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お母様の闇

 聞いてみようか。そもそも教えてくれないんじゃないか、と私が思っただけであってまだそうとは決まっていない。


「ねぇお母様」

「どうしたのマジュリス?」

「お母様のお義母様ってどんな方?」


 そう聞くと、ほんの少しお母様は悩んだ後、話し出した。


「お義母様? すごく良い方よ。血の繋がっていない私を立派に育ててくれた人なんだから」

「特にどこらへんが……?」


 血が繋がっていなくとも育てるのは普通じゃないのか?



「マナーも何もなっていない私に貴族のマナーを教えてくれたわ。わざわざ私のために、ルクシィ様とは別の先生をつけてくれたの」

「ルクシィ様って?」

「私のお義姉様よ」

「お姉様なのに、ルクシィ様と呼んでいるの?」

「ええそうよ。卑しい私とは違う高貴な方だもの」


 い、卑しい……? なぜいきなりそんなことを? と少し考えた後に、もしかしてと1つの可能性にたどりつく。もし私の予想通りだとしたら、お父様の言う通り、お母様の義理の母と姉の方が父よりも問題のある人物だろう。私の予想が正しいのかどうかは、これからのお母様の返答による。


「お義母様やお義姉様に暴力をふるわれたことってあります?」

「ないわ」

「本当に? 叩かれたことや蹴られたこと、一度もないのですか?」


 そう聞くとほんのすこしばかりお母様の顔が曇った。


「……ある。でも暴力なんかじゃないの。私が何ひとつまともにできないどうしようもない女だから躾をされただけなのよ」


 そう言いお母様は痛々しく微笑んだ。そんな震えた声で、そんな顔をしてしまうほど酷い扱いをうけていたの……?


 何ひとつできないからという理由をわざわざつけて、叩いたり蹴ったりして躾という名目で暴力をふるっていたと。頭の中でそう整理すると、おもわず顔がひきつる。

 

 あまりにも酷い。狂ってるなぁ。ずっとそう言われ続けてきたんだろう。見てわかる通りお母様もその言葉に洗脳されているし。


 幼い頃からずっと言われ続けていたらそりゃあ洗脳されるか。他に逃げ場なんてのもつくるのは難しい。親というのは絶対的な位置にいるものだ。


「そのマナーを教えてくださる先生はどんな方だったの?」

「優しい方だったわ。最初に私は厳しいですわよ。と言っていたけれど。すごく良い方だった。私が最低限のマナーを覚えることができたのもその人のおかげよ。でも私の出来が悪いのをお義母様に見られてやめさせられてしまったわ。私のせいで……」


 そう言うとお母様はしょんぼりと下をむいた。ああもう、そのお義母様とかいうクズ本当最低だな。


 お母様をいたぶろうと厳しいと有名な先生をわざわざ雇ったが、お母様のマナーがただ上達するばかりでムカついて辞めさせたとか、そんなもんだろうきっと。その先生よりもずっとクズの方が厳しいに決まっているだろうし。厳しいというよりかはいたぶるだけれども。


 義理の娘に暴力ね。貴族だし、そんなの微塵も気づかせないようなしたたかさがあったんだろう。きっとお母様のお父様もそんなことがあったとは気づいていないに違いない。


「ご飯は毎食、食べさせてもらいました?」

「えぇ、もちろん。屋敷の誰よりも私が1番お食事をいただいていたわ」


 んー? これは予想外。虐待されてたとするとご飯を与えられない場合が多い……はず。


「他の方と同じ食事を?」

「えぇ。それとおやつにたくさんのパンをいただいたわ。お義母様があなたは醜い貧相な身体をして見苦しいのだから、せめて見られる身体になりなさいとくださったの」


 人形のような光のない瞳をこちらに向けてそうボソリと呟くお母様。お母様が太る原因もそのお義母様のせいってことね。なるほどね。本当厄介な女だな。なにがしたいんだよまったくさ。


 お父様もお母様も闇が深すぎるでしょ、なにこれ。そりゃ痩せられないわ。ただでさえ自分が醜いと思ってるのに痩せたらそれ以上に醜いと思わされてれば、そりゃあ痩せたくもない。リバウンドもしてしまうだろう。


 それにしてもなぜお義母様は、わざわざお母様を太らせようとしていた? 


 考えが行き着くところは、もしかしたらお母様もお父様と同様すごく美しい人なんじゃないか、ということ。全身にみっちりと付いているあの贅肉を落として、化粧も薄くすればとんでもない美女がでてくるんじゃ?


 期待しすぎだろうか? お父様が美形らしいからといってお母様もそうなのではと思うのは間違っているのかもしれない。でも期待せずにはいられない。


 だって2人から生まれた私はこんなにも美しい、可愛いともてはやされているし。実際可愛いし。その美人遺伝子をくれたのはお父様だけではないはずと思ってしまうのはしょうがない。


 それにそうじゃなきゃ納得できない。肉に包まれたこの姿よりも痩せている時の姿の方が醜いとか。どう考えたってデブスよりかは、ただのぶすの方がましでしょう。


 問題はどうやったらお母様の洗脳をとくことができるのかだ。難しい問題だなあ。長年醜い醜いと刷り込まれたものをどうやったら取っ払える?


 ……分からない。けれど黙っててもお母様がそれに気づく日は来ないだろう。なら私が思うまま伝えてみてもいいんじゃないか。


「ねぇお母様、お母様は自分のマナーについてどう思います?」

「私は最低限のマナーぐらいしかできないわよ。他の方々を見ているとそう思うもの」

「他の方々の所作の方が綺麗だと?」

「それはもちろんよ。私なんかとは比べ物にならないくらい」

「他の方に所作を褒められたことは?」

「あるけれど、大人には社交辞令ってものがあるのよ」

「子どもにはありませんよね」

「えぇまあそうね」

「じゃあ私の言うこと信じてくれます?」

「マジュリスの? 私の可愛い子の言うことならなんでも信じるわ」



 そう言って微笑むお母様はどこか美しかった。儚く笑うお母様よりこっちの笑顔のお母様の方がいい。


「私はお母様の所作が1番綺麗だと思いますわ」

「あら、ありがとうマジュリス」

「お母様……信じていないでしょう? もっと自己評価を高くもつべきです。お母様の所作はずば抜けて綺麗でした。きらきらしてたんです」

「……」

「お話だって上手でした。他の方々皆お母様に話を聞いて欲しがってました」

「そんなわけ……」

「そんなわけあるんです」


 そう言うとお母様はぽろぽろと涙を流し始めた。この展開は予想外。泣かせるようなことしてないんだけれど? 強く言い過ぎた?



「本当に本当にそう思う?」


 ぼろぼろに泣きじゃくり私に問いかけるこの人はまるで子どものようだった。私はうんうんと頷きお母様を抱きしめる。


「私っ私……何をしても出来ない子って言われていたわ。どんなに頑張っても、自分ではできたと思っても褒められたことがなかった」

「うんうん」

「私は醜いから、マナーだけでもできるようになろうって一生懸命頑張った。そしたら先生は褒めてくれたわ。すごくすごく嬉しくてお義母様にも見せた」


 そう楽しそうに話していたお母様の顔が唐突に歪む。


「そしたらやっぱりあなたはなんにも出来ないのねって。すごく冷たい目で見られたわ。先生もくびになってしまったし。それでやっぱり私は駄目な子なんだって思い知った」


 涙を拭いながら話続けるお母様の話を、うんうんと頷きながら聞く。


「でもあの先生が嘘をつくかなという疑問がずっと心のどこかにあったの。私が上手くできない時ははっきりと何度も注意してくれたもの」


 そう言うと、お母様はひと呼吸おいてまた話し出す。。


「でも褒められたことさえ私の作り出した幻想なんじゃないかって思うようになったの。だって私は何をしてもまともにできない子だから。ねぇ、マジュリス、先生の言葉は私の幻想なんかじゃないのかしら」


 そう私に問いかけるその目は不安でいっぱいだった。私は少しでもその不安がとれるようにとお母様の手をぎゅっと握り、目を見つめた。


「幻想なんかじゃないわ。お母様のことを認めた言葉よ」


 そう言うとお母様は更に涙をこぼした。私にありがとうありがとうと言い、しばらくすると泣くのに疲れ、満足そうに馬車の中で眠りについた。


 少しは洗脳がとれただろうか? DVとモラハラを受けていると洗脳されてしまうものなのだなぁ。私になんとかできるのかは不安だけれど、娘だからこそ聞いてもらえることや信じてもらえることだってあるだろう。それにかけるしかない。

 


 そんなことを考えていると、馬車が止まる。屋敷についたのだろう。従者の手をかり外に出る。


 ふぅ、と伸びをし屋敷に入ろうとすると、背後からぐぉっという声が聞こえ思わず振り返る。目に飛び込むのは腰をおさえる従者の姿と、いまだ気持ちよさげに眠るお母様の姿。


 無謀にも従者は1人で母を運ぼうとしたらしい。お姫様抱っこなるもので。無謀にもほどがある。従者の彼は特に力があるようにもお母様の重量に耐えられるようにも思えない。ご愁傷様。私はその場で手を合わせた。


 

 もちろん屋敷にも馬車についていた護衛にも力のある者達はいるので、その者達が涼しげな顔でお母様を屋敷まで運ぶ。なぜこの人達に任そうとは思わなかったのか従者よ……



 

 屋敷に戻り、テイラの淹れたお茶を飲みひと息。お茶会でたくさん飲んだけれど、それでも飲みたくなるテイラのお茶は最高だ。1番おいしい。


 お母様の家族問題については、今後も考えなくてはいけない部分がたくさんある。お義母様は私のお祖母様にあたるわけだが、お母様に対する数多くの暴力や暴言を考えると、敬意をもって接することは難しい。


 お母様を苛め抜いた者に敬意をはらえるわけがない。クソババアとでも呼んでみようか。いや……それで品位をおとしてしまうのはこっちだしやめておこう。心の中でとどめておく。それでもいつか会うときは何かしら言ってやりたいものだ。



「ねぇお母様はまだ起きないの?」

「いえ、もうすでに起きていますよ。ただ今は少しとりこんでいるようですね」

「なにかあったの?」


 そう問いかけると予想だにしない返答に度肝をぬかれる。テイラのその言葉を聞き、いてもたってもいられないと私はお母様の部屋まで急いだ。


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