〜物語の始まり〜
桜の花がつぼみから顔を覗かせている光景をみながら俺は車の後部座席に乗っていた。
「光くんもいよいよ高校生だね」と運転しながら母さんが俺に言う。
窓の向こうの光景を見ていた俺は一瞬、運転席を見たがすぐに窓の向こうに視線を移し、「中学校の時に父さんとの約束が果たせなかったからね」と言う。少しの間があって母さんが「そうね....」とつぶやき黙ってしまった。
車のエンジン音が車内に響くのを聞きながら俺は隣の席に視線を移した。
視線の先には赤色のレーンの陸上競技場を背景にしたユニフォーム姿の男が、銀色に輝くメダルを手に写った写真があった。
「いつ見てもやっぱり父さんって俺の顔に似てるよね」と俺が笑いながら言うと
「逆よ、光君がお父さんに似たのよ」と母さんが答えると「もうそろそろこの街から出るけど忘れ物とかしてないよね?」と聞いてきたので「今日何回も聞かれたけどないよ」と半分うんざり半分不安を持ちながら答えた。
桜の木が見えていた景色はいつの間にか田んぼが道の両方に広がる景色に変わっていた。
「忘れ物とかないならいいけど.....」と言うと母さんは「友達とかと別れの挨拶はしてきたの?」と言われた俺は「まぁ、学校の奴とかには打ち上げしてもらったし部活の奴らは大会で会うって約束したから」と答えながら俺は平田中学校陸上部と印刷されたユニフォームを鞄から取り出して眺めた。
引越し前の家から出発して車に乗ること2時間程たった頃、ようやく新しい家に着いたようだった。
どうやら俺は寝てたらしく、母さんに起こされるまでの記憶が全くなかった。
「なんか結構時間長かったね」と欠伸をしながら俺は言った。
「そうね、特に渋滞なかったし、ていうか坂川PA過ぎたあたりからこっちに行く車そんなに見かけなかったよ」と笑いながら母さんは言った。
白色の軽自動車から降りると助手席と後部座席の隣の席から荷物をおろした俺は駐車場から5分程のところにあるらしい一軒家に向かった。
しばらく母さんから新しい家について色々と聞かされているとどうやら着いたらしく「ちょっと車に忘れ物したから先に行ってて」と言われて鍵を渡された。白色の一軒家が並ぶ中にに違和感だけ残してオレンジ色の家が1つあった。どうやらあれが新しい家らしい。
玄関の前に立つと鍵をさして玄関を開けた。
開けると扉が左右に2つずつと奥に螺旋状の階段があるなんとも言えない違和感の溢れた部屋になっていた。
「何だこの家......?」と呟くと玄関ホールに服の入った鞄とすぐに必要になりそうな物が入った段ボールを置くと、ふと気付いたことが玄関ホールが広いことだ、玄関ホールだけで7畳ぐらいはありそうだった。荷物を置くと特にやることもないので部屋の探検をした。
右側の手前はトイレで奥は洗面所と洗濯機があり、もう一つドアがあったので覗くと風呂場になっていた。
左奥はキッチンと横に3席ずつ椅子がある長方形の机が置いてあったのでどうやらここがリビングとキッチンのようだ。最近発売されたテレビも置いてあり、家具等で特に困る事はなさそうだった。
玄関が開く音がしたので玄関ホールに戻ると母さんが「寝室とかは上の階だからね!あと、少し出かけた後にご飯作るから時間潰してて」と言うと先に自分の荷物を玄関に置いて出ていった。
残された俺は螺旋階段で2階に上がる。
上がると左右に1つずつ部屋と奥に大きな窓があるだけだった。左右対称だが部屋の作りは同じなので右の部屋を自分の部屋にすることにした。
8畳くらいの部屋に俺は自分の荷物を運び入れた。
ベッドも完備されており、多少驚いたがこれまでを思い出すと妙に納得できた。
鞄から横に長い電子置時計をベッドに備えられた小棚の上に置き、時間を確認した。
まだ12時を少し過ぎたぐらいだったので俺は近隣でも探索しようと思い、7分丈ほどのランニングパンツと背中に中学校の名前が施された長袖のランニングウェアを着ると玄関をでた。
次から本格的に話に導入させたいと思います。