聞き込み調査
さてゲス豚がロリコンだという弱みは握ったけれど、それだけでは阻止するのは難しい気がする。まだロリコンだろうという想像にすぎない。証拠がたりないのだ。使用人に聞き込みでもしてみようか。もしかしたら手を出されている可哀想な使用人がいるかもしれない。yesロリコンnoタッチだろうと思ってはいるがyesタッチになってしまった日だってあるかもしれない。身近な使用人達から聞いていこう。
まずは私の使用人から聞き込みをしよう。使用人を探そうとしたが、そんなことをするまでもなく私の部屋には基本的に常に2、3人は使用人がいるんだった。私は彼らの傍により聞き込みを開始する。
「ねぇあなた達は何歳頃このお屋敷にきたの」
「僕は6歳ですね」
「私もそれくらいです」
「別のどこかのお屋敷から連れてこられたの?」
「いや、僕はただの少し裕福な家の次男坊なだけでしたから、どちらかというと親の方から差し出したのではないかと思うんですよね」
「あら、そうだったの。詳しくことは分からないのですか」
「はい、ある日旦那様が領地の見回りに来た際に、僕のことを気に入られたとは聞いているのですが、あまりにもあっさりとこちらでお世話になることになりましたので、親の希望もあったのかなと思いますよ」
「へぇそうなの、じゃああなたはどうなの」
「私は他のお屋敷からですね。入ったばかりでよく分からないことだらけだったのに別のお屋敷に行くことになり、なにか悪いことでもしたのか不安になりましたね」
「2人ともお父様に変なことされなかった?」
「旦那様ですか……?そうですねぇ変といえば、最初の頃ご飯をやけに多い量くださいましたね。食べきれなかったものですから、普通の量に戻していただきましたがあれはなんだったのでしょう」
「そういえばそんなことありましたね。旦那様も当主を継いだばっかりで使用人に与える量がわからなかったのではないですかね」
「それ以外に変なことはされてない?」
「特にないとおもいます」
「ないですねぇ」
うーむ。やはり手はだしていないようだ。 この2人はお父様が当主になってすぐにこちらの屋敷に引き抜かれた人達だし、ゲス豚も若かったため手を出していなかっただけかもしれない。最近入ってきた使用人ならば手を出されてるかもしれない。そっちに聞き込みをしてみよう。
最近引き抜かれた者達ならばきっと厨房にいるはずだ。たいていの使用人はお皿洗いから始まるとダイスから聞いたことがある。だから厨房にいる使用人に聞き込みをすることにしよう。私は部屋を出て厨房に向かう。……場所が分からない。この間、屋敷の中を案内してもらうと言っておいて図書室に引きこもっていたのだから厨房の場所なんて分かるはずがなかった。部屋を出て迷っていると、アベルがちょうど通りかかったので厨房まで連れて行ってもらうことにする。
アベルに連れられて長いこと歩き、普段入ることがない厨房に足を踏み入れるとシェフや使用人がこちらに動揺した眼差しを向けてくる。あぁそうだよね、いきなり当主の娘がやってきたら何事かと思うよね普通。どう説明しようか悩んでいるとアベルがすぐに視線に気付きシェフに説明に行ってくれた。アベルに任せておけばなんとかなるだろう。さすが私の心を奪っていく使用人ナンバーワンに輝いただけある。まぁ今決めたんだけどね。
アベルが説明している間も私に視線が集まっていることには気付くが、気にせずにお皿洗いをしている子の傍に向かう。たぶんあの子が1番幼い。傍に近寄るとその子はそのことに気づき手を止め、私を見つめてきました。
「どうしたの」
「あなたに聞きたいことがあるの」
「なぁに」
すぐに聞いてしまいたいのはもちろんのことだが、なにごとだと回りから痛いほどの眼差しがちらほらと向けられていたので、その子の手を引きまずは目立たないところに移動する。そしてその子に向き直った。
「お父様になにか変なことをされていたりしない?」
「お父様って誰?」
「当主様のことよ。ここで1番偉い人」
「変なことってなぁに?」
「身体をまさぐられたりとかよ」
「そんなことはされてないよ。旦那様は早く丁寧な言葉づかいを覚えなさいって言われたくらいかな」
「他にはなにも言われてないの?」
「うーん。なにか失敗をしたときには、私のご機嫌をどうやったらとれるか考えなさいって言われた気がする」
無理やりいかがわしいことをするのではなく、自分から来るように誘導していただと!? 身体を差し出せば許してやるよ、ぐへへと言ったところだろう。ゲス豚め、意外と策士だったらしい。さすが常に首席なだけある。
ということはやはり何人か被害にあっているものも探せばいそうだ。とはいってもどこに聞き込みをすればいいのやら。いや待てよ? 手を出されていそうな者達にこころあたりがある。そこをあたってみることにしよう。でもどこにいるか分からない。そして顔もたいしておぼえていないという。
「ねぇアベル。劇団ができる時に私に除外された人達がいるじゃない?その人達に会いたいの。連れていってくれないかしら」
「うーん、それは難しいですね。実はほとんどの者はすでにクビになっているんですよ。他のお屋敷に雇い直されていると聞きました。一応探しては見ますが期待はされないほうがよろしいですよ」
なんということだ。ゲス豚は証拠は消すタイプの人らしい。策士め。それじゃいくら探しても見つかるわけがないじゃないか。詰んだ、証拠がたりない。
いったん証拠集めを諦め、自室に戻るとダイスと目があった。その瞬間に彼は大きなため息をつく。なんなんだ、3歳とはいえ私は彼のご主人という立場なのに失礼ではなかろうか。昨日からため息ばっかりつくんだから。 ここ最近ダイスの姿を見かけなかったから、久しぶりに会って喜んでいたらこれだ。
「昨日から溜め息ばっかり吐いてなんなの、言いたいことがあれば言えばいいじゃない」
「じゃあ言いますけども…マジュリス様はいったい何がしたいのです」
「なにって何よ」
ゲス豚の悪事の証拠集めをしていたことだろうか。それしか心当たりがない。私はこの家の未来を守ろうと頑張っているのだよダイスくん。
「はぁ…性転換なんてスキルを手にいれて何をしでかすつもりなんです?白状したほうがよろしいですよ」
「なんでそのことを。まさか私のこと監視してる?」
「そんなことするわけないでしょう。私はスキル表示のスキルを持っているから分かるんです。黙っていようかと思っていましたが、さすがに許容範囲外ですよ。時計だとか言語補助だとか魔導具作成ですとかそれくらいならば許しましょう。ですが性転換については、説明していただかないとちょっとねぇ」
まさにギラリと効果音がつくであろう眼差しをダイスは私に向けてきた。黙りこむなんて選択肢は選べるわけがない。蛇に睨まれたカエルとはこのことか。
「スキルじゃなくて魔法だわ。時計と言語補助はスキルだけど、魔導具作成と性転換は魔法よ」
「魔法とスキルの違いも分からないのですか。魔法は魔力を使いますがスキルは魔力を使わないのですよ。魔力を放出させようとして魔力切れをおこしたことなんてないでしょう。しかもスキルはなかなか覚えようと思って覚えられるものではないのに、次から次へとぽんぽん覚えられているし、何がおこっているんです。怒らないから白状なさい」
思わずひぃと声が漏れ出る、怖い。いつもは温厚で優しいダイスがものすごい顔をしている。まさに般若。
「時計はお腹すいたなー、何時かなと思っていたら出ていて、言語補助は何言ってるのかしらと思っていたら出てきたの」
「全然納得できませんが次」
「魔導具作成は魔法を使うためにはやはり魔力を放出させられなければ使えないかと思って練習を続けた結果よ」
「なるほど、それらについてはまあ一応はわかりました。1番意味の分からない性転換についてはなぜ習得しようと思ったのか理由をのべなさい」
「冒険者ギルドに登録したいなーと思いまして。でも私伯爵令嬢ですし、まずいんじゃないかなと思った結果、男だったらバレないだろうなって」
そう言った瞬間ダイスは私が見たなかで1番大きな溜め息をつく。つい身体が縮こまってしまうが、ここは退けない。
「なにか問題あるっていうの」
「問題!? あるに決まっているでしょう。そんな危険なことをさせるわけにはいきません。怪我でもしたらどうするのです」
「少しくらい怪我したって大丈夫よ、心配しすぎ」
「少しじゃすまされない怪我だってあるのですよ。死んでしまったら治すことはできないって分かっています?」
「分かってるわよ。でもどうしてもやりたいの。いいじゃない」
ダイスは再度溜め息をつくと残念な子を見る目でこちらを見つめてきた。
「分かりましたよ。ですが条件があります」
「ふふ、ありがとう。条件とは何?」
「1つ、ここの領地のギルドには登録しないこと。2つ、ギルドに入る前にできるだけ危険を減らしていただきたいですから、マジュリス様には少しは強くなっていただかなければ困りますので、稽古をつけさせていただきます。3つ目はマジュリス様に言う必要はないですから無いと思っていただいてよろしいですよ」
3つ目がなんなのか非常に気になるところだけれど、追求しないでおこう。というかできないダイスの目が怖い。条件といってもむしろ1つ目と2つ目はありがたい。元々本部でギルド登録するつもりだったし、強くなりたいし、良いことづくめだ。
「マジュリス様、覚悟なさってくださいね」
ああダイスの笑顔が恐ろしい。前言撤回かもしれない。ダイス怖い、嫌な予感しかない。