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初めてのお茶会

 信用しているからとは言ったけれど、やはりダイス達が行った時と同じぐらい心配してしまった。だがアベル達も1週間ほどで屋敷に戻り、同じように次の日にはいつもの仕事にとりかかっていた。本当に皆ハイスペックだなぁと感心してしまう。


 アベル達が戻ってきてからは特に何事もなく毎日が平和に過ぎさった。私は気がつけば4歳になり、魔法も少しずつ上達し、成長が実感できる今日この頃。


 グーと身体を伸ばし、なんとなしに窓を見上げる。今日もいい天気だ。雲ひとつない青空を見つめているとなんだか少し外を出歩きたい気分になってくる。


 一度そんな気分になってしまってはもうじっとなんてしていられない。ちょっと庭をお散歩しよう。


 ちょっと外に出るだけだしと思いささっと準備を終わらせ、玄関に歩き出す。すると、そこにはまるで私を待ち構えていたかのようにお母様が優雅に満面の笑みで佇んでいる姿が見えた。あれ……なんだか嫌な予感?


「お母様少しばかり横にずれていただけませんか?」

「いーや」

「何を企んでいらっしゃるんですか?」

「企むだなんてそんなことするわけないじゃないの。マジュリスもそろそろ同年代の子と触れ合う機会があってもいいんじゃないかしらとおもっただけよ。これからお茶会に行きましょうね」


 思わずゴクリと唾をのむ。確かに同年代のお友達は欲しい。欲しいが……きっと将来のお婿さん探しだとかもっと爵位が上の人に媚びるだとかそういうことをしなければいけない。そう思うと胃がキリキリと痛む。


 いや待てよ。私は転生したからこそ子どもらしくない子どもとして色々考えてしまっているが普通は違う。だからもっと気楽に考えても良いのかも。


「お母様。他の皆さんってどんな感じ?」

「他の? 貴方が1番可愛いわよ」

「そうじゃなくて、言葉遣いとか」

「伯爵家以上が集まったお茶会なんだから4歳にもなればみんなしっかり話せてるに決まっているじゃない。貴族らしい喋り方ができるかはちょっと分からないけれど……マジュリスならきちんとしてるし問題ないわ心配しなくたって大丈夫よ」


 しっかり話せてるということは、考えもそれなりに持っているということで貴族らしい謎のやりとりをしなくてはいけないのでは……? お母様全然大丈夫じゃないよそれは。しかも伯爵家以上ということは会う人々ほとんどが目上の人ということ。まだ心の準備が整わないのお母様。あと3年くらいまって!


 そんな私の心の制止をよそに私は使用人達の手により、どこまで可愛くすれば気が済むのというぐらい着飾られ、お出かけスタイルへと変身したのだった。


 お母様と共に馬車に乗りこみ、しばらく風景を楽しむ。この世界の馬車には魔道具が使われているため、酔ったりなんてことは滅多にしない。自動車よりも揺れないんじゃないだろうか。しかもスピードも結構出るため非常に便利な物のようだ。


「ねぇお母様。いったいどこまで行くの?」

「言っていなかったかしら? 王宮でお茶会が開かれるのよ」


 思わずポカンと口を開けてしまう。王宮でお茶会……? つまり王妃様とかいるってこと? 王妃様って滅多に会うことのできない人ってわけでもないのか。


 確かにこの国は平和ですけれどもなんて考えているとピタリと馬車が止まる。思っていた以上に私が住んでいるお屋敷と王宮は近いみたいだ。誰だよ私に馬車で1時間ほどかかると教えた奴は。ダイス達と王都に行った時転移魔法をつかって行ったけど、そんなもの必要ないぐらい王都は近いみたいだ。


 馬車から降り、目の前のお城を見上げるとあまりの大きさと厳かな様子に圧倒されてしまう。こんなところに入ったら迷子確実。あまりうろちょろしないようにしよう。


 門を通るときに少しばかりドキドキしてしまったが、門番に止められるなんてことはもちろんなかった。お城の中へ入ると、40代ほどの執事さんがにこやかに挨拶をしてくださった。どうやらお茶会をするところまで案内してくれるみたいだ。


 執事の後をお母様と一緒に着いていく。城の中は高そうで‘‘趣味の良い’’絵や置物が飾られていた。羨ましい限りだ。


 お茶会が開催される場所に着くとそこにはすでに何人か集まっていた。私くらいの年の子もけっこういるように見受けられる。私はお母様に手を引かれ談笑している方々の輪の中へ入っていく。


 お母様が皆様にご挨拶を終え、私の紹介にはいる。お母様に恥をかかせないようしっかり挨拶しなければ。


 お母様が娘のマジュリスですわと紹介する言葉を聞いてから、私は左足を後ろにさげ、膝を曲げ両手でドレスの裾を掴み軽く持ち上げ礼をする。この行為をカーテシーと言うらしい。そして少しばかり控えめな笑顔を浮かべる。


 私の挨拶は問題なかったようで、お母様は満足そう。周りからも褒め言葉を頂いているし、ひとまずは安心だ。


 お母様はしばらくこの方々とお話をするようで、私に他の子とお話しなさいと言い彼女はその輪の中へおさまった。


 他の子とお話しなさいと言っても……チラリと子ども達が集まっている所を見るが、すでにわいわいと盛り上がっていてなかなか入れる空気ではない。


 屋敷にいると私が何かしなくても皆話しかけてくれるものだから、自分から仲良くしようと行動をおこしたりなんてしてこなかった。前世の私がどんな人物だったのかなんて分からないが、今の私はあの中に入る勇気などない。あれ、コミュ障の兆しかこれ……。


 いやいやそんなわけがないと私は1人でも問題なく楽しめる所。つまりデザートがある場所へと足をすすめた。


 可愛らしい焼き菓子やケーキ。きらきらと輝くそれらは宝石箱のよう。屋敷ではお父様やお母様があまり甘い物が好きではないようで甘いものというのは滅多に出なかった。そのせいもありそれらはもの凄く魅力的に見える。


 どれを食べよう。悩んだ末に手に取ったのは、ブルーベリータルトのようなものだ。色は紫色ではなくオレンジ色だが。ガブリとそれに齧り付くと口に衝撃が走る。実が口の中で弾けるのだ。パチパチと口のなかで暴れるそれは地味に痛い。味とか分からない。


 そんな私を見ていたのだろう。周りからクスリという笑い声が聞こえた。まずい、こんな恥ずかしい所を見られるのは貴族令嬢として恥ずかしい。笑い声の主を探すとその人物は私と同じぐらいの年の女の子だった。


「あなた大丈夫?」

「大丈夫じゃないわ」


 口元は笑っているものの大丈夫? と心配してくれる所を見る限り悪い子ではないだろう。ちょっとばかり人相は悪いが。その子をまじまじと観察してみる。髪の色はまさに異世界といったようなピンク色。それなのに不自然じゃないのだからすごいなぁ。


 顔は可愛い。可愛いがなんというか悪役顔? 気が強そうな顔をしている。つり目の下には泣きぼくろがあり、将来はきっと美人になるだろうなぁと予想。


「もしかしてべリーラの実初めて食べた?」

「べリーラ?」

「そう。パチパチと口の中で弾けるのが特徴の実よ」

「これそうだったのね、びっくりした。まだ口の中痛い」

「私も初めて食べた時びっくりしたわ。慣れれば美味しく感じるわよ」

「衝撃的すぎてもう一度食べる勇気がないわ」


「ふふ。確かにそうね。そういえば貴方名前なんて言うの? ちなみに私はマチカ・ディズリーよ。よろしく」

「私はマジュリス・ランラルークよ。よろしく」

「じゃあ、マジュリスって呼ぶわね、あなたもマチカで良いわよ」

「本当? じゃあマチカって呼ぶ。マチカの家って伯爵家?」

「私の家は侯爵家よ。なんでそんなこと聞くの?」

「いや身分が上の人を呼び捨てで呼ぶのってどうなのかなって。本当にマチカでいいの?」

「あぁそんなこと。なんか難しくてよく分からないけど別に良いじゃないそれくらい。確かに周りの子はマチカ様ってよぶけれどそんなもの気にならないわ」


 見た目と反してなかなかに彼女はさっぱりとした性格のようだ。いやまだ子どもだから分かっていないだけのような気もするが。


「そういえば、なんでマチカはあの中にいなかったの」


 と私は子どもたちが集まっている所をちらりと見る。あそこにいないのは私とマチカぐらいのものだ。


「さっきまではあそこにいたのだけれど、なんかこう気分が悪くて」

「そうなの? 大丈夫?」

「えぇ今はなんともないのだけれど、仲の良い子が他の子と仲良くしているのをみたらなんだかこうもやっと」

「それって男の子?」

「えぇそうよ」


 マセガキだ。この世界の子は自覚なしにもう好きな子がいてしかも嫉妬しているのか。成長早いなぁ。


「思い出したらまた気分が悪くなってきたわ。ガツンと言ってしまおうかしら」

「ちなみにそのムカついた子はどんな子なの?」

「お姫様よ。いつもはバルティッサ家の子にベタベタしてるくせに、その子がちょっといなくなったすきにユリスにベタベタするのよ」

「えっお姫様なの? それじゃガツンと言うのはやめといたほうがいいよ」


 そう言うと彼女は不満そうな顔を見せる。でも王家の者にガツンと言うのは絶対にやめといた方がいい。それに話を聞く限りお姫様は愛され上手な気がするし、そんなことを言って株が下がるのはマチカだけだろう。


「マチカ絶対だめ。もう、絶対!」

「分かったわよ。でも2人の様子が気になるからちょっと見てくる。マジュリスも行く?」

「うん、行く」


 マチカの好きな子も気になるし、お姫様も見てみたい。1人じゃ入りづらいあの空間もマチカと一緒ならば入りやすい。そんなことを思い私達は子どもたちがわいわいと盛り上がっているその空間へと足を踏み入れた。


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