お姫様との初対面
マチカとのりこんだその場所は今もわいわいと盛り上がっていた。
「あの子がお姫様」
マチカの視線の先を追うとそこには可愛らしい女の子と可愛らしい男の子達が何人か。きっと皆美人に成長するのだろう。あの中にマチカの想い人もいるのだろうか。マチカに聞こうとすると彼女は私の手を取りずんずんとその輪の中に近づいていく。そして1人の少年に話しかけた。
「ユリス。さっきお友達が出来たの。マジュリスよ」
私のことを想い人に紹介してくれたのか。でも突然のことすぎてユリスくんはポカンとしているし、周りの視線もちょっとばかしいたい。
ええ何この空気。どうすればいいかよく分からなかった私はとりあえずカーテシーをしておいた。すると皆新しいお茶会仲間を受け入れてくれたようでフレンドリーに話しかけてくれた。カーテシーなんて便利なんだろう。
注目が集まったことにより、例のお姫様もこちらに近づいてくる。隣に男の子を2人連れて。どちらかがマチカの話に出てきたバルティッサ家の子なのだろう。
お姫様はストロベリーブロンドのさらさらとした髪をなびかせながら歩いてくる。ちょっと我儘そうではあるもののそんなものが気にならない程度には可愛い。マチカの方が可愛いけれど。
隣を歩く男の子1は姫と同じような髪色をしている。所々似ている部分があるので、もしかしたら兄妹なのかもしれない。ということは王子か? ちなみに姫よりも可愛い。姫も充分可愛いのだが、姫の3倍くらいは可愛い。女の子かと思ってしまうが、服が男の子なので男なのは間違いない。
男の子2はなんていうかすごく優しそう。顔もかっこいいし、話しかけやすい雰囲気だ。お姫様は男の子2にひっついているのでこの子がバルティッサ家の子なのだろう。私の目の前にたったお姫様が口を開く。
「私リィラ。仲間に入れてあげるわ」
「リィラ! そんな言い方じゃだめだっていつも言ってるだろ」
やっぱり我儘そうな子と言うのは間違っていなさそうだ。でも子どもは我儘な方がそれらしくて可愛い。お兄ちゃんとしては心配なのだろうけど。ちなみに男の子2はニコニコとその様子を眺めている。お兄ちゃんはリィラちゃんを叱るとハッとした顔をし、こちらに話しかけた。
「僕はリベット・クウィニス。この国の第一王子だよ。よろしくね」
やっぱり王子だったらしい。どちらかというと姫のほうが似合うけれど。もう少し成長したら可愛いよりは格好良い男の子になるかもしれないが。王子の紹介が終わると続けざまに男の子2も紹介を始めた。
「僕はリベルツ・バルティッサ。よろしく。リィラとも仲良くしてくれると嬉しい」
リベルツくんはそういうと私に手を差し伸べた。握手かと思いその手を握ろうとすると突然手に衝撃が走る。……痛い。私の手に衝撃を与えたのはリィラちゃんだ。なかなかに嫉妬深いらしい。
「あっこら、リィラ! ごめんなさいは?」
リベルツくんがリィラちゃんに注意を促すが謝る気配はない。でそれをリベルツくんが許す気配もない。
「悪いことしたらちゃんと謝らないとダメなんだよリィラ。叩かれたら痛いでしょ? リィラがされたら嫌でしょ? 謝りなさい」
「ごめんなさい」
ほんの少し申し訳なさそうに、でもやっぱり納得がいっていない様子で彼女は私に謝罪をした。リベルツくんは彼女の表情が見えていないからか満足そうだ。見えていたらまたリィラ! と言っていただろうなぁ。
「じゃあ珍しくリィラと仲良くしてくれそうな女の子の友達もできたことだし、僕とリベットは行くね。ではマジュリスさんリィラをよろしく」
彼はそういうと城の中へリベットくんと歩いて行った。リィラちゃんが必死に引き止めようとしているが、彼は笑顔でそれを拒否している。しぶしぶと私の方へ戻ってきた彼女はギッと私を睨む。
「リベルツが行っちゃったじゃない。仲良くするつもりなんてないから。リベルツは私の」
そう言うとプイッと顔を背けて彼女は大きな足音を立て、城の中へ消えていった。敵と認識されてしまったらしい。それを私の隣で見ていたマチカが怒りでぷるぷると震えている。
「なにあれ、むかつくー! ああいうのを裏表のある女っていうのね。やっぱり私が1回ガツンと言う!」
マチカはそう言いリィラの後を追おうとしていたが、私はマチカの腕をガシッと掴む。足を止めた彼女は不満げに私を見た。
「なに? あんなこと言われて悔しくないの?」
「いいの。ああいうこと言ったりしたりしてると私達以外にも不満に思う人が出てくるにきまってるわ。きっとその人達が言うわよ」
「でも……」
「自分から敵を作らないほうがいいと思うわよ? もし言うならガツンじゃなくさりげなく言うとか、相手はお姫様なわけだし」
「分かったわよ」
といいつつもやっぱりマチカは不満げだ。しょうがないよなぁ。身分とかそういうのをしっかり理解できる4歳児のほうが珍しいわけだし。
でも今はまだ子どもだから言うこともやることもまだ可愛いけれど、これがもう少し成長したらめんどくさいなぁ。ドロドロとした女の戦い! なんて耐えられないよ私には。
とは言っても私もムカついていないわけではない。正直この年の子に嫉妬で手を叩かれたりするとは思わなかった。いや……子どもだからするのか? ぬくぬくと他の子と関わらずにお家でこの年まで過ごしてた私には分からない。でも分からないままじゃだめだよなぁ。このままじゃコミュ障まっしぐら間違いなし。
幸いマチカという可愛いお友達もできたことだし少しずつ他の子と関わっていけばいいよね、きっと。
「ねぇマチカ。王子様とお姫様ってあと何人くらいいるの?」
「んー王妃さまが2人いて1人目の王妃様の子がリベット様とフルーテ様あともう1人最近生まれたらしいわ。2人目の王妃様の子がリィラ様とルジェノ様この2人は双子ってお母様が言ってたわ」
「へぇ、リベット様とリィラ様のお母様は違う人なのね。じゃあ2人の年の差って?」
「2人とも同じよ。誕生日が3ヶ月くらい違うらしいわ」
なるほど。それは第二王妃様悔しいだろうなぁ。よっぽどのことがない限り王位を継ぐのは第一王子だし。3ヶ月の差は悔しいはずだ。ルジェノ様かー、双子ってことはリィラちゃんに似てるのか。性格も似てたらちょっと嫌だな……。
「双子ってことは似てるの?」
「見たことあるけどたいして似てなかったわよ?髪の色も違ったしリィラ様は国王様似でルジェノ様は王妃様似って感じ」
じゃあ二卵性なのかな。性格も似てないといいんだけど。まぁ王族の人と関わる機会なんてそうあるわけないんだし、どっちでも問題ないか。
「ってことは皆何歳?」
「4歳」
「……マチカは何歳?」
「4歳。マジュリスは?」
「4歳」
みんな同じ年ってことは嫌でも関わるんじゃ……。大分先の話だけれど主に学園などで。いやでも関わる機会なんてその時ぐらいだろうし、それに学園といえども王族の人達と関わる機会なんてのもそうある話じゃないだろう。きっきにしない方向でいこう!
「マジュリスー! そろそろお開きだから帰りましょう。あら? お友達ができたのね」
「そうなの。マチカっていうのよ」
「ごきげんよう。この子と仲良くしてくれて嬉しいわ。これからも仲良くしてやってくださいね」
「はい、もちろんです。私の方こそこんなに可愛い子とお友達になれて嬉しいですから」
そう言って微笑むマチカの方が確実に可愛い……。と思ったのでそう言ったら彼女は頬を染めて否定していました。可愛ええのー。
帰りの馬車の中、疲れたためか眠くなりあくびをひとつ。その様子を見ていたお母様にはしたないわよ、なんて注意される。
「だってお母様、眠いんですもの」
「だからといってそんな大きく口をあけていいものではありませんよ。扇子で隠すとかあるでしょう」
「そんなもの持ってませんわ」
そう私が言うと、お母様が目の前に扇子をひらり。どうやら私にくれるらしい。お父様と違ってお母様の趣味は良い。ただ赤ワイン色のファーのついた扇子はどう考えたって4歳児には似合わない。似合うのは色気のある妖艶な女の人だと思う。扇子を開いてみると蝶々の刺繍がキラリとひかる。目立たないところにある可愛らしさ。こういうの好きだ。ただ私がこの扇子をもつに相応しい容姿に成長できるかはかなり怪しいけれど。
「お友達ができてよかったわね」
「ええ、本当に」
「あなたにお友達ができると私も他の方々と話すきっかけができて嬉しいわ。ディズリー侯爵夫人とは以前からお話したいと思っていたのだけれど、なかなかきっかけがなかったのよねぇ。綺麗な方に話しかけるのは勇気がいるものね」
「へぇマチカのお母様も綺麗な方なのね」
「本当に綺麗な方よ。私なんかが話しかけるのおこがましいくらい……でもそんなこと言ってられないわよね。せっかく私なんかが伯爵家に嫁がせていただいたんだもの。社交ぐらいはできなきゃだめね」
そう言い笑うお母様はどこか儚げであった。図体はまったくもって儚くないけれど、むしろどすこいだけれども。
お母様は私なんかという言葉が口癖だ。とにかく自分に自信がない。自分に自信がないためかなのかそれを隠すためか豪華なドレスやアクセサリーで自分を着飾る。
確かにお母様はお父様と同様に、体型はとんでもない。ぽっちゃりなんかではすまされない。けれど体型や化粧の濃さ以外は本当にすごいと言うのを私は今日知った。
今日のお茶会でさりげなくお母様の様子を伺っていると、まず高貴な人々しかいないあの場でも所作がずば抜けて綺麗だった。普段気にしたことが無かったが沢山の人々が集まっているとそれが分かる。他の人々も貴族なのだから綺麗な所作なのだがお母様はそれを超えていた。挨拶の仕方、話し方、笑い方、ティーカップを手に取る様子すべてにおいてきらきらと輝いていた。
それに加えお母様は社交ぐらいはと、言っていたが社交もこれ以上上手になるつもりなのかと思ってしまうほど。貴族のご婦人達は喋りたがりだ。貴族のご婦人に限らないかもしれないけれど。そのご婦人達の話を聞くのが上手なのだ。お母様は気づいていたか分からないけれどお母様とお話をしていた方々は他にも沢山人がいたにも関わらず、お母様の目を見て話していた。なんていうかお母様に話を聞いてもらうのを順番待ちしているような……そんな様子だった。
貴族としてお母様はお手本のようだった。もっとお母様は自分に自信を持てばいいのに……なにが原因でこんなにも自信がないのだろうか。




