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お父様との和解?

「怖いんだ」

「えっ?」

「痩せると思うと周囲からの視線が怖いんだ。特に大人からの視線はどうしようもなく怖いなと感じる。自分で言うのもなんだけど僕は昔、見目がよかったみたいでね…」


 そう言った彼はわずかに身体を震わせた。顔色だって悪い。いったい過去に何があったのだろう。私は辛いことを思い出させようとしてしまっているんじゃないだろうか。


「弱い自分を変えようと……強くなろうとした。実際僕は学園で1番と言われるほど強くなったけれど、僕にできたことは原因を排除することくらいで、本当の意味で強くなんてなれていないんだ。原因だって排除する必要はなかったのかもしれない。でもあの時の僕は排除する以外に方法は考えられなかったと思う。いや……今の僕でもきっとそうしていたと思う。許せるはずがないんだ」


 遠い昔を思い出しているのだろう。今にも泣き出しそうな顔で、ぶるぶると震える彼を情けないだなんて言えるわけがない。彼はきっと貴族として通用するように頑張ったのだ。過去を乗り越えることができていないことについてなんて私が何か言えるわけがない。それはきっと耐えられないほど辛いことなんだろう。


「お父様ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまったみたいで」

「マジュリスが気にすることではないよ。乗り越えられない僕が悪いんだ。あの時とは年も違うし経験だってもちろん違う。こんな厚い防御壁を身に纏ってびくびくしているのは本当に情けないと思っているんだ。僕に危害を加える人だってもういない。だけど父様や母様と似た視線を向けられるだけで、身体が強張って震えてしまうんだ。もう僕に酷いことをする人なんていない。もし、そういうことをしようと近づく奴がいても、叩きのめす力だって持っているのに僕は…」


 お父様の堪えていたであろう涙がポロポロと床に落ちていく。こんなにも心の中で葛藤していた人をなぜ私はゲス豚だなんて言えたのか。なぜもっとよく話を聞こうとしなかったんだ。この人が最低な行為をするはずがない。するわけがない……きっと彼は誰よりもそういうことをする人を嫌悪している人だ。


「でも僕が幼少期に受けたものは悪いことばかりではなかったとは思う。スキルを授かってね。心眼というものなのだけれど、どれだけ表面上は取り繕っていたとしてもその人の心の闇だとか異常性癖があることが分かるスキルだ。僕の両親がそうだったからね。領民には優しく評判のいい貴族だった。普通に接していれば異常性癖だなんて気づけるわけがないだろうね」


「じゃあもしかして、このお屋敷に7才前後の使用人が多いのって」

「みんな雇い主が隠れた異常性癖をもっている人達だよ。すでに手を出されていそうな子は、心がすでに壊れていたりして僕には助けることができなかったけれど……次の被害に遭いそうな子ぐらい雇い主の目を見ていれば分かるからね。たいていの子は自分で上手に拒否できるほど世の中を知らない。貴族のあしらい方なんて知らない子ばかりだ。だから僕はそれを教えて貴族のあしらい方を彼らが覚えたら辞めさせているよ。本当は僕のように太らせてしまえばそういう目で見られることもないと思ったんだけれど……皆あまり食べられなくてね。今のような形に変えたんだ。ここまでサポートしたのだから後は自分でなんとかできるだろう。辞めさせた後も面倒を見るほど僕はお人好しではないからね。 それに……一番精神が壊れそうな時期はここで保護しているからそこまでのダメージもないのではないかと思う。僕みたいな思いをする子がいていいはずがないんだ」



 私は……他の使用人にそんなことをされていないと聞いていたのに、きっと誰かしらに手を出しているだろうなんて決め付けていた。最初の時の印象を持ち続けたまま。最低なのは私の方だ。お父様は素晴らしいことをしている。それに強い。お父様のやり方で他の子を助けようとしているじゃないか。自分のことだけを守ろうとしているなんてそんなことはない。自分に視線が向かなくてもその視線が向かっている子を助けるくらい立ち向かっているじゃないか。充分過去を乗り越えようとしている。


「お父様は充分立ち向かっているではないですか。その視線が向かっている子を助けているではないですか。お父様はお強いです。だから自分を卑下するようなことは言わないでください」

「マジュリスなんでお前が泣いているんだい」

「だって私はお父様のこと全然しらないで、痩せたらいいだなんて思っていて、お父様の辛いこと全然知らないのに……お父様は悲しい思いをいっぱいしたのに」


 自分でも何をいっているのか途中で分からなくなってしまうくらい、わけのわからない言葉を感情が思うままに口走る。お父様は号泣している。私も彼と同じくらい号泣している。やっと今日私の中でお父様をお父様として認識したような気がする。私の目は曇っていた。酷いことばかり考えていた。私のお父様はきっと誰よりも貴族らしく強く優しい人なんだってことはもう忘れることはないだろう。



 お父様への誤解が解けたあの日から私はお父様がお屋敷にいる間、暇があればひっついてべたべたするほどのお父さんっ子に変化していた。今この瞬間だってお父様の膝の上に乗っている。いわゆるファザコンというやつだ。あんなにブサイクだと思っていた顔も今ではブサかわいいと思う。とくに笑うと完全に無くなる目は堪らない。そんなブサかわいいお父様を見上げているとちょうど目が合った。


「やっぱり痩せようかなぁと思うんだよね」

「いきなりどうしたんですかお父様?痩せる必要なんてないではないですか」

「そうは言っても、このままではいけない気がしてね。あの日から背けていた事実に目を向けてみたんだけれど、変わっていかなければいけないなと思ってね」


 彼はそう言いハハと笑った。その笑顔はこの前と違って憑き物が落ちたかのようにスッキリしていた。お父様が決めたのであれば私がとやかく言うことはできないけれど、無理はしないで欲しいものだ。この前のお父様の話を聞いている限りだと、彼は1人で頑張りすぎてしまうような気がしてならない。1人で頑張ってきた人をまたそうさせるわけにはいかない。それに痩せてお父様が下衆い視線を浴びてそのたびに過去を思い出すかもしれないと思うとどうしようもなく心配だ。


「視線を浴びても大丈夫なのですか」

「慣れる……しかないと思う。それに関してはすぐになんとかできるものではないしね」


 やっぱり心配。そんな不安そうな顔をしながらそんな事を言われたら、止めたくなってしまう。慣れるのではなく、不細工になる以外の選択肢でそんな視線を浴びない方法はないのだろうか。日本のマンガや小説にかっこいいのけど怖いから恐れられているヒーローなんかがいたはず。恐ろしい雰囲気を纏ってしまえばそんな視線も浴びないんじゃないだろうか。


「お父様にそんな視線を向けることができないくらい恐ろしい雰囲気を出してみたらいかがでしょうか」

「う、うーん。とってもいい考えだとは思うけれど、そんな雰囲気出せる気がしないよ。僕には、そこらへんの貴族らしく佇むくらいでいっぱいいっぱいだったんだよ。言葉で色々言うくらいなら簡単なんだけどね」


 確かに。お父様がそんな雰囲気を醸し出せる気がしない。風貌は間違いなく悪役サイドには見えるが、恐ろしさなんてものは微塵も感じない。ラスボスのような威圧感なんてものは勿論ないし、噛ませだと思うくらい弱そうに見えたわけだし。


 だがそんなことはなんとかなるのだ。私だけであればどうすることもできなかっただろう。しかしこのお屋敷にはハイスペック集団がいる。彼らならばきっとお父様が身に纏っている弱々しい雰囲気を威圧感のあるものに変えてくれるはずだ。この前の劇『氷王』は本当に怖かった。視線で人が殺せるとはまさにあのことだ。あの時の視線をお父様に伝授してくれればお父様が下衆い視線を浴びることなんてないはず。


「心配ありません。私にいい考えがありますから。もしお父様がうまく威圧感を出すことが出来なかったとしても多少は改善すると思います」

「そうなのかい?マジュリスがそんなに言うのならばお願いするよ」

「私の使用人達がお父様に伝授できる技がありますから、それを覚えればきっと大丈夫です」

「そうか。ならばその技とやらを教えてもらわないといけないね。暇のある時にでも声をかけておくよ」

「もちろん私からも声をかけておきますから心配は無用ですよ」

「そうか。それは楽しみだ」


 お父様との話を終え部屋に戻り使用人達を集める。彼らにお願いをしたら嬉々として受け入れてくれた。私の使用人達は比較的長くこの屋敷に勤めている者が多いのでお父様の昔の姿を知っている者も何人かいた。昔のような美しい姿を見れるならば、と目を輝かせていたのでなんとかなるだろう。



 さて、今までお父様にばかり目がいっていたけれど、体重が変わっていないのはなにもお父様だけではない。つい今まで嫌いだったお父様にばかり目を鋭くしていたが、お母様も痩せてはいない。食事の量は減らしているのにだ。詳しく言えば、まったく体型が変わっていないなんてことはないのだが……お母様は少し痩せて元に戻ってを繰り返している。要はリバウンドをしているのだ。ちょっと前の私ならば怠惰だなんだと言ってしまっていただろうけど、思い込みはよくないと学んだ。もしかしたらお母様もお父様のように痩せたくない理由があるのかもしれない。



 もしなにかあるとして、それをお母様に直接聞いても教えてくれることはないだろう。お父様のように教えてくれる人ではない。お母様という人は一筋縄ではいかない人なのた。やはり周りからの情報収集からするべきだろう。この屋敷の情報に一番詳しいのはお父様ですが、今はお仕事をしにどこかへ行ってしまったばかり。とすればダイスに聞くしかないか。




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