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精霊国物語  作者: 物語
8/12

08.赤竜討伐編‐END

 イツラトゥス南部の田舎。

 そこは、国の食料宝庫といわれるほどの穀物を栽培していた。

 広大な土地をもとに貧乏な村から成りあがり、今ではイツラトゥス有数の裕福な小型都市へと発展していた。


 そんな都市の中心部には精霊軍の第2の拠点が置いてあり、警戒網はそれなりである。

 そんな都市に全身を鎧で覆った男、精霊軍大将のカルフは来ていた。


「相変わらず、ここの発展は凄いものだ」


 以前、訪れた時に比べ、住民は増え、町も大きくなっていた。

 そして、道行く人々は結構な上物の衣服を着ている。そして、遠くの広場では見世物がやっているようだ。

 そして、町の中心には巨大な塔が建っていた。周りには、それなりに高い城壁で囲まれ、さらに出入り口には、屈強な肉体の持ち主が何人も居る。その眼は鋭く、見たものを殺してしまいそうなほどであった。


 精霊軍第2の本部。

 かの王都に連なる本部の次に、強者が揃い踏みの拠点である。

 そして、そこに我の仲間が居る。

 そう、カルサスが置いていった手紙には書いてあった。


「すまぬ、我はカルフである。ここを通してもらうぞ」

「はっ? えっと? た、大将さまっ?」

「な、なぜ、このような辺境の地に?」

「もしや、この辺りに化け物が来ているのですか?」


 入り口を守護していた若者たちに、要件を伝えると、見る間にあたふたした。それに、何を勘違いしたのか、怪物が襲撃にきていると思っているのか?


「いや、違う。我は、我の仲間に用があってだな……シルフィア、アンナがここに居ると聞いたのだが」

「そ、それなら、2階の個人部屋に二人とも居りますが」

「そうか、それなら失礼する」

「いえ、大将様でしたら、いつでもおいでください」


 一応、許可を貰い、そして若者たちの間を通るように、建物へと入る。

 中は、豪華な装飾など無く、至って普通だ。両壁には、誰が描いたのか多数の絵が飾られている。見たところ、人族が魔族と決闘しているように見えた。

 そして、少し歩くと螺旋状の階段が見え、



「だからさ、……が…なら……なさいよ」

「えーと、でもっ……無理でしたら……」

「ああ、もうっ! シルなら大丈夫よ!」

「で、でもっ!」


 と、なんだか騒がしい声が聞こえた。

 なんだか、懐かしい声だ。

 そして、なんだか話し中のようである。


「……」


 トントン、と、ドアをノックすると、中から「どうぞ」と返事が聞こえた。

 そして、中が静かになった。


「失礼するぞ」

「か、カルフ様! ご無事で何よりです!」

「あぁ、良かったねえ、カルフも無事で」


 と、二人が元気よく出迎えてくれた。

 二人とも、大き目のベッドの上に腰かけており、シルフィアは礼儀正しくお辞儀をし、アンナは手をヒラヒラと振った。

 二人とも、外傷は見当たらず、とりあえず、大丈夫そうであった。


「本当にすまなかった……我が居たというのにも関わらず、二人を守りきることが出来なかった。これも、我の弱さが招いたこと、なんでも、償いをさせてくれ」

「えっ? カルフ様? 何を……カルフ様がおられなかったら、私たちは当の昔に殺されていました。ですので、私たちが生き残れたのは、カルフ様のお陰です。何も、謝る必要など……」

「そうねえ、カルフが踏ん張ってくれたおかげで、皆助かったんだからさあ、少しは自分を誇りなさいよ。まさに、英雄だったねえ」

「……そうか」

「それで、カルフ様が来られたということは…」

「ああ、アレス様の命により、ここら周辺の警備を任された。もちろん、それには二人も含まれているが、問題はないだろうか?」

「はい! 私、この日の為に準備は出来ています!」

「まあねえ、とはいえ、強くはなってないけどねえ」

「元々我らは強い。そんなの気にするな。それに、奴……碧眼はlevel8だったそうだ」

「へえ、8ねえ、それは勝てないのも仕方ないねえ」

「8? それって、アレス様と同等ということ……なのですか?」

「ああ、我も倒れた後に知ったのだが、もし、知っていれば戦うことも無かっただろう」


 碧眼の強さ。

 それは、精霊軍総大将アレス様と同等、もしくはそれ以上。

 それを知ってなお、挑戦できる者など誰一人いないだろう。

 そして、現れない限り、精霊軍はこのままじゃあ、いつか衰退していく。

 それは避けては通れん問題だ。

 だが、それはまだ遠く先のこと、今そんなことを考えても意味はないか。


「そういえば、二人に渡すものがあったのだ」

「なんでしょうか?」

「お見舞い品とか、かねえ?」

「いや、そうではなく、勲章だ。今回敗れはしたものの、その勇気を称えてな……そして、階級も一つ上がっている……シルフィアは、精霊軍中尉から大尉。アンナは、精霊軍少佐から中佐ということだな」

「負けたのに……本当によろしいのでしょうか?」

「ああ、これは、上層部がしっかりと考査し決定している。つまりは、正式な勲位だ」

「ということは、カルフも上がったのかねえ」

「いや、我は大将。上にはアレス様しかおらんのでな、上がってはいない。……その代り、最上級品の剣を頂いた。だから、何も気にする必要などない」

「そうですか!」

「それなら、いいや」


 剣。笛。銃。

 確か、カルサスが言うには大将に贈与された武器はこうだったか。

 まぁ、我が銃や笛をもったところで、何一つ効果を発揮しないガラクタになり下がるだけだ。

 だから、剣をいただけたのは幸いだ。

 そして、勲位。

 我は大将。

 これ以上は、流石に不可能だ。それもわかっている。

 それに、部下が評価されるほうが、隊長としては嬉しいものだ。

 かつて、我が大将になったとき、師匠のアレス様も同じ気持ちになったのだろうか。

 ……これから先、国の未来を背負う者の育成を任されたときは、不安であった。

 だが、良い部下に恵まれたか。



「カルフ様? どうかなさいましたか?」


 あまりに長時間考え事をしていたせいか、痺れをきらしシルフィアが訪ねてくる。

 なんだか、己も年を取ったようだ。

 まだ、26歳だというのに関わらず。

 まぁ、二人に比べたら、年は取っているのだが。


「二人とも、これからもよろしく頼むぞ」

「はい!」

「当たり前じゃない」



 ◇



 少年。

 少年には何も無かった。

 そして、これから先も――。



 ◇



「黒龍だと?」

「はい、なんでも、この町の上空を最近よく横切っていくみたいで……幸運なことに負傷者はまだ、いませんが」

「なるほど、町の警備を任された理由はそういうことであったか……」

「そうそう、とはいえ、ここ2週間くらい滞在しているけど、全然現れないのよー、それこそ、私たちが来た途端に、急にねっ」

「……つまりは、黒龍が危険だと判断し、避けているということか。だが、竜は気まぐれな生物だ。いつ戻るか予想もつかん」

「だから、長期滞在してと言われました。その間の費用は全部軍持ちだからって、アレス様が……」


 黒龍。

 確か、level8の神獣であったな。

 その姿は、まさしく竜の王にふさわしく、巨大な体に、炸裂する炎の息吹、そして獰猛な性格。

 竜の頂点、それこそ赤竜よりも数段上のランクに君臨する化け物であったか。


「前回よりも、敵が強くなるっていうのは、少し変だとは思うけど、カルフはどう思うのかしら?」

「ふむ、黒龍は大人なのか? それとも子供か?」

「住民の話を聞いた限りでは、大人の竜ということです。でも、空を飛んでおり、すぐに消え去ったということなので、信憑性は低いかと」

「そうか、ならば、刺激をするのは避けたいところだ。それこそ、いなくなる間は、祭りなどのうるさいものは止めておいた方がよさそうだ」


 祭りが中止となると、住民たちが反対しそうなものだが、命には代えられない。

 少しの間、我慢してもらうほかないか。


「そして、level8だとするなら、精霊軍総出で取り掛からないと、勝てる確証は無いか。だが、それはリスクが高い」

「でしょうね。つい先日、碧眼との戦いで疲れたのに、さらに戦争とか、誰もそんなことは望んではいないわよ」

「そうですね。私も、まだまだ力が足りないです。ですので、戦闘は正直勘弁してほしいです」

「うむ。それは我も同じだ。だが、黒龍がどう思っているかはわからぬ。だから、心の準備だけはしておくべきだろう」

「わかっているよー」

「はい、私も常に気を付けておきます」


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