僕と彼女と焼き芋の……
秋ともなれば、美味しいものがたくさん増える。
僕はエリーと二人、毎日のようにスーパーや八百屋さんで、季節の野菜を買い込んでは食べていた。
鍋物も美味しいし、焼き物だっていい。煮物だって堪えられない。
毎晩の豪遊で、ほっそりしていたエリーの体も、ちょっと人間の女の子のように、むっちりしてきた。
エリーは剛毅な子なので、そんな事なんて気にしない。
どうせ冬になれば、カロリーを消費して痩せるから、なんて言うのだ。
さて、そんなエリーが最近一番はまっているもの……。
それが、サツマイモ。
何も手を加えない、ただ焼いただけの、いわゆる焼き芋だ。
少しお高めだけど、焼き芋屋さんの販売トラックで購入した、本格石焼き芋。
銀紙に包まれたそれを、ほくほくと持って帰る。
風がだんだん冷たくなるけれど、手の中はあったかだ。
「そーれ、タカヒロ! パース!」
エリーが焼き芋を放り投げてきた。
あぶないっ!?
僕が慌てて飛び出そうとしたら、下からびゅうっと、つむじ風が巻き上がり、焼き芋が宙に浮いた。
エリーの精霊魔法だ。
彼女は僕を見てにんまり。
こういう悪戯をしてくる子なのだ。
ちょっとムッとした僕に、エリーは笑いながら抱きついてきた。
「ごめーん、タカヒロ。この後、うちに帰って焼き芋を食べると思ったら、嬉しくって」
ついついはしゃいでしまったと。
まあ、僕も、背中がほかほかになったので、許して上げようなんて寛大な気持ちになっていた。
エリーの体温は高い気がする。エルフなのに。
家に到着すると、エリーはうがいも程ほどに、いきなり冷蔵庫の扉を開けた。
取り出したりますは、バター。
「ぬっふっふ」
「エリー、またそんなカロリーが高いものを」
「カロリーが高いものは美味しいのよ。人間の世界の食べ物に比べたら、エルフヘイムのご飯なんてまるで精進料理」
この間行った禅寺の事、まだ根に持っているのか。
彼女は親の仇のように、執拗にスプーンでバターをこそぐと、真っ二つに割った焼き芋の断面へ、これでもか! と塗りつけた。
焼けた芋の匂いに、ふんわりと香るバター。
「ぼ、僕も……!!」
耐え切れず、僕もバターに手を出した。
二人で顔を見合わせて、
「いただきます!」
ぱくり。
ほくほく、あつあつ。秋の味覚が鼻から抜けていく。口の中でとろけるバター。
焼き芋と合わさって、もう、何ともいえない。
エリーはあっという間に半分食べ終わって、もう一本に手をつけた。
……と、ここで聞こえる、焼き芋に関わりのある生理現象の音。
しばし僕らは無言になって、すぐにエリーは口元に手を当てて笑った。
「おほほ、ごめんあそばせ」
ちょっと頬が赤かった。
そして彼女は懲りることなく、焼き芋にたっぷりとバターを盛り付けた。
かくも恐ろしき、焼き芋の魔力だ。
高貴なハイエルフは人の目(主に僕)を憚ることなく、秋に味覚に立ち向かうのだった。