僕と彼女と朝食
エルフの人っていうのは、あまり肉を食べるイメージが無い。
やっぱり森の民だから、森から取れる恵みで暮らしているんだろうか。木の実とか、草花とか……。
弓矢を持っているから、狩りくらいはするのか……。
そんな疑問をエリーにぶつけてみると。
「バカねタカヒロ。お肉を食べなきゃ元気が出ないじゃない」
「ええっ、食べるんだ。僕が読んでいたラノベだと、野菜しか食べなくて、肉は臭くてダメだって言う設定だったよ」
「何のために弓矢があるのよ。あれは狩りのためにあるのよ。侵入者撃退のためなんてついでよ、ついで」
「ついでですか」
「最近では猟銃使うけどね」
「台無しだなあ」
猟銃は風の魔法で弓矢を強化するよりも強いんだそうだ。
エルフヘイムには豊富な自然の生き物がいて、エルフたちは彼らを狩って美味しく食べているらしい。
ハーブやスパイスも栽培しているということで、食生活はそれなりに豊かなんだと。
塩分だけは不足しがちなので、交易や、塩分を排出する特殊な植物を交配させて品種改良し、やはり栽培していたらしい。
そんなこんなで、エリーは朝食と言えば動物性タンパク質をせっせと摂取する。
紅鮭や目玉焼き、かつお節をご飯にふりかけて醤油をまわしかけたり。
ただ、彼女、植物性タンパク質も嫌いではないらしく、昨今では納豆にはまっている。
しかもひきわりだ。
エリーは小皿に醤油を垂らすと、小匙半分ほどの砂糖を加えて、砂糖をよく溶かす。
それをたっぷりのひきわり納豆に加えるのだが、これはパックのものを幾つか開けて、納豆専用にしたお皿を作ってあるので、それはもう豪快な光景になる。
実に堂に入った仕草で納豆をかき混ぜるエリー。
僕も納豆は嫌いではないのだが、エリーはこのところ、朝といえば納豆だ。
いい塩梅に練上がったようで、かのじょは夜の内にセットしておいた電子ジャーから、炊きたての御飯を一膳よそる。
「何が良かったって、エルフヘイムから出ると、熱々のご飯を食べられるのが最高よね」
僕も彼女に倣って一膳をよそった。残りは冷凍して夕飯にする。
僕がお米を別の容器に移して粗熱を取っていると、既にエリーが納豆をご飯にかけ始めていた。
つやつやの白いごはんが、薄茶色の細かな粘り気に包まれて、なんとも言えない色合いを醸し出す。
「うん、これこれ。やっぱり朝はこれだわ。いただきます」
エリーは手を合わせてから食べ始めた。
エルフは、いただきます、やごちそうさまに抵抗がない。というか、彼らの信仰は精霊信仰のため、日本の神道と実に相性がいいらしい。
御嶽山に御嶽山トレント神社というのが出来たらしいから、今度見に行ってみよう。
エリーは見事な箸使いで納豆がかかったご飯を取ると、大きく口を開けてぱくり。
彼女の整った顔が、なんともだらしなく緩む。
納豆ご飯を食べているエリーは幸せそうである。
大体美味しい物を食べていると、いつもエリーは幸せそうなのだが。
僕もエリー特製の砂糖醤油ひきわり納豆をいただく。
納豆に甘みなんて、という方もいるかもしれないが、これはこれでいける。慣れるとどうということはない。
ひきわり納豆の粘りに砂糖醤油が絡んで、重厚な粘りになるのだ。
僕らはこんな感じで朝食を終えるまで、大体無言だ。
エリーはとにかく、無言で黙々と食べる。
ずっと嬉しそうな表情を継続しているのだから、まあそれはそれでいいんだろうか。
彼女お手製のおひたしや、僕が焼いた目玉焼きなんかを食べていると、いい時間になった。
僕らは、
「ごちそうさま」
と手を合わせる。
食器を片付けて、いざ大学である。
「ねえタカヒロ。今日の日替わり定食は何かしらね」
今朝食を終えたばかりだというのに、エリーの頭は既に今日の昼食でいっぱいのようだ。
友達と一緒に食べる食事というのは、また格別なのだとか。
僕は、夜の内に作っておいた麦茶を二人分の水筒に詰め込むと、彼女の後を追った。
こうして僕達の一日が始まる。