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はて転生?

 深い眠りから目を覚ますと、たくさん寝たからなのか身体の節々に痛みを感じる。そして辺りが異様にがやがやと騒がしい。


 そして、開けたはずなのに目が開かない。何かに塞がれているわけではなく、なぜか瞼が開かないのだ。


 なにが起こってる? 目は見えず、身体も思うように動かず音も聞こえづらい。そんな状態で今の状況を確認できるわけがない。


 この謎の状況に、気持ち的に追い詰められた私は思わず叫んだ。


 するとその声は、聞き取りづらいながらも、私の耳にも聞こえてきた。だが聞こえてきたその言葉に思わず耳を疑う。


 私が叫んだのは紛れもなく「助けて」という言葉。だが聞こえてきた言葉は「おぎゃあ」という赤ん坊の声だった。


 嘘だと思いたかった。しかしいくら耳が聞き取りづらいとはいえ確かにおぎゃあと聞こえた。間違いなく赤ん坊の声だった。


 なぜ私が赤ん坊に……その経緯を思い出そうとする。しかしなぜか過去の記憶というものが、何一つ思い出すことができなかった。でも確かに私は、赤ん坊ではなく、別の誰かとして生きていたはずだ、と根拠はないながらもそう思った。


 思い出すことはできない。でも思い出そうとすると、じんわりとあたたかい感情が心に染み渡る。それを感じると悪い人生ではなかったんだろうなぁと思う。でもその人生は終わった。私はきっと死んだんだ。そして、この状況は転生というものでは?


 なんて馬鹿なことを考えてしまう。でも実際に私は赤ん坊になっているわけだし、馬鹿なことが起こっている。


 夢だったらいいのに。そう考えているとちょうど良く睡魔に襲われる。さっき起きたばかりなんだけどなぁ、と思いながらもそれに抵抗できるはずもなく再び私は眠りについた。はっきりとは思い出せない誰かを思いながら。


 



 ひと眠りから目を覚ますと、やはりなにも変わってはいなかった。数ヶ月ほどはこの状態で我慢しなければならないってことだよなぁこれ。


 おそらく私は転生というものをしたわけだけれど、この国は日本ではなさそうだ。明らかに聞いたことのない意味不明な言葉がとびかっている。


 問題はその言葉が、英語でもフランス語でも中国語でもなさそうだということ。ふと、‘‘異世界’’という言葉が不意に頭によぎる。いやいや何馬鹿なことを考えているんだ、と自分でも思うけれど、どうしてだかそんな気がしてならないのだ。


 それを知るためにも早くこの世界のことを知りたい。その気持ちは大きいが私赤ん坊だし。目見えないし。しかしこんなにもゆったりとした時間をすごすのなんて、きっと今のうちだけだ。この世界のことを知るのはまだまだ先でいい。今はこの時間をゆっくりと過ごそう。





 あれから6ヶ月ほどたち分かったことは、やはりここが異世界なんだということ。私はスキルという地球ではありえないものを手に入れたわけだ。といってもしょぼいんだけれど。私が手に入れた時計というスキルは時間が分かる。


 次のご飯いつかなーと考えていたらいつの間にかこのスキルを手に入れていた。赤ちゃんは泣き叫べば、大人がご飯なのか眠いのか漏らしたのか機嫌をとりながらなんとかしてくれるものだ。けれどなんせ前世があったはずの私は、お腹空いたくらいで泣くのは申し訳ないと思ってしまったわけだ。


 そうした所、泣かない私の様子を見てある程度の間隔をあけて、私にご飯を与える時間というものができた。それをまだかなと心待ちにしていたところこのスキルがあらわれたというわけだ。 

 

 ちなみにこの時計というスキル、アラームもかけられるという便利機能付き。しかも自分の頭の中にしか響かないので人様に迷惑をかけることがない素晴らしい機能だったりする。


 地味といえば地味かもしれないけれど時計があるということが当たり前だった記憶がある私にはとても助かるスキルだ。時間も分かることだしね。


 前世の記憶といっても思い出のようなもの相変わらず分からないままだ。分かるのは一般的な常識のみ。


 あれから6ヶ月ほどたった。暗いか明るいかぐらいしか分からなかった目は6ヶ月もあれば、少しぼんやりとかすみががって見えるくらいで、ほぼ問題ない。


 がしかし今度はまた別の問題が出てきた。言葉が分からないのだ。意味を理解しようともまったくもって理解不能。異世界のハードルとはこんなにも高いのか。


 だけどひとつだけわかる言葉がある。‘‘マジュリス’’私にこの言葉をかけ笑っている人が多いので、おそらく私の名前なんじゃないかと思う。名前が分かるだけよしとしよう。


 言葉からの情報はなにも分からないけれど、視覚からの情報である程度は自分の状況は把握している。


 とりあえず私が生まれたこのお家はお金持ちだとはっきり分かる。趣味はとてつもなく悪いけれどモンスターらしき毛皮の絨毯がしいてあったり、高そうな置物がたくさんある。正直シャチホコにそっくりなこの金ピカにきらめく置物はどうかと思う。


 そして他にもお金持ちと分かる要因がもう1つ。メイドさんだ。1人いるだけでもすごいと思うのに、この空間にいるだけでも30人ほどのメイドさんを見かける。使用人の数はいったい何人ほどいるのか気になる所だ。覚えられる気がしない。


 ベッドメイキングをする人とか私に乳をくれる人とか用事によって専用の人がいるのだ。お金持ちってすごい。


 そして知りたくなかったこと。いや今も知ろうとしていない目をそむけていることが1つ。それは……



「バンッ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべた豚さんが、ドスドスとこの部屋に入ってくる。そして私に向かって何か話している気がする。言葉は分からないけれどきっとこの世界の言葉でブヒブヒ言っているに違いない。私には分かる。


 そうですねー。ブヒブヒですねー。なんて豚さんと謎の会話を頭の中でしているとらいきなり金色の文字が視界に現れた。豚さんの下に出たそれは、まるでテロップのようだ。見たことのない文字の文章とその下に日本語の文章。


「マジュリス。パパがいなくて寂しかっただろう? マジュリスのために早く仕事終わらせてきたんだ今日はどんな話が聞きたいかい?」


 絶望だ。知りたくなかった。予想はしていたけれど。毎日のように私に話しかけてくる高そうな趣味の悪い服を着た豚のような男。この人がこの家の主なんだと。だけど私は言葉が分からないから実は親ではないなんて可能性もゼロじゃない、とその可能性にかけていたんだ。


 あぁ嫌だ認めたくない。こんな見た目の人が親だなんて。人の形はしているけれど、もはやもう人じゃないし、豚だし。どっからどう見ても豚だ。こんなことで頭を悩ませたくはないがどうしようもない。ショックで視界が暗くなっていく。目が覚めたら豚じゃなくて人がいるといいんだけれど。




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