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春夏秋冬  作者: 藍奈
4/4

〜秋〜

私立松葉学園、日本にある有名なエリート校。小学校から大学までの一貫校で毎年受験は3倍以上の倍率で松葉を出た者は出世すると言われるくらいだ。全寮制で偏差値は78、留学も盛んで多くの外国人生徒も在籍している。そんな学校の高等部3年に在籍中の安藤優菜、毎日楽しい仲間達に囲まれて時には辛いこともあるけれどほぼ毎日笑って生きている。そんな優菜には1つ年上の彼氏がいる。名前は高橋翔太、今はスイスに留学中だけど、2日に1回のペースで連絡取り合っていて優菜も翔太もお互いのことが大好きだ。そんな思いとは裏腹に、優菜が好きだったけど翔太がいることで思いを伝えられなかった男子は凄く喜んだ。彼が留学している事で自分の物にしようといている。そんなある日の放課後。

「また優菜勉強してくるの?」

「だってどうせ今日も遅いでしょ?」

ルームメイトの優華と咲楽にも彼氏が居る。2人の場合彼氏も日本にいて毎日会える。

「まあ、」

「だったら学校なら先生だっているし、夢叶えられるように頑張らなくちゃ」

「頑張るって?」

「セレクション試験通るように勉強。」

「また学校でやるの?」

「ダメ?」

「別に良いけど、毎日最後まで学校に残っていつか告白されるよ?」

「うん。」

「まあ放課後がチャンスなのは私も分かる。でも、私が愛してるのは翔太だから」

そう言ってみせた優菜のスマホの壁紙は去年の卒業式に翔太と2人で撮った写真だった。

「なら良いけど…」

「咲楽〜」

咲楽の彼氏が呼んでいる。

「あ!もう行かなくちゃ。」

「私も。」

そして、1人になった教室、窓から夕日が差し込んでくる。優菜はいつもの自分の席に座って勉強をやり始めた。すると同じ学年の清水君が来て話しかけてきた。

「優菜ちゃん、俺と一緒に遊びに行かない?」

「行かないよ」

「行こうよ〜、」

「行かないって言ってるでしょ。勉強したいの」

優華たちが注意する理由が分かった。

「でも皆この時間彼氏とかと遊んでるよ。優菜ちゃんだって遊びたいでしょ。」

「いや、別に。今年は高3だし、勉強の時期だと思うから」

「なんでそんなに嫌がるの?」

「やだって言ってるでしょ!私職員室に分からない所聞きに行くから。じゃあね」

「……」

優菜はそう言って何とか清水から逃げ出した。と言っても実は今の所分からない所なんて無い、どうしようかと今更ながらに悩む。そして結局サッカー班を見に行った。演劇班が休みなのに対してサッカー班は今日も練習している。

「お!優菜」

声をかけてきたのは同級生の健人。清水と違って昔からの男友達だ。翔太もサッカー班に居たので当時翔太を慕っていた健人とは比較的仲が良い。恋人って言うよりふざけ合う仲間みたいな感じ。

「久しぶり。」

「そうだよ、最近俺のプレー見てくれないから寂しかったよ。」

「はぁ?」

「うそうそ。翔太先輩いなくなって心配してたけど、大丈夫そうじゃん。」

「まあね。てか、健人は彼女作らないの?」

「俺はまだサッカーで良いかな、どうせ作ったって翔太先輩みたいに彼女を喜ばせる自信無いし、、、」

「そっか。」

「じゃあ、俺練習戻るわ」

「頑張れよ」

「おう!」

また練習に戻っていく健人はかっこいいというより可愛らしかった。身長も低いし、イケメンでも無い。でも優しくて良いところは沢山ある。

「珍しい!」

「あ!咲楽、」

咲楽の彼氏もサッカー班。何かとサッカー班には縁がある。咲楽は彼氏の練習を見ていた。優菜も去年までは見ていたから懐かしかった。

「勉強するんじゃ無かったの?」

「咲楽の言う通りだった。告白されたよ。」

「で?」

「清水君となんか付き合いたくないし逃げて来た」

逃げた先は結局幸運なことに見つからなかった。でも、また翌日になると激しいアプローチが続いて優菜も疲れ始めた。そんなある日。いつものように男子による激しいアプローチ、下校中も続いていた。優菜がやだって言ってるでしょ!とキレた瞬間だった。腕が掴まれ優菜の体が路地裏に連れ込まれた。

「誰!?」

「大変そうじゃん。」

「健人?それに裕哉君に陽希君も…なんで?」

皆サッカー班の翔太の後輩、ユウナの同級生だった。

「俺ら、翔太先輩に散々お世話になってきたし、残された彼女さんくらい守って行かないとな。」

「あぁ。」

「ありがとう。」

「これからは前みたいにサッカー班の練習終わるの待ってろよ、俺らが寮まで送ってっから。」

「別に送ってってもらわなくても…」

「遠慮しなくても良いんだよ」

「そうだよ」

「…じゃあ、」

そしてサッカー班の男子たちと帰り始めてしばらくしたある日。

「これ、翔太先輩が優菜に渡せって。」

「え?何?」

「今日誕生日だろ?翔太先輩がその日に渡したいからって俺に…」

そう今日は6月23日で優菜の誕生日だった。スイスで遠いし半ば諦めていたのだったが、だからこそ嬉しかった。

「今日はこの辺でいい?」

「うん。ありがとう」

それから、帰って翔太にお礼のメールをするとすぐに

『お誕生日おめでとう。プレゼントは気に入ってくれた?そっちにはいけないけどスイスでお祝いしてるよ。』

と帰って来た。最近は劇班の活動も忙しくて連絡をあまり取れなかったから久しぶりに連絡取れて嬉しかった。最後の文化祭、すぐにその日が来た。近年の文化祭は翔太と一緒に居た。今年も咲楽と優華は彼氏と一緒に居るけれど優菜の彼氏はスイスだ。3年だから仕事に追われているものの空き時間は1人で居た。寂しいがしょうが無い。そこに誰か来た。

「だ〜れだ!」

「え?誰?わかんない。」

「やったね、今度は騙せた」

「あ、翔太!なんで居るの?て言うか騙せたってどういうこと?」

「いつかの誕生日、すぐ優菜にバレちゃったでしょ。」

「今日本当に分かんなかった」

「っしゃ!」

「それでなんで日本にいるの?」

「夏休みになったからさ、それに優菜の事心配で」

「別に心配しなくたって私は大丈夫だよ。」

つい強がってしまう。素直になれない自分に嫌気が差してくる。

「嘘つけ。僕が来る前すごく寂しそうにしてたくせに!」

嘘を見破って甘えるチャンスをくれた翔太に感謝するしか無い天階に。でも嬉しかったし、拓哉が居ると安心した。でも結局こうなるなら素直に甘えれば良かったと思う。

「やっぱ、優菜には僕が必要だな」

翔太は優菜の頭に手を置いて優菜をぎゅーってした。

「言い直すね、ホントはすっごく寂しかった」

これでさっきの強がりが無かったことにはならないけれどせめてもの甘えであり、翔太へのお帰りだった。

「大丈夫、居れる期間は短いけどこれから少しの間は一緒にいるから」

優菜がせっかく翔太との時間を味わっているのに小声で先輩。と呼ばれた。しょうが無く一度翔太から離れ、声の元へと行った。

池「何?2人とも」

呼んだのは劇班の後輩だった。

「あの人になんで馴れ馴れしくしてるんですか?優華先輩が言ってましたよ、あの人は凄い人だから失礼の無いようにって。」

「あぁー、でも演劇班にその'凄い人"の彼女が居るって言ってなかった?」

「言ってました。でもそれって咲楽先輩じゃないんですか?可愛いし、、、」

「…期待外れでごめんね。彼女、私なんだ。」

少し悲しくなったけど優しく自分であることを伝える。

「え?そうなんですか?ごめんなさい優菜先輩!ほんっと失礼なこと言っちゃいました。」

「本当にごめんなさい、」

本当に分からなかったようで必死に謝ってくるのがまた、可愛い。誤解が解けた所で翔太のところに戻った。

「どうしたの?」

「優華があの2人に翔太は凄い人だから失礼の無いようにって吹き込んだみたい。私に馴れ馴れしくして大丈夫なんですか?って聞いてきたの。可愛いよね、優華の言うこと真摯に受け止めて…」

「ハハッ凄い人だなんて。」

「あ、ごめんね、私もう行かなくちゃ。」

「あ、そっか。じゃあまたね」

毎年のように企画が進み、やがて閉祭式、そして文化祭が終わった。それから夏休みは2人でプールやお祭りに行った。8月14日は花火大会。優菜は浴衣、翔太もジンベイで会場に行った。いつもの髪型も良いが翔太はこの日の浴衣に合わせて結った髪型が凄く似合っていると思った。

「今日の髪型自分でやったの?」

「そうだよ。」

「凄いね、どうなってるの?」

「ここでお団子して、そこから少し出して垂らしてあって。」

「意外とシンプル。優菜、お腹空いたでしょ?屋台で何かかって食べる?」

会場にはたくさんの屋台があった。フリフリポテトに、たこ焼き、焼きそば…

その中から夕ご飯に焼きそばとそれぞれ唐揚げとあんず飴を買った。やがて会場に大勢の人が集まってきて一発目が打ち上がった。とっても綺麗で気づくと2人で腕を組んだまま黙って花火を見ていた。優菜は少し翔太と会話したくなって今の気持ちを伝えてみた。

「花火、今までで見た中で一番綺麗。」

すると翔太はそれに答えてくれた。

「優菜は花火よりずっと綺麗だよ。」

「翔太ってお世辞もうまいんだね」

花火より綺麗だなんてお世辞にしか聞こえなかった。でも翔太は否定した。

「お世辞じゃないよ、久しぶりにあった優菜、すごく綺麗になった」

「…ありがとう(照)」

「ほら、ナイヤアガラの滝だよ」

「綺麗!」

そう言って優菜が翔太に寄りかかると翔太は優菜の肩に手を回し、引き寄せた。花火の最後は赤いハートの打ち上げ花火、まるで2人に送られているような凄く綺麗なハートだった。2人が寮に帰る頃にはもう10時近くだった。金龍&高嶺薔薇のお祭りの日特別ルール'夕食は準備できないけど、それでも良いなら夜遅く帰ってきても良い"の通り今日は別に怒られもしなかった。逆に帰ってきた端から'今日のデートはどうだった?"とか'恋人とはうまく行ってるのか?"とか聞かれていた。

お「あら、優菜ちゃん。優菜ちゃんの所はラブラブなんでしょ?」

池「はい…まあ」

お「佳奈ちゃん今、なんか色々悩んでるみたいだから相談に乗ってあげて!」

佳「優菜先輩!あの、彼氏が今浮気してるっぽいんですけどどうしたら良いですか?」

池「佳奈、それは佳奈の愛が足りないんじゃないかな?私も翔太の近くに自分とは違う女の気配感じた時もあったけど、私が1番翔太の事好きで翔太だって私の事1番に思ってくれているって信じてたから乗り越えられたんだよ。」

佳「じゃあ私がもっと愛してあげればいいんですか?」

池「ううん、愛してあげるんじゃないの。もっと相手の事知って、嫌な部分が見えてきてやだなって思ったら別れれば良いし、良い部分だとか嫌な部分でもそれでも好きっていうところが見えてきたら自然にもっと愛せると思うよ」

佳「ありがとうございました」

池「全然。困った時はお互い様よ」

翌日、10月にはお互い会えないため少し、いやかなり早いけど翔太のお誕生日をお祝いした。プレゼントも渡してこれで会えなくても大丈夫だ。その後すぐ翔太はスイスに帰ってしまったけど、夏休みの2週間くらいを一緒に過ごせて大満足だった。9月からの2学期、また2人離れての生活が続いた。そんなある日の帰り際、ある男が現れた。

「優菜」

優菜は自分の名前を呼ばれたのが怖かった。それもどこの誰だがどんな顔かも分からない。どこで呼んでいるのだろう。

「え?誰?」

「大丈夫、優菜ちゃんには俺らがついてるから」

「そう、どんな不審者からも守るからよ」

「ホント?」

「もっと俺らの事信用してよ」

「走れ!!」

「えー!!!!」

急だったがそれからしばらく3人に置いていかれないように優菜は全力で走った。サッカー班の3人の足は物凄く速くて途中何度も置いて行かれそうだった。それから3つくらい角を曲がった所でやっと3人の足が止まった。

「はぁはぁはぁ…いきなり何よ!」

「優菜の事呼んだのきっと俺が見たおじさんだと思う。田舎っぽい格好してたけどひとまず逃げなきゃって。多分もう大丈夫だと思う。」

「そう。でも3人とも足速すぎ!」

「サッカー班だし当然!」

「3人について行かなきゃならないこっちの身にもなってよね!」

「でも凄いよ、途中で俺らとはぐれること無くついてきたんだもんな」

「偉いぞー、優菜」

「褒めたって彼女にはならないよ?」

「翔太先輩の彼女って分かった上での付き合いだ。それに今じゃすっかり綺麗になっちゃって本当は一般市民の俺らじゃ手の届かないくらいの人気者だからこうやって一緒に帰れるだけで十分だよ」

からかっているんだか本気なのか本心が分からない。でももし本心だった場合褒め過ぎだと優菜は思う。

「じゃあこの辺で。あのおっさんもいるし、心配なら明日朝迎え来るけど、」

「良いの?じゃあ勇斗君も連れておいでよ。咲楽居るしさ」

「了解。じゃあな!」

翌日、不審者を警戒して健人達が優菜達3人を迎えに来てくれた。

「おはよう」

「おはよう、咲楽」

勇斗も一緒に来て咲楽はデレデレだ。そして7人で学校に向かい、昨日あったことを先生に話すと早速学校放送で流れた。

『皆さんおはようございます。全校の皆さんに連絡です。昨日40代くらいの男性の方がある女子生徒の名前を物陰から呼ぶという恐ろしいことが起こりました。女子生徒をはじめとする生徒の皆さんは気を付けて生活をし、またそのような被害にあったらすぐに学校に報告して下さい。』

その後、他の生徒が被害にあうことは無かったが、引き続き優菜は被害にあった。そのおじさんは毎週金曜日になると現れ優菜の事を呼んだ。いつもはどこから呼ばれているか分からないまま早足で通りすぎて路地裏を通って帰るが、ある日はっきりと顔を見た。ひげを生やし、メガネをかけていた。優菜は何故か見覚えがあるような気がした。でも思い出せないまま時間が過ぎていった。

「優菜、何考えてるの?テストの事?」

「テストの事考えてるのは、咲楽。テスト結果表無くしたから」

咲楽はさっきからテスト結果表を無くして探しまわっている。あんなA4サイズの冊子よく無くすなと優華と優菜は呆れ気味だ。

「じゃあ何?」

「いつも金曜日になると出る優菜おじさん、今日始めてはっきりと顔を見たんだ。なんか見覚えがあるような、無いような…」

「前も見た事あるの?」

「うん。多分…」

「じゃあ知り合いなんじゃない?」

「そうかな。」

「前いた学校の先生とか」

「なら、優華とか他の人も被害にあうはず」

「そっか。他に男性で知り合い居ないの?」

「うーん…」

優菜が考えこんだ瞬間咲楽が叫んだ。

「あった!!」

「やったじゃん、で居る?知り合い。」

優華はほとんど無関心だった。だいぶそっけない返事だ。

「2人は何悩んでるの?」

「優菜があの優菜おじさん見たことあるんだけどそれが誰か分からないんだって」

「そんなの前の学校の先生じゃない?」

「それなら私達も被害あうでしょ?」

デジャビュにムカつきかねないが咲楽は可愛いから許す。そう思えてしまう咲楽の力は何なんだ。

「そっか。じゃあ、学校の先生じゃなくて、優菜の事知っていて、40代で、田舎っぽい。優菜のお父さん!」

「お父さんだ!」

「えー??」

「最近全然あってなかったし忘れてた。今度の金曜日確かめてみよ!」

それから1週間。この1週間の間にどんどん怖くなり、サッカー班の3人に加え、優華や咲楽までもが一緒に帰ることになりその特典のように優華と咲楽の彼氏も一緒に、劇班の皆も巻き込んだ。ここ最近で1番の一大イベントのようだ。いつもの帰り道を歩いてしばらくすると健人が声を上げた。

「居た、」

「行くよ」

「行っておいで」

そういう優華に優菜が一言。

「え?優華も一緒に行くんだよ。双子なんだから」

「分かったよ。」

でもきっと優華が双子じゃなかったとしてもきっと連れて行っていた。一人は怖かったから

「あの、毎週私の名前呼んで何ですか?気味が悪いんですけど。」

「え…」

優菜は一度深呼吸して一気に思いを伝えた。

「1回私、見捨てたくせにホントなんなの?私がどれだけ苦しい思いしたか分かってるのかよ!今までここで積み上げてきたものが崩れかけてさ、親友ともばらばらになる所だったんだよ!まあそのお陰でアンタがどれだけ酷いやつかっていうのも分かったし、お母さんがなんで離婚したかっていうのも良く分かった。今はもうお金にも何にも困ってない。これだけの仲間も居るし、彼氏だって居る。双子の姉妹も見つかった。もう帰って!」

「双子って、一体誰?」

「私です。」

「優華、優華なのか?」

「そうですけど、優菜とは小1からの親友でもあり、ずっと一緒でした。あなたの裏切りも間近で見てきたからこそあなたを父と思うことは出来ません。行こう、優菜。」

その言葉を聞いた尚和はその場に土下座をし、謝り始めた。すまなかった、許してくれと涙でぐちゃぐちゃになりながらひたすら謝罪をしていた。けれど優菜と優華は許せなかった。一生残る傷を心に負い、それを背負って生きている。きっとこの傷が癒えることはないし、許したとしてもどこかで嫌ってしまうと思ったからだ。それからひとしきり謝った尚和は限界を感じたのか何も言わずに立ち去っていった。2人はストレートに思いを伝えられてスカッとしている反面優菜にはどこか心残りがあった。その後、しばらくは尚和が姿を現すことはなかった。姿を一度も見ないうちに12月のクリスマスになった。優華と咲楽は彼氏とクリスマスデート、優菜もデート、のはずだったが翔太が部屋に迎えに来ると言ったのに中々来ない。今年のクリスマスは1人で寂しく過ごすのかと諦めかけていたその時。

「遅くなってごめんね?」

「翔太、遅いから1人でクリスマスかと思ったじゃん!」

「優菜を1人になんてさせないよ」

「翔太!」

「何?泣いてるの?」

「だって心配だったから…」

「…ほら、おいで!」

翔太は腕を広げ優菜を抱き上げた。翔太の腕の中は変わらずに温かった。

「心配しなくたって僕はいつも優菜の事を1番に考えてるんだから大丈夫だよ。ほら、涙拭いて。良い所連れて行ってあげるから」

「良い所?」

「うん。」

「どこ?」

「それは秘密♡」

翔太が優菜と来たのは夜のスカイツリーだった。夜景が見える絶好の場所だけあってかなりの倍率だったが見事当てたのだ。展望台からは東京の街が一望できた。キラキラと輝くクリスマスの飾り、街、全てが夢のようだった。スカイツリーから東京を一望しながら翔太と話す。

「優菜、進路どうするの?医学部?」

「ううん、翔太がやりたいことやってるんだもん。私だってやりたいことやるよ!」

「え?」

「音響。今、すっごく楽しいから」

「じゃあ、」

「うん、スイス、行くよ。でもこれは翔太が行ったからじゃない。ずっと行きたくて3年前からフランス語とラテン語、勉強してた。だからもう向こう行ってもちゃんと喋れると思う。」

「ホント?じゃあ、来年はスイスに一緒に居れるね。」

「うん。来年はスイスのクリスマス体験したいな」

「そうだね、僕も帰って来ちゃって体験できてないからね」

「そっか、でもどんな感じなの?準備とか」

「日本と変わらないこともあれば、驚くこともある。例えばいつものお店にグッズが並ぶだけじゃなくて専用の屋台が出てたり」

「えー!そうなの?面白い」

「でしょ?僕も初めて見た時驚いたよ」

「でもなんか楽しそう!」

「楽しいよ。優菜、そろそろ帰ろうか」

「え?もっと一緒に居たいよ」

「別にお別れとは言ってない。セレクション試験近いんだから帰って勉強しよう、教えてあげるから」

「分かった、それなら良いよ!」

帰ってもまだ2人とも帰ってなかった。まだ後2時間は帰ってこないだろう。だからゆっくりと翔太と居れる。

「優菜、ちゃんと勉強できるじゃん」

「学年トップですから」

「だったら勉強しなくたっていいね、だったら2人で話そうか」

「何を?」

「話す事ない?僕はあるよ」

「何?」

「実は優菜の他に親ともスイスに居る間も連絡とっててサッカーやってること言えたよ。それから優菜のことも。」

「良かったね。私の可愛い方ちゃんと翔太のお母さんにも伝えたってことだよね?」

「そうだよ。」

「良かった。今もブサイクだけどずっとあのもっとブサイクな印象って嫌だったから。」

「今はすごく可愛いけど?」

「ありがと。」

「ねぇ、クリスマスプレゼントなんだけど…」

「何?この小さい箱。可愛い!あ、これは私から」

「ありがとう。ただ、気に入ってもらえるか…」

「何?」

翔太が差し出したのは立派な指環だった。

「え?指環?」

「うん。女子達、高等部になると皆つけるけど優菜は違ったから気に入ってくれるか凄く不安で」

「ううん、そんな事ない。私決めてたんだ、最初の指環は翔太がくれる指環にするって。でも、これ高いんじゃない?ブルートパーズでしょ?」

翔太が差し出した指環にはハートの形に削られたブルートパーズが収まっていた。ブルートパーズは希少な石で値段も凄く高い。でも翔太がプレゼントできたのには訳があった。学校の野外学習の時採掘で見つけたのだ。ほぼ奇跡だった。だから加工費用だけで済み、あまりお金もかからなかったのだ。

「ありがとう、翔太。私の薬指につけて」

そう言って、右ではあったが手をだした。

「え?薬指?」

「うん。左は結婚する時でしょ?だから右は付き合ってる人に貰った指環。」

「分かった」

翔太は優菜の右の薬指に指環をはめた。そして優菜からのプレゼントは財布をだった。

「今使っているお財布、もうボロボロでしょ?」

「ありがとう。もうそろそろ買い替えようと思ってたところだったんだ。」

「このお財布でよかった?」

「うん、この色も気に入ったし完璧だよ」

そうして時間が過ぎていった。久しぶりに会ってゆっくりして、翔太がいる事で安心した優菜は翔太にピッタリとくっついたままいつしか寝てしまった。翔太が優菜の寝顔を見て可愛いなと思っていた時の事。誰か来た。

「はーい…えっとー誰ですか?」

「あ、えっと、安藤尚人と申します。あなたは?」

「高橋翔太です。何か御用ですか?」

「いえ、ここでは無かったようで。すみません。」

「そうですか。」

「それで安藤優菜という子の部屋を教えてもらいたいんですけど。」

「それはここですけど。」

「あ、合ってたんですね」

「優菜ちゃん居ますけど起こしますか?今疲れたみたいで寝てて。」

「良いです。でも少しだけあなたにお話聞いてもいいですか?」

そう言って尚人は部屋に上がった。優菜はまだ気持ちよさそうに寝てる。翔太はさっき座っていた優菜の近くに座り、尚人はその反対側に座る。

「お茶どうぞ」

「あ、すみません。」

「安藤優菜の父の安藤尚人です。よろしくお願いします」

「そうでしたか。優菜さんとお付き合いさせてもらっています、高橋翔太です。こちらこそよろしくお願いします。」

「優菜の彼氏さんですか。優菜をよろしくお願いします」

「いえ、大丈夫ですよ」

「翔太さんと居る時の優菜はどんな子なんですか?」

「純粋で寂しがり屋で甘えん坊。なんだか守ってあげたくなるようなそんな感じです。」

「なんだか昔のあの子を見ているようですね。」

「そうなんですか?」

「はい。上京させる前は甘えん坊で人懐っこくて可愛かったんですけどね。上京したらたくましくなっちゃって甘えることもなくなったし、成長を喜ぶのと同時に寂しかったんですよね。親として」

「でも優菜ちゃん、本当はずっと甘えたかったんだと思いますよ。」

「え?」

「ルームメイトの咲楽ちゃん、小1の頃はお母さんに会いたくて毎日のように泣いてて自然と咲楽ちゃんのお母さん代わりを優菜ちゃんが務めてたんですけど優菜ちゃんもそんなに強くなかったし、たまに泣いてましたよ、1人中庭で」

「初めて知りました。」

「それに優菜ちゃん、中3の時はかなり追い詰められてました。ちょうどその時は僕は高1で中々会えませんでしたけど明らかにガリガリで一見大丈夫そうでも心はズタズタだったみたいで」

「そんな…」

「外見はしっかりしてても中身は繊細で傷つきやすくて甘えん坊の幼い時の優菜ちゃんなんじゃないんですか?」

「そうですよね……」

「お仕事は何されてるんですか?」

「仕事は島根の方で美容師をしています。」

「美容師ですか?だから優菜ちゃんもおしゃれなんですね。」

「本当ですか?」

「そうですよ。髪結ったり浴衣の着付けとかも自分でやってて」

「私は何1つ教えてないのにどこで覚えたんでしょうね」

そういうお父さんの顔はやっぱり寂しそうだった。結局優菜は起きること無くお父さんは帰ってしまった。お父さんが帰ってしばらくすると優菜が目を覚ました。優菜は起きるとすぐ翔太にくっついてきた。

「翔太ごめん。せっかく翔太と一緒なのに寝ちゃった。」

「優菜の寝顔可愛かったから許す。」

「恥ずかし。」

前よりは平気だったけどやっぱり少し照れてた。

「それより、優菜が寝てる間に優菜のお父さん来たよ。」

「最悪。髪下ろして寝ちゃった。」

「見られてないよ?」

「良かった。」

翔太は意外だった。お父さんにも無理なんだと思うとなおさら特別な関係なんだと思えた。そして優華達が帰って来た所で翔太は帰っていった。

「ただいま」

「おかえり。あれ?指環」

「クリスマスプレゼント。いいでしょ〜?」

「へ?もしかしてブルートパーズ!?」

「野外学習で採掘したんだって。私も最初見た時は驚いたんだけど採掘したとか凄い翔太の愛詰まってるなって、高くなかったって言うけどこっちのほうが高級品だよね」

「確かに。」

「嬉しい!」

「でも私達も楽しかったし!」

そして翌日。うまく行かない父との傷を癒やすように翔太が来た。

「優菜、遊び行かない?」

「いいよ!」

そして2人は渋谷の街に消えていった。久しぶりに一緒に居れる日々、遊びもした、勉強もした、一緒に年越して初詣に行って。楽しい日々はあっという間に過ぎて3学期が始まった。すぐにセレクション試験があった。セレクション試験、いつも学年トップの優菜でも不安だったし、優華や咲楽もドキドキだ。そんな不安な日々が20日続いた。そしてついに結果発表。

「これから皆さんに合否を発表します。発表は受験番号にて行います。呼ばれたら速やかに前に出て坂本部長より、大学のバッチをもらってください。バッチは大学の4年間使う大切なものです。無くさないようにしてください。又、留学を希望する者は発表終了後、速やかに坂本部長に申し出て手続きをするようにして下さい。」

「それでは発表します。」

緊張の一瞬。坂本部長が順に番号を呼んで行った。優菜の受験番号は072番、咲楽は090番、優華は092番。

…070番072番073番076番081番082番085番088番089番090番091番092番…あった。3人とも合格だ。今回は'仮"ではなくちゃんと合格できた。特待生合格基準、465点も合格して引き続き特待生だ。優菜はすぐ翔太に報告した。まだスイスは夜で返信は来なかったが、報告できただけ安心した。そして留学を申請しに行った。

「受験番号072番、安藤優菜です。スイスの音響科への留学を希望します。」

「安藤さん、授業料免除生ですが成績優秀ですし、学校の宣伝にも貢献して頂いたので許可します。頑張ってきて下さい。」

「ありがとうございます。」

無事1日を終え、翔太からもお祝いの声が届いた。優菜だけでなく優華もフランスへの留学が受理された。そして卒業式を終え出発の準備をして空港へ。

「咲楽ごめんね、咲楽1人だけ日本に残して」

「ホント、なんで行っちゃうの?…でも夢だったんでしょ?音響エンジニア、頑張っておいで」

「咲楽も成長したね」

「うん。」

「優華ちゃんも今度美味しいお菓子作ってよね!」

「分かった」

「じゃあ、」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

離れていてもずっと友達。翔太とずっと付き合ってられたように優華や咲楽ともずっと一緒に居られる。そう思える。そして飛行機で12時間半、長い旅が終わってスイスの地に下り立った。学校の敷地内に行くとグラウンドで1人サッカーの練習をしている翔太を見つけた。

「翔太、久しぶり。」

「あ、優菜。どう?スイスは」

「自然がいっぱいで気持ちいいね」

この後もスイスで2人仲良く生活していくことになるのですが、果たして優菜の父との仲直りはいつになるのでしょう。

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