だるい学園
あー、だるい、とにかくだるい。だるすぎて製作とかやってらんない。
まぁ、製作のペースが早くて、追いつけなくなるという事態は起きていないのだからまだマシな方か。
「あー…だるい…」
「ここをこの様に……」
速水先生が教科書を見ながら板製作のやり方の説明を続けている……その時だった。
『〜♪』
ーーえ?
教室中の皆が今の機械音に反応した。
俺も驚いて、隣席の千秋に聞いてみる。
「なぁ千秋、今のって…」
「あー、そうだね、今のは…」
「携帯の通知音…?」
「あ、ああ…」
今、この学園では個人の携帯の所持は基本禁止だ。ただ、翔みたいに、芸能人だったり、諸事情があり、どうしても必要な場合は生徒会に申請し、許可されれば個人用の携帯を所持する事ができる。
ほかの生徒達は携帯に似た魔道具を持ってはいるが、その魔道具はこんな音を鳴らさない。
速水先生は翔を見た。このクラスで携帯の所持を許可されているは翔しかいないからだろう。
だが、翔も少しビックリしているみたいで、周りをキョロキョロ見ている。
速水先生が翔を睨むと自然とクラスのざわつきが静まっていく。
どうなるのか、興味があるのだろう。
「黒木君、君なのですか、鳴らしたのは」
翔は先生が自分を睨んでいたことに気が付くと驚きを表情に浮かべた。
「先生、この着信音は僕の携帯ではありません、そもそも僕は今、電源を切っていて…」
まぁ、あの驚いた様子じゃきっとこれは翔じゃな…
「いえ、ここには君しか居ないのです。携帯を持ち込める生徒は。ということはこの音を鳴らしたのは、君ということでしょう!」
い……へ?
「でも先生、本当に僕じゃないんで…」
「黙りなさい。」
「…はい…」
…おかしいな。翔は嘘を吐くような奴じゃない。それくらい先生も分かっているはずだ。
それに今、先生は翔の話も聞かず逆に怒声によって無理矢理話をできなくした。
いくら行動が謎な速水先生だって、今日の行動はもう謎を通り越して狂気の沙汰だ。
『キーンコーンカーンコーン』
シーンと、なった教室に授業の終わりを告げるチャイムの音が響く。
これを聞くと先生は授業が予定より進まなかったからかため息を吐いた。
「はぁ、ではこれで1時間めの授業を終了する。黒木君は放課後生徒会室に来なさい」
「起立っ、礼っ」
「「「「ありがとうございましたー」」」」
あんな状況下であったのにいつも通りに礼をするクラスの皆にちょっと拍手を送りたくなる。
まぁ、そんな奇行、実際には行わないが。
翔を見るとまさに、ガクブル、な感じで自分の席の前につっ立っていた。
まぁ、いつも笑顔で爽やかなモテ系男子があんな風に先生に言われるのは初めてだろう。
俺は優しいからな、声をかけてやろう…だるいけど…。
「翔、大丈夫か?」
俺が声をかけると、いつもの爽やかな表情に変わった。さ、さすが、アイドル…。
「うん、大丈夫。先生にも間違いはあるし、もしかしたら本当に僕の携帯だったかもしれないしな。放課後、生徒会室に行ってくるよ。」
どうやら翔は立ち直ったようだ。
「そうか、良かった。お前が先生に怒られることはあまり無いからな、心が折れちゃってるかと。」
傷ついてそうだったから、一緒に放課後生徒会室行ってやろうかと思ったけどこれなら大丈夫そうだ。
「…朔夜の僕へのイメージがちょっと気になるな。」
「んー、爽やかな笑顔で女子の心を鷲掴みにする女誑し?」
冗談っぽくそう言ってみる。
「酷いな。僕は別にそんな事はしてないよ」
俺なりにボケたつもりだったが冷静なツッコミが入ってしまった。
「なら、優等生なモテ男くん。」
「なら、って何さ、なら、って。それにそれも違うよ別に僕は優等生でもなければモテてもいないからね」
「いや、モテてると思うぞ。」
「いや、モテてないよ…千秋ちゃんもそう思うよね!」
翔はそう言って、後ろから千秋の肩を軽く叩いた。
「わぁ!?」
千秋はビックリして、しばらく固まってしまり、硬直が溶けるとすぐに向き合って翔を睨む。
「…翔、いきなり千秋に振るなよ、びっくりしてるじゃんか。」
「ちょ、翔くん、びっくりしたんだけど!」
「あはは、ごめんごめん!千秋ちゃんって面白いね。」
「あはは、じゃないよ、あはは、じゃ。励ましてあげようと思ってたけどもういいよね、そんなに元気なんだし!」
「励ましてくれようとしてたんだ!」
「え、あ、その、翔くんが疑われるようになったのもウチの姉が、許可のない人は個人の携帯の所持禁止、なんて校則を作ったからだし…ウチにも責任はあるというか…」
千秋が尻すぼみになりながらもじもじと言う……何なんだこの光景は…
「ありがとー。」
翔はそんな千秋に礼を言う。俺、もしかしてこれ二人の邪魔してないだろうか…。いや、気にするだけ無駄だな。
「でもさ、絶対姉がやってることおかしいと思うんだよね。どんどん校則、厳しくしていって…」
生徒会長の竹谷三春先輩、つまり千秋のお姉さんは、最近学園の校則を増やしつつある人だ。俺はその理由を知らないし、恐らく千秋も、翔も知らないだろう。
「三春先輩ねぇ、なんだかよく分からないよな。校則の事に関しては反対する人が多いのに見た感じそれを行なっている先輩は嫌われていない、というかむしろ好かれてる感じだしな。」
「千秋ちゃんのお姉さんは、どうしてこんなことしてるのかな?」
翔は個人の携帯を取られたということもあり、不安そうな顔をしている。
「さぁ…ウチにもわからないよ。」
『キーンコーンカーンコーン』
千秋が首を傾げたところで2時間目開始を告げるチャイムが鳴り響いた。……はぁ、だるい。
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放課後
「あー、僕生徒会室行くの怖いなぁ、千秋ちゃん、一緒に、グハッ」
一緒に行こう、と翔が言おうとしたところで千秋のパンチが翔のちょうど鳩尾の部分にヒットした。
「やだ!姉がいる。会いたくない。」
「痛いよ、もー、暴力的だなぁ千秋ちゃん。」
翔って肉体的な方も立ち直り早いな。
『ガラッ』
!?……
突然ドアが横にスライドされた瞬間、俺はあの人の気配を感じ取り、反射的に拳を突き出す。
「おい!美月!俺とたたっ、うがぁ!痛ぇっおい美月、待ちやがれ!」
俺の拳は見事に薄先輩の顔面にヒットした。
薄先輩は何やら叫んでいるが俺はこれ以上絡まれないように廊下にでた。
大神薄。
よく俺に悪い意味で絡んでくる先輩だ。戦い好きで、勝負好きな上、先輩が勝たないと機嫌を悪くしてしまう。要するに、かかわらない方が良いめんどくさい先輩だ。
教室から出た俺はテレポートを使う…いや、使おうとしたのだが、ある人物に止められてしまった。その人物は俺の肩を掴み、廊下の済に引き寄せて行った…
何なんだよ、俺は面倒事には付き合いたくないのに…ああ、だるい…