分身が素材を回収している内に逃げたやつの状況を確認してくる。お前はここで待機してろ」

「了解しました。行ってらっしゃいませ!」


 パニック状態に陥ったモンスターは脅威からとにかく離れようとする。

 逃げた先に何もなければ一番いいのだが、万が一街道に出てしまい他者に被害が出ることは、一番避けなければならないことのひとつだ。

 森の中を高速で移動し逃げたモンスターの動向を探りつつ危険性があると判断したものに関しては倒していった。


「よし。これで大丈夫になったかな」


 広大な森の中を縦横無尽に動き回ったため、通常の人間であれば方向感覚が崩壊し元居た場所へ戻ることは不可能だろう。しかし、アルスマークにそんな心配はない。【空間転移(テレポーテーション)】を使用し視界が即座に切り替わる。


 そこには数十分前と一部を除き変わり映えのない景色が広がっていた。

 しかし、モンスターの死骸は全て処理されており――濃厚な血の匂いが充満しているが――戦いがあった場所だとは到底思えない。そして、こんな森の奥深くにどうやって入ったのか一台の巨大な馬車がそこにあった。

 その近くには護衛とみられる数名の屈強な男たちが待機していた。馬車の持ち主と思われる男は、ショートヘアーの金髪に美しい碧眼を持ちスラっとした体つきをしている。美少年と呼ぶにふさわしい容姿のその男は、森の中にいるというのに皺や汚れが一切ない新品同様の"スーツ"と呼ばれる服を着ており、白を基調としたトラウザーズ。白とダークレッドが美しいベスト。つけているネクタイには複雑な模様があしらっており、いくらするのだろうか考えるだけで眩暈がする。羽織っている赤色のジャケットは膝近くまである。青みがかかったピンク色の美しい色白肌に特徴的な紋章が刻まれたその両手にはいくつもの指輪が嵌められていた。


 ポルトルは質問攻めにされているのか、困惑した表情を浮かべながらその男と何か話し込んでいたのだが、こちらに気づきすぐに声をかけてきた。 


「あ! アルスさん。おかえりなさい! えっと、この方なんですけど……」

「ポルトル。大丈夫だ。()()()会ったやつだが、()()()()だ」

「え? それってどいういう?」


 ポルトルにはアルスマークの言ってる意味が理解できなかった。

 しかし、どうやらこの男も同じことを思っていたようであり、ポルトルは考えるのを放棄したのであった。


「カセドラル・エトワーレ=ソレイユ・ゴルドと申します。膨大な魔力反応を感知したので何事かと思い駆け付けた次第ですが、【守護】の仕業でしたか。無用な心配だったようですね」

「アルスマーク・ライガ・ストームだ。【豪商】とは初めてお会いするが、このような美少年とはね。その美貌で一体どれほどの金が動くのか知りたいところだ」

「容姿は武器でもありますが、容姿だけでは大した威力はないので、アルスマークさんが期待するほどの額は動かせませんよ」

「アルスで良いぞ。それにしても【豪商】がこの近くにいるとはね。思いもよらなかったよ」

「【豪商】と呼んでいただけるのは光栄ですが、私もカセドラと親しみを込めて呼んでいただきたいですね。私はエンシリア・ポリスに用があるので向かっている途中なのですが、ここでアルスさんと会ったのも、何かの縁。よろしければ私の話を聞きませんか?」


 カセドラルのその目は大商人を遥かに超えた、豪商の眼差しであった。

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