3歳児に丁寧に謝られると困る
ダイスは部屋にいるだろうと部屋に戻ってみたが残念ながら彼の姿は見当たらない。彼がいる場所を虱潰しに探していくしかないか。といっても私は図書室と食堂室と厨房、鍛錬所の場所くらいしか迷わずにいけないのだけど。ダイスがこの中でいそうなのは……鍛錬所かな。いるといいんだけどと私は鍛錬所の扉を開く。
中に入ると広い鍛錬所で劇団メンバーがちらほらと鍛錬しているのが見える。見えない動きを繰り出している者が何人かいるが私の使用人だし……と気にしない方向でいく。その中で動きが激しすぎて風が発生している場所があった。その場所を見るとそこにいるのはダイスだ。私は彼が作り上げた風圧がおさまるのを感じると彼の傍にかけよった。話しかけようとすると私よりも先にダイスが口を開く。一人でこんなところに来るなんて危ないでしょう、とさっそく怒られる。別に来るぐらいいいじゃないか。彼はそんな私を呆れ顔で見ると、でなんの用ですか、と聞いた。そのため私は用件を話した。
「奥様について何か知っていることはないか……ですか?マジュリス様また何かしでかそうとしています?」
「別になにもしないわ。ただお母様のことが知りたいだけよ」
「そうですねぇ……ご両親が遠くの方で領主様をしているのはお話しましたよね。あれは正確には義理のご両親です。奥様のお母様はずっと前にお亡くなりになっております。あっお父様とは血が繋がっていますけどね。お母様がお亡くなりになった後も義理の母が優しくしてくれたとおっしゃっておりましたよ。お父様はあまり優しくなかったそうですが」
「優しくなかったってたとえば?」
「奥様に興味を示さなかったそうですよ。それどころか本当に自分の子……どころか奥様のお母様の子かというのも疑っていたそうで」
「ひどい話ね。義理のお母様が優しい方でよかったわね」
お母様が痩せようとしない理由にそのお父様が関係しているのかもしれない。この国では多夫多妻が認められている。だからそれに対するフォローがなくてはならないんじゃないかと私は思う。子どもをつくったからには、認めないだなんてことをせず、平等に愛をそそぐべきだ。やることやっといて俺の子じゃないんじゃなーい?は酷い。というか自分の嫁の子かさえ疑うって頭おかしいんじゃないか。ああもうイライラする。ストレス発散としてダイスに稽古をつけてもらおう。今日はまだ稽古をつけてもらっていないのでちょうどいい。ダイスにそれを言うと承諾したため、いったん私は部屋に戻り動きやすい格好に着替えてから鍛錬所に戻る。
「ファイアアロー」
「ファイアアロー」
鍛錬が始まりダイスが言うには私は魔力の流れをよく分かっていて魔法の上達が早いらしいので、言葉で色々説明しながら教えるよりも、まずはやらせてみる方が合っているらしい。基本的にはダイスが放った魔法を見よう見まねで真似して、同じ魔法を放つというような練習方法をとっている。
「炎の形も矢の早さも申し分なしですね。マジュリス様は本当に飲みこみが早い。教える側としても誇らしいかぎりです」
「お父様が魔力をそそいでくれたおかげね!」
「ええ、それはそうなんですが……なんと言いますか申し訳ございません」
ダイスがすごく申し訳なさそうな顔をしながら私に頭をさげてくる。私は伯爵令嬢でダイスはその使用人なのだからなにもおかしくはない状況ではあるのだけれど……3歳児にこんなに丁寧に頭を下げるのはやはり違和感を感じてしまう。最近ダイスに怒られてばっかりなのもあいまってそう思う。
「あの時はマジュリス様があまりにも旦那様のことを嫌っていましたのですべて旦那様のおかげというニュアンスになってしまいましたが、マジュリス様の努力も大変素晴らしいものです。マジュリス様の努力が無ければ今こんなにもスムーズに魔法は発動していません。あの時の従者としてあるまじき発言どうかお許しください」
「許すもなにもそんなことすっかり忘れていたわ。あの時は私も少し調子に乗っていたから、ちょうどよかったのよ。ダイスが気にすることではないわ。むしろあれぐらいでちょうどいいの。変に意識しないであなたらしい正直な言葉を私には話してくれればいいわ」
「マジュリス様……ありがとうございます」
この屋敷では年がいっている方とはいえ、ダイスは一般的にとても若いのだ。前世を考えると20歳前後なんて遊びざかりだし、やっと上に対しての態度や言葉遣いを社会に揉まれながら覚えはじめるといった印象だ。だからダイスだってもっとはっちゃけていたとしてもいい。それなとかウェーイとか言い出したって問題ない年なのだ。まぁちょっとそんな事言い出す彼は嫌だけど。子どもに対して言いすぎてしまったくらいたいした問題ではない。それを私が気にするはずもない。
「マジュリス様はお優しい方ですね」
「優しくなんてないわ、普通よ」
私がそう言うとダイスはクスリと笑い、マジュリス様らしいですねと言う。正直どこらへんに私らしさがあったのか分からないけれど、そんなことはまぁいい。それよりも稽古の続きをしなくては。お父様が過去を乗り越えようと頑張っているのだから私も頑張らなければならない。さぁダイス、私に早く続きを教えて。
「なんでもそつなくこなしてしまいますよねぇ。私も強い方ではありますが、まだこの年でこんなにも魔力の扱いが上手ですとその才能が恐ろしく感じてしまいますよ」
「だって私は強くならないといけないもの。そうじゃなきゃギルド登録だって許してくれないのでしょう?」
「それはもちろん」
「だからだらけてなんていられないのよ。それに今が才能の塊だって将来的にどうなるかなんて分からないじゃない。才能に胡座をかいてると、後悔することになりそうで嫌。だから今できることは今するに限るわ」
「それは素晴らしいお考えですね」
「でしょう?こんなこと考えられる3歳児なんてきっと私くらいよ」
「そう言えば3歳でしたね……お嬢様と話してるとどうもそんな年の子と話してる気にはなれないんですよね」
そりゃそうよだって私貴方と同じくらいの精神年齢なんだから。という言葉をぐっと飲みこむ。いけないいけないトチ狂ったことを話し出したと、また呆れ顔をされるところだった。
「そんなことより続きを教えてダイス」
「ああそうでしたね、じゃあ次はファイアランスで」
そしてまたダイスの魔法を見よう見まねで再現する。再現しようと思ってできるのはすごいよなぁ。自分のことながらも心の中でも拍手を送りたい気分だ。
そうして今日は魔力が無くなりかけるまで見よう見まねでダイスの魔法を再現した。今のところ炎も水も風も土も問題なく再現することができた。とはいっても全部初級魔法の簡単なものばかりだけれど、そんなものがない世界の概念をもっている私からすれば再現が出来るたびに感動ものだ。もっと色んな魔法を使ってみたい、学びたいと心が高揚する。まぁ今日はもう使えないけれど。きっともう一発魔法を放ったら視界がブラックアウトすること間違いなし。全部魔力を使い切ってわざわざ気絶する必要なんてない。そんなことしなくても魔力量は増えるものだ。




