05.赤竜討伐編‐04
零時を過ぎる前のバルス村。
宿谷の一室に彼らは居た。
国一の力を持つ大男、カルム。
国一の剣士、ラドレルク。
高等精霊師、バクリャーン。
皆、精霊軍に所属するものであり、カルフの部下たちだ。
途中、反論していたのはカルム、ラドレルクであった。
「それにしても、まさか、村待機とは……てっきり、戦えると思っていたのに」
宿谷のベッドに腰掛ける2メートルを越えそうな大男カルムは、手に持つ弓の手入れしながら、理目の前に座る二人に愚痴をこぼしていた。
「ああ、まったくだねえ」
そう答えたのは、ラドレルク。剣技を武器に、精霊と契約せずに、最強の一角へと駆け上がった才能あふれるものである。
そして、もう一人。
精霊軍、高等精霊師バクリャーン。
彼は沈黙を貫いた。
「もしかして、反論したのがいけなかったのかねえ」
「そうだぜ、きっとな」
「……」
三人で愚痴を話すことで、少しばかり気が晴れてくる。
……もう少しで、討伐隊が仕掛けるだろう。そのため、三人はそれぞれに武器を片手に外へと向かった。
◇
「でも、あの方々は、強いのでしょうか? 道中、何度も休もうといいましたし……」
「ああ、彼らは、気分やであるからな。まあ、戦闘力については、我からは文句はないとだけ言っておこう」
「まあねえ、あいつらも、やるときはやるのよね」
「すみません……勝手なことを言い……」
予想以上に彼らの評価が高かったことを知り、シルフィアは二人に謝る。ただ、二人とも笑い、「まあ、しかたないわよ」「ああ、謝る必要は無い」、と別にシルフィアを攻めることはしなかった。
「ただ、それならば、町は安全ですね」
「ああ、バクリャーンがおる限り、崩壊しているということはないだろう。それに、我らが着くまでは、難なく耐えているだろう。あやつの力はそういうものだ」
「?」
「ああ、バクリャーンは、防御魔法を得意とする異端児で、攻撃魔法は使えないのよ。まあ、変な奴よ。一度もあいつの声なんて聞いたことないしね……ほんと、なんでしゃべらないのかしら……」
「魔法の際に喋らないのですか?」
「ええ、あいつ、無詠唱魔法を使えるのよ」
「むえいしょう?」
「己の心の中で唱え、発動させる魔法のことだ。まあ、通常のと、そこまで、威力は変わらないのであるがの。それと、バクリャーンは別に喋らない訳では無い。呪いで、重要なことしか、喋れないだけだ」
「ああ、そうだったわね、あいつが喋らないのは海王主の呪いのせいだったわね。でも、重要なことなんて、そんなに、ないし、いつ聞けることかねえ」
通常、魔法は詠唱することで、発動する。
それなのに、無詠唱で発動。なんとも、凄い人が居るものだと、シルフィアは感嘆し、いつか、バクリャーンの声を聞けたらいいなと、思い……いや、思わなかったのであった。
なんせ、聞いたが最後、何らかの重要な事件が起きているということなのだから。
◇
「……」
バクリャーンを含めた町の護衛の三人は、町を見わたすことが出来る丘の上にいた。
時折、遠くの地から、真っ赤な炎が見え、また、爆音が聞こえてくる。
「とうとう、始めたようですね」
「ああ、だけど、カルフが居る限り、俺たちは何もする必要なんてない気がするけどな」
「……」
「確かに、ですが、赤竜以外が、襲ってくるなんてこともありえるかもしれませんよ。なんでも、竜はモンスターを操る力があるそうですしね」
「へえ、それが本当なら来るかもな。だけど、どうせ、それも噂だろ? いい加減、情報が確かなものだけを言ってほしいものだぜ」
「噂を信じることも必要ですよ? それに、確かな情報が確かだとは限りませんし……」
「ああ、まあ、いいや、それよりも、辺りには何も来ていないのか?」
「ええ。まあ、私たちの出番がくることは、無いでしょう」
二人は気楽に笑い、遠くの地を見据えた。
ただ、一人。
バクリャーンは、背後を振り向き。
町を見つめた。そして、彼の呪いは解かれ。
「……町の入口に敵が多数……」
「なんですと?」
「まじ、かよ……10年ぶりだな。お前の声を聞くのは……まったく、最悪だ」
バクリャーンが喋った。
それは、すなわち。
強敵が集い、大勢の命の危機ということだ。
それを理解した、二人は、全力で町の出入り口へと向かっていく。
「……」
そして。
高等精霊師バクリャーン。
彼だけは、その場に残り、魔法の構築を開始した。
◇
赤竜の討伐から帰還し、丘の上から見た町は、混沌と化していた。
町の道路、広場を埋め尽くすかのように、巨人兵が軍隊のように行進している。
中央には、持ち上げられた椅子の上に一際でかいのがいた。
どれも、顔の中央に目玉が一つしか無く、上半身が裸であり、下は布を腰付近に巻いていた。
筋肉質であり、石で出来た、こん棒を両手でしっかりと握っている。
「一つ目の巨人が何故、ここに……?」
「こりゃあ、私たち以外だったら、終わりだったねえ……いや、私たちでも無理かねえ……」
「えっ……?」
あまりの信じがたい光景に、シルフィアは一瞬、息が止まった。さらに、家々にこん棒が振り回され、破壊されるのを見て、頭が真っ白となった。
アンナも、予想以上な光景をみて、自分たちですら、なんとかならないかもしれないと悟った。
カルフは、背負う大剣へと手の伸ばし、鞘から抜く。
「バクリャーンが居るのだ。そう、簡単に住民を殺させているわけではなかろう。現に、先ほどから、家が崩壊しているのにも関わらず、誰も出てこない」
「じゃあ、一つ目を殺すのか?」
「私たちで出来るのでしょうか?」
「全部は無理だ」
「全部は無理ねえ、まあ、当然ね。それこそ、カルフクラスが10人は必要か、それか、精霊軍の高等精霊師が一部隊でもくれば、勝てそうだけど、流石に私たちだけじゃあ、勝てないねえ」
明らかに、敵わない。
その事実を知り、シルフィアの表情が青くなっていく。
初の実戦討伐で、いきなりの、高難度。それこそ、下等精霊士の私では、戦力にすらならないかもしれないということを想像してしまい、より一層、シルフィアは真っ青となった。
「とにかく、住民の避難を最優先とする。おそらく、バクリャーンたちも同じ考えだろう。ここから、少し離れたとこに要塞都市フレーズがある。そこまで、逃げ切れば我らの勝利は確定だ」
「まあ、それが最前手かねえ~」
「はい、でも、一つ目が多すぎて、住民の元へ着けますかね?」
「我らは、後ろから一つ目に攻撃、注意を牽き進軍を止める働きをするべきだろう。我が先陣を切る。二人は援護射撃をよろしく頼むぞ」
「ええ」
「はい」
◇
――
一つ目VS精霊軍。
後に、伝説ともなる一戦が開始された。
――
◇
――そのとき、赤竜は大きな口を開き、唸り、笑っていた。
◇
高等魔法、・【木檻】・
それが、バクリャーンの得意魔法である。
町全体を覆うように、多数の木が地面から飛び出し、相手の動きを止め、また、檻で囲む。
まさに、絶対防御魔法。
「さすが、バクリャーンですね、まさか、一つ目の進撃を押しとどめるとは」
「ああ、流石に、防御専門を名乗るだけはあるぜ……住民は、要塞都市に向かっているし、俺たちはなんとか、時間稼ぎしねえと、なっ」
「ええ、よっと」
二人は、各々の武器を片手に、一つ目を切り倒し、押しつぶしながら、話を続けていく。
額には汗が浮かび、疲れていた。
ただ、二人とも、愉快に笑った。
「こんな、自分の力を試せる機械なんて、そうそう、ないしな、暴れようぜ!」
「ええ、私の本気の剣技を見せてあげましょう」
◇
その二人より、遥か後方。
地面に描かれた、円を用いた複雑な形の上にバクリャーンはいた。
補助魔法と呼ばれる、絵を用いて発動させる魔法道具の力を借りながら、一つ目の位置を確認しつつ、的確にぶつけていく。
それにより、己の魔力量は少なくはなるが、それでも、住民が逃げ延びるには十分すぎる量があるため、気楽そうに遠くを見つめた。
「……」
そこには、もう一言も喋れない彼だけが残り。
そのことに、バクリャーンは安堵した。
◇
「完全充電完了。ラクラァアアアアアアアアアアイィッッ!」
遥か天空。
そこには、黒く広い、雲空が広がっていた。
その真ん中。
そこから、一本の閃光が地面に向かって落下してくる。
それは、雷。
音よりも、高速であり、さらに絶大な破壊力を持つ全体攻撃魔法。
それが、カルフの十八番であった。
『ゲェエエルエエエエッ!』
あまりの、威力に、一つ目といえ、簡単に黒焦げとなり、その場に次々と倒れていく、それにより、少しではあるが、相手の進撃が止まっていく。
『ゲェエエエエエエエルルルルル!』
もう一発、ラクライ。
それにより、どんどんと、一つ目は死んでいく。
「やっぱり、カルフは頼りになるねえ。さすが、大将なだけはあるかねえ」
「これが、本気のカルフ様……わたしもいつか……」
「ふん! 我を怒らせるな!」
カルフの前身には雷が纏われ、それに触れる度、次々と一つ目は絶命していく。
その様子を二人は見ていた。
あまりの、絶対的な実力差を目にし、援護魔法さえ、必要としないカルフに恐れを抱き、尊敬をする。
それこそ、自分たちが必要ないのではないかと思い始めるほどの、強さであった。
「うん?」
そんな、カルフの先を塞ぐように、次々と来た一つ目たちも、学習したのか、カルフから、少し離れた。
そして、どこから持ってきたのか、大岩を二体、三体で持ち上げる。
そして、次々とカルフの方へと放り投げた。
だが、カルフに直撃する岩はなく、ほとんどが、一つ目の足元付近へと散らばっていく。その上に、大岩が積み重ねられ、高さは3Mにも迫ろうかとしていた。
それにより、カルフたちの視界を遮るかのように、岩の壁が広がった。
「こしゃくな、そんなもので、我を止められるとでも?」
ただ、それも、カルフの雷の前では、邪魔にもならず。ただの拳の一撃によって、大岩にはひびが入り割れていく。
そして、全てを割り、通れるようになった頃。
「おう、なんとも、まさか、そう来るとは」
そう言うカルフの前には、一際でかく、全身を錆びついた鎧が覆い、大型剣を片手に持った一つ目がいた。
碧眼の一つ目を持ち、鎧の隙間から見える肌は青黒く、そのため、死人を思わせる。
Level 6 碧眼の主。
多数の一つ目のボスであり、総合力では、赤竜に引けを取らぬ、まさに、最強種の一つ。
それが、カルフの正面に立っていた。
「ガハハアハッ! 久シイノウ! ジンゾクッ!」
「我は貴様を知らぬ」
「ハハアアッ! ソウカ、ナラ、覚エロ、儂コソガ最強ダト」
「貴様らの目的はなんだ? 物資の略奪か? 憂さ晴らしか?」
そう、普通に怪物と話すカルフに、シルフィアは感嘆し、アンナは、魔法の構築を開始した。
そんな二人の前で、カルフと碧眼は話しを続ける。
「違ウ、貴様ハ敵、仲間、殺シタ、ダカラ、ヤリ返エス、許サナイ」
「貴様らが我らの仲間に手を出したのだ。正当防衛であり、我らに過失は無い」
「カシツ? ワカラヌ。タダ、儂、復習スルノミ、ダカラ、死ネ」
「ふん、貴様こそ」
カルフと碧眼は、両者とも大剣に手を掛けた。そして、構える。
そして、一瞬時が止まったかのような、静寂が訪れた、次の瞬間。
「・【ラクライ! サンダーレイン】・」
カルフが誇る、最強魔法の二つが一斉に、碧眼へと襲いかかった。
だが、碧眼は、それを右手に持つ大剣で受け止め、そして、相殺する。
「ふむ、これほどの力をあしらうか……流石、level6であるな」
「人族ガ、調子ニ乗ルナ、儂ヲ殺セナイ、雑魚ガ」
「くらいなさい、・【霊界より来たれ、燐火の千矢】・」
と、シルフィアが碧眼へと魔法を放つ。
燐火の矢。
霊界より参る、灯を魔法に組み込むことで、通常よりも、攻撃性を高くする魔法だ。
その数、千。
まさに、絶大な全体攻撃魔法だ。
「おいおい、我にも来るのだが……ふん!」
「コレハ……薙ギ払ウ」
カルフは、矢より逃げる様に後ろへと飛ぶ、碧眼は大剣を構え振り下ろす。
「私もいるねえ、・【魔砲、千弾炎】・」
アンナも同時に、別の魔法を使う。
魔砲。
魔力を円形に蓄え一気に放出する単体専用魔法だ。
その威力は、火薬兵器にも匹敵、それ以上を誇る。それに加え、高等精霊師の魔法。
碧眼のまわりは、爆撃と化していく。
それは、あまりにも圧倒的過ぎて、カルフたちは、遠くより見つめた。
「ガッ……」
「やりましたかね?」
「そりゃあ、ダメージは負ったでしょうがねえ」
「ふん、流石の防御性能とでも言うべきか」
三人の全力魔法を前身に食らい、もはや、死に絶えていてもおかしくないはず。
だが、碧眼はその場に崩れることなく。
「ガッハァハハハッ! 久シイ、コノ力、懐カシイ」
余裕の表情で、昔を思いだしつつ、剣を持ちあげる。
そして、足に力を込め、剣を思い切り、縦に振りおろした。
「・【燐火の壁】・」
「・【魔法盾、炎鏡】・」
それにいち早く、シルフィアとアンナは対応する。
碧眼の一撃。
その威力について、二人は知らない。なのに、防御しなくては、と、思わせるほどの威圧感により、二人が誇る最強防御魔法を展開した。
「ガッガッガッ、ヤルノウ、シカシ、弱イ、弱イゾ、人族ノザコ兵タチヨ」
だが、斬撃は止まらない。
炎を斬るように、進み。
そして、二人の前へと迫った。
「・【サンダーウォーッル】・」
その目前、空より降り注ぐ、雷が両者の間に落ち、爆雷を轟かせた。
それにより、斬撃は消滅した。
「ウハッハハハアッ、ァア、ヤルノウ」
「くっ」
既にカルフの表情には余裕が無くなっていた。
そして、カルフは、唇を強く噛みしめ、己の弱さを憎んだ。
そんなカルフの困り果てた顔を見たシルフィアとアンナも、初めて見た大将の姿に動揺する。
それは、連携の脆さへとつながる。
「死ニイタレ、人族ノ、エイユウモドキ」
碧眼はもう一度大剣を構える。
悔しいことに、これが力の差であった。
それほどに、碧眼の強さは尋常であり、それこそが、level 6に君臨する理由だと三人は悟った。
だが、三人にはもう打つ手がなく、ただただ、その場に立ち尽くすしかなかった。
「カハッ、マタ、会オウ、ザコヘイ」
そして、碧眼の斬撃は三人へと襲いかかり。
その場で、はじけ飛び、爆風と化した。
それにより、辺りには、折れた木々が散乱し、それを確認した碧眼は己の部下たちの元へと向かっていく。
それが、ひん死状態のカルフが見た最後の光景であった。