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ダイスの誓い

 マジュリス・ランラルークと言う人は不思議な人だ。この方がお生まれになってからこのお屋敷は随分と明るくなった。旦那様と奥様は仲が悪いというわけではないが、夫婦らしさというものが感じられない夫婦だった。いわゆる政略結婚というわけでもないのにだ。旦那様が惚れたことによる結婚ではあったが旦那様も奥様に対してどこかよそよそしい。そんな2人はマジュリス様がお生まれになったことにより随分と会話が増えた。


 とても可愛いらしい子だね。と旦那様と奥様の話にはよく出てきますが、確かにその通りで誰が見ても可愛らしい、美しいというような評価をするだろう子が私がお仕えしている方なのだ。金色の指通りの良さそうなさらさらとした髪に、奥様と同じ緑色の優しげな印象を与える瞳、指で摘んだような柔らかく小柄な鼻、淡いピンク色の可愛らしい唇、透きとおるような白い肌。どの部分を見ても可愛らしいのだから人生というものは不公平だと言う人がいるのも納得できる。


 そんな彼女はつい最近まで自分の美しさを知らないでいた。旦那様と奥様の顔を見てよくため息をついていた彼女は鏡を見ながら可愛く見えるけれどそんなはずはないのよね。とぶつぶつとよく独り言を言っていた。私がその見た目の良さは旦那様のおかげなのだと言ってからはそんなことはなくなったが……いまいちその美しさを理解できているかはあやしい。


 見た目は花から生まれましたと言っても通用してしまいそうな彼女だが、中身はとんでもなく好奇心旺盛な人だ。


 まず私がマジュリス様に興味を抱いたのは時計というスキルをいつの間にか習得していたことことから始まる。喋ることもできない赤ん坊がスキルを会得するなど考えてもみないことだった。なぜだろうと考えているうちに、あろうことかマジュリス様は2個目のスキルなんてものを習得してしまっていた。正直とても動揺した。いくら旦那様が魔力を与えているとはいっても普通のことではない。確かに旦那様は私が思っていたよりもずっと強い方だというのは私も強くなったことにより分かったのだけれど、それにしても成長が早すぎるし、スキルはそんなに簡単に手に入るものでもない。


 そのことに驚いていると今度はスラスラと言葉を話し出す。その上初めて話した言葉が「奴隷」だなんて旦那様にはとてもじゃないけどお伝えすることはできない。この時私は、この美しいお嬢様は危険だと、使用人を吐き捨てるように雑に使うよくいる貴族のようになってしまうのではないかと内心ハラハラした。もちろん彼女がそんなことをするはずはないのでそんな思いは杞憂に終わりったが。


 そして彼女が手に入れた3つ目のスキル。魔導具作成については習得したことを知った際に驚くより先になるほどと思った。彼女の異常性に毒されてしまったというのもあるが、マジュリス様が赤ん坊の頃から手を見つめて唸っていたのはこのためかと、彼女の謎の行動の意味が紐解けたことが大きい。もちろん驚きはあったけれど、この頃には私もまぁマジュリス様ならば納得できるなんて思ってしまったのでその毒され方はそうとうだ。


 そしてマジュリス様の突飛な行動にも動じなくなってきた頃、そのスキルは突然表れた。性転換。正直はぁ? だ。私が今まで生きてきた中でこんなスキルを持っている人なんて見かけたことなんてない。存在自体は知っている。この屋敷の図書室にある本に載っているのをこの目で確認したからだ。


 このお屋敷にある3冊の本は、基本的に求めても手に入らない貴重なものだ。なぜそんなものがあるかといえば、旦那様が魔法学校在学時に、1年首席を守り続けたことへの褒美品なのだそう。学校が出来ることならばなんでも、といった褒美に旦那様は本を選んだ。この本は学園と王宮と神殿にしかないものだったそうだけれど、学園のなんでもという褒美に求めるものとしては慎ましやかなものであったために簡単に許可がおりたそうだ。


 そして『諦めるものだ』この本は誰が書いたのかも分からず、内容としては明らかに無理なことばかり書かれていたため、神になるための方法なのではなんていう意見が出たために一般には出回らないようになった物だ。おとぎ話のようなものだという意見もあったらしいのですが念のためということで今のような形で保管されている。


 とはいえ、その本に載っていたことなど私は信じていなかった。目は通したものの明らかに無理なことばかり書かれているのだから、おとぎ話だとばかりたかをくくっていた。それをマジュリス様がぶち壊したのだ。そのスキルを見た時、目を通したあの本を今度はゆっくり目を通してしまったことは勿論だ。



 マジュリス様に聞いてしまおうかと思う時もあった。あんな意味の分からない習得条件をなぜあなたはクリアしているのかと。だが……マジュリス様は3歳児なのだ。3歳児に性的快楽なんて聞く使用人なんてただの変態でしかない。いくら彼女が3歳児とは思えない言動をしているとはいえ、さすがにそんなこと聞けない。彼女に変態のレッテルを貼られるのは嫌だ。


 大きな理由はこれだが、他にも聞こうと思えない理由がある。彼女が3歳児としてはありえない能力をもっているのは周知の事実だが、それは能力だけの話ではない。たまにする遠い目……過去を懐かしんでいるようなそんな目で、あからさまに悲しそうな顔をする。あの目はまるで長年連れ添った家族を思うような、そしてそれを亡くしたようなそんな表情だ。そんな顔をする3歳児の子どもにそんなことを聞く勇気など私にはない。



 私にできるのは、使用人として続けられる限りマジュリス様を見守ること、そして危ないことから守ること。ガミガミと言ってしまうこともあるが、望んでいないのに詮索することは使用人としてあるまじきことだと思う。


 とは言ってもマジュリス様が望んでいないことでも、時と場合を考えればやらねばならない時がある。例をあげるとするならば、お嬢様がギルドに登録したいなんて言い出した時は止めなければならないのだ、普通の状態であれば。


 だが、彼女はダメと言われるのを見越したかのようにギルド登録をするために性転換なんてスキルを習得してしまった。そりゃ伯爵家の娘であるマジュリス様が素の状態でギルド登録なんてした時には大変なことになる。マジュリス様を誘拐しようとする奴なんて山ほど出るだろうし、媚びへつらう者達もたくさん出てくる。がマジュリス様と分からない姿、それに加え男だとしたら危険はだいぶ少なくなる。それならばと折れてしまうのはしょうがないではないだろうか。



 とは言ってもやはり使用人として、万が一があった時に助けられなかったなんていうのはあるまじき事態。そんなことが起こらないようマジュリス様がクエストを行う際は必ず誰かしら付けようと心の中で決める。もちろんマジュリス様は嫌がり反対するだろうから、3つ目の条件はマジュリス様には言わないでおこうと思うのはもちろんの事である。


 可愛らしく、好奇心旺盛で何を考えているのかなんて顔をみればすぐにわかってしまうくらい分かりやすい、それでいて不思議なこの女の子をマジュリス・ランラルークという人を、私ダイスは生涯をかけお仕えし守りたいと思う。このお方について行けば退屈なんてものきっとしない。いや、退屈したとしてもいいのだ。私は彼女の人間性に惹かれ、これからもずっと傍でお仕えしたいと感じたのだから。彼女の自慢の使用人として評価を落とさぬようこれからも頑張らねば。あの小さな主人のため私はこれからも生きていこうと心の中で誓う。


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